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『展覧会図録の書誌と感想』について

『展覧会図録の書誌と感想』について

大屋 幸世

 著者の大屋幸世氏が現在体調を崩され加療中でペンを執れないため、内容的には本書執筆の意図が余すところなく語られている「あとがき」を掲載させて頂く。その前に、本冊が八冊目となる「大屋幸世叢刊」刊行に込められた大屋氏の思いを、編集を担当させて頂いている者として紹介させて頂きたい。

 大屋氏は長く鶴見大学で近代文学を講じられてきたが、その研究姿勢は極めて文学的なものであり、徹底した資料収集を基本とするものであった。研究姿勢としてはやや古い型に属し、論文発表や教務上の雑務もコンピュータ使用が前提となるなかで早期に辞職し、在野の研究者の道を選ばれた。
 大学や研究会に属さない立場で、自由に研究や調査の成果を発表する方法として、私家版という手段を計画されたのである。研究者の私家版としては天理大学図書館の書誌学者木村三四吾氏にも例があり、同様に装丁は簡素を旨とされている。現在の研究界へのある種のメッセージを含んだものである。


                                     日本古書通信社 樽見 博


本書まえがきより


 美術展覧会などの図録の書誌作製の試みは、いままでなかったのではないか。私はこのような試みがなくてはならないと思っている。実はひとつ心配していることがある。現在、日本で刊行、出版されていた図書のすべては、原則として国立国会図書館へ納本することが義務付けられている。それに対して図録はどうなっているのか。国立国会図書館へ原則納められているのか。あるいは東京国立博物館、国立西洋美術館など公立の博物館、美術館へはどうなっているのか。というのも、ここ20年以前からの図録に載せられる美術研究者などの解説文は、ほとんど研究論文といってもいいほど高級なものとなっていて、美術評論、研究のための重要な資料なのである。ぜひ参照されねばならない。また図録の作品解説を読むと、そこには各作品の世界各地の展覧会出品の記録が掲載されている。すると、日本の出展記録も必要となる。そのためには図録が記録として重要な役を荷なってくる。こういう沢山の面から図録の保存は緊急の課題となってくる。現在、美術展覧会などはどの位開催されているのか。「藝術新潮」掲載の展覧会案内を見ると、月に60件近くの展覧会があるようだ。その全てに図録があるわけではなかろうが、それでも3、40冊はあるのではないか。年間にすると相当の数になる。私がここに作製した書誌掲載の展覧会の数は多分全展覧会の1%にも満たないのではないか。全展覧会の図録書誌が求められる。


 ところで書誌と言っても、私は随分手を抜いている。たとえば、儀礼的な序文はほとんど掲載しなかった。そこには政治家、外交関係者、美術館等の管理者などの名がある。また主催者は明記したが、官庁、大使館などの後援機関の名称も省いた。しかし、その展覧会の社会的、政治的背景を示すこれらは、完全な書誌のためにはぜひ記載しなくてはならない。これらは後来の完全な書誌を作製する人のために残して置いた。


 ところで〈感想〉として、私の展覧会に対する感想を置いた。繁、簡さまざまである。なかにはピカソに対する疑義、横山大観作富士図に対する批判など、いらざることも書いた。これらは、客観的であるべき書誌を汚すものであるかも知れない。孔子は70にして矩を越えずと言った。私のこの〈感想〉は明らかに矩を越えている。しゃべり過ぎている。しかし70を越え、75歳に近くなった私としては、言いたいことを言うことは許されると考える。老いの繰り言である。私は文学を専門として学んできた。しかし過去を振り返ると、文学とともに、あるいはそれ以上に美術作品に接して来た。音楽がそれに次ぐ。そういう私にとって、多分これが最後になるだろう、私の美術観を思っきり述べたのである。何等新見があるわけはない。あたり前の美術評価かも知れないが、書き残したまでである。                              


tenran


大屋幸世叢刊8『展覧会図録の書誌と感想』 大屋幸世 著
日本古書通信社 定価:2,200円+税 好評発売中!
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『小学館の学年誌と児童書』

『小学館の学年誌と児童書』

野上 暁

 1922年(大正11年)に『小学五年生』と『小学六年生』の9月号から創刊された小学館の学年別学習雑誌は、24年に『小学四年生』、25年に『セウガク一年生』『セウガク二年生』『せうがく三年生』をそれぞれ創刊して、ラインナップを完成した。しかし児童数の激減と子どもの雑誌離れが重なって、『小学三年生』以上は休刊のやむなきに至り、現在は『小学一年生』と『小学二年生』が残るのみとなった。


 ぼくは1947年に小学館に入社して、『小学一年生』編集部に配属されて以来、他誌への異動もあったものの、累計で15年間も同誌の編集に携わり、同誌編集長を7年務めるなど23年間にわたって学年別学習雑誌で編集にあたって来た。その後も児童図書や一般書籍の編集部長や役員や、関連会社・小学館クリエイティブの社長などを歴任し、小学館とその関連会社などで45年近く仕事をしてきた。そんなことから、「出版人に聞くシリーズ」でインタビューしたいと小田光雄さんからお話をいただいた。


 論創社の会議室で、小田さんのインタビューを受けたのが昨年の9月20日。前半は主に小学館に入社するまでの話になったが、今年の3月に刊行された『子ども文化の現代史 遊び・メディア・サブカルチャーの奔流』(大月書店)の原稿を書き上げたばかりだったから、それとの重複に気を使ったが、小田さんの巧妙な誘導により、ほとんど忘れていた読書体験なども思い起こすことができた。


 ぼくが配属されたころの『小学一年生』は、入学児童数に占める売り上げ部数を浸透率と言って、全一年生に占める購読率が50パーセントを超すのを一つの目標にしていた。71年からは、4月号や正月発売の2月号は100万部を越えていて、平月の発行部数も急上昇中であった。そして72年1月号で浸透率60パーセントを越え、日本中の小学一年生の3人に1人が購入するという驚異的な記録を打ち立てた。同年4月号では、54,5パーセント、翌73年4月号は57,9パーセントで、浸透率は3年連続で50パーセントを越え、72年から11年間は発行部数100万部を超えていた。


 このように、一時代を画した世界でも類を見ない学年別学習雑誌なのだが、出版史的にはどうしても地味なジャンルで、これまで十分に検証されてこなかった。小田さんはそこに着目して、インタビューを申し込んでくれたのだが、ぼくの学年誌や児童書の編集体験ばかりか、戦後の児童文学の流れや子どもの本の現在が抱える問題点まで見事に引き出してくれた。



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『小学館の学年誌と児童書』 野上暁 著
 論創社 定価:1,600円+税 好評発売中!
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『世界史の中の日本国憲法』-立憲主義の史的展開を踏まえて

『世界史の中の日本国憲法』-立憲主義の史的展開を踏まえて

京都大学名誉教授 佐藤幸治

 『世界史の中の日本国憲法 ——立憲主義の史的展開を踏まえて』は、2015年6月6日に東京大学で行われた「立憲主義の危機」と題するシンポジウムの基調講演をもとに加筆したものです。昨年暮に講演依頼があったとき戸惑ったのですが、その頃『立憲主義について』を書いていたこともあって、何かのご参考になればと思い、お引き受けしました。当日は私の予想をはるかに超える方々にご来場いただき、論題への国民の皆さんのご関心の強さを痛感させられました。


 本書の中心課題は、終戦70年を迎えて今われわれは「日本国憲法」をどう受け止めるべきかということです。日本国憲法が占領軍の強い指導の下に制定されたことへのこだわりと、内容への不満が重なって、日本国憲法への否定的態度が政治の世界などで根強く存続し、そのことが日本国憲法、ひいては日本という国家の真の安定化に暗い影を落としてきました。終戦70年を迎えて、われわれはこうしたことに区切りをつけ、日本国憲法を日本という国の「土台」としてより明確に位置づけ、様々な立場において善き社会を築いていくことを改めて誓う契機として欲しい、と私は強く思います。特に二つのことに言及しておきたい。


 一つは、これまで政府・国民は様々な困難・問題に直面しつつも、日本国憲法を施行後70年近くにわたって支持し、その真面目な運用に努め、戦後の復興と繁栄を築いてきたという事実を重く受け止めるべきであるということです。そこには、明治憲法下で一時的にせよ立憲主義の成果(大正デモクラシー)をみたにもかかわらず、容易に軍国主義・全体主義にからめとられてしまったことへの深い反省があったはずです。


 二つには、日本国憲法は、政治権力の恣意的行使を抑え自由で公正な社会を実現しようと自覚的に取り組んだ古代ギリシャ・ローマを起源として現代に至る立憲主義の歴史の成果を最もよく具現している憲法の一つであるということです。世界の定評のある第一級の立憲国家は、国の「土台」としての憲法の根幹に敬意を払いつつ、時代に柔軟に対応してきた国々です。「立憲主義」憲法こそ国家の持続的繁栄の要(かなめ)であるといえます。
 本書を通じて、悲劇と苦難に充ちた世界にあって、自由と公正(正義)を求めて苦闘してきた人類の歴史と人間のドラマの一端に触れ、将来に立ち向かう何かを得ていただきたいと願っています。


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 『世界史の中の日本国憲法』-立憲主義の史的展開を踏まえて
 佐藤幸治 著 左右社 定価:1,000円+税 好評発売中!
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『立憲主義について 成立過程と現代』
 佐藤幸治 著 左右社 定価:本体1800円+税 好評発売中!
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2015年8月25日  第187号

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☆INDEX☆
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1.『高校野球100年を読む』ポプラ新書 ビブリオ 小野祥之
2.『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』苦楽堂
                          平野義昌
3.「春画展」について 永青文庫 学芸課長 三宅秀和

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(139)】━━━━━━━━━

『高校野球100年を読む』ポプラ新書

                ビブリオ 小野祥之

今年、高校野球が100年目を迎え出版界ではちょっとした高校野球
ブームです。
名場面、名選手、名エピソードが盛り込まれた本が多数出版されま
したが多くの本にはどうしても焼き直し感がつきまといます。
 何か新たな視点がないだろうかという模索の中で古書店主である
私に白羽の矢が当たりました。古書店を営んでいると、そこから見
えてくるものがあります。ファンとも記者とも違う独特の視点です。
店でお客さまに話していると妙に感心されることも多々あり、まと
めてみると面白いのではないかと常々考えていました。そこに思い
がけない出版の話が持ちあがったのです。



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 『高校野球100年を読む』小野 祥之 著、野球太郎編集部 著
  ポプラ社刊 定価:842円(税込) 好評発売中!
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━━━━━━━━━━━【自著を語る(140)】━━━━━━━━━━

『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』苦楽堂

                       平野義昌

 神戸市の新刊本屋「海文堂書店」は2013年9月に閉店しました。
私はここに10年間在籍しただけです。何でも知っているかのような
顔をして書きましたが、共に働いたスタッフたち、OBたち、ずっと
本屋を応援してくれた皆さんの協力がありました。出版社は昨年神
戸で創業したばかりです。石井代表は編集者時代から長年にわたる
海文堂サポーターで、彼の手助けによって本書を完成することがで
きました。



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『海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録』平野義昌 著
 苦楽堂刊 定価:1900円+税 好評発売中!
 http://kurakudo.co.jp/

━━━━━━━━━━━━【学芸員登場】━━━━━━━━━━━

 「春画展」について

               永青文庫 学芸課長 三宅秀和

「春画」は、人が愛を交わす様子を描いた絵画である。日本では
「枕絵」や「笑い絵」などといい、平安時代には「偃息図」(おそくず)
と呼ばれ、古くから愛好されてきた。初期の春画は人の手で線や色
が施された「肉筆」で、上層の人々だけが享受できたと思われるが、
江戸時代に入ると浮世絵版画、版本が普及して庶民にまで広まった。



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 『春画展』永青文庫
  2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)
  前期:9月19日(土)~11月1日(日)
  後期:11月3日(火・祝)~12月23日(水・祝)
   ※会期中展示替えあり
   ※18歳未満は入場禁止
  会場:永青文庫 東京都文京区目白台1-1-1 TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
  休館日:月曜(祝休日の場合は開館)


  永青文庫 http://www.eiseibunko.com/index.html
  「春画展」http://www.eiseibunko.com/shunga/index.html



━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━

大屋幸世叢刊8『展覧会図録の書誌と感想』 大屋幸世 著
日本古書通信社 定価:2,200円+税 好評発売中!
http://www.kosho.co.jp/kotsu/


『小学館の学年誌と児童書』 野上暁 著
 論創社 定価:1,600円+税 好評発売中!
 http://www.ronso.co.jp/index.html

『世界史の中の日本国憲法』-立憲主義の史的展開を踏まえて
 佐藤幸治 著 左右社 定価:1,000円+税 好評発売中!
http://sayusha.com/catalog/books/p=9784865281279c0032


━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━


8月~9月の即売展情報


https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init


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 次回は2015年9月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその187 2015.8.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:殿木祐介
編集長:藤原栄志郎


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『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』

『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』

平野義昌

 神戸市の新刊本屋「海文堂書店」は2013年9月に閉店しました。私はここに10年間在籍しただけです。何でも知っているかのような顔をして書きましたが、共に働いたスタッフたち、OBたち、ずっと本屋を応援してくれた皆さんの協力がありました。出版社は昨年神戸で創業したばかりです。石井代表は編集者時代から長年にわたる海文堂サポーターで、彼の手助けによって本書を完成することができました。


多くの皆さんが海文堂の閉店を惜しんでくださったことがありがたく、改めて歴史をたどり、関係者の話を聞きました。書名に「海の本屋」とつけたように、1914年に海事図書の出版・販売から始まりました。原稿に取りかかっている最中は、海文堂が海港都市神戸の発展と共に歩んできた、という「大きな歴史」のヒトコマを書いている気分でした。ところが、書き終えて読み直していると、お客様方それぞれの本屋への思い、スタッフたちの日常の仕事など、細部の重要さに気づきました。
私たちスタッフは「熱狂的」な閉店時の混雑や賑わいを、ある意味醒めた感じで受け取っていました。お客様の中には「ローカル線廃止」のようなノリの方もいらしたと思います。しかし、顧客はもちろん、何らかの事情で足が遠のいていた方も懐かしい思い出を語ってくださいました。皆さんの記憶のヒトコマ=「小さな歴史」の中に海文堂は存在していました。


 スタッフたちも本や棚の話よりもお客様との関係を語っています。レジや案内カウンターでの接客、顧客との世間話など、私たち本を「売る者」は「読む者」と深く関わってきました。また、「書く者」「作る者」も巻き込んでイベントを開催し、呑み会までしていました。地元の小さな出版物を大切にし、阪神淡路大震災震災棚を続けてきたことで、東日本大震災後は東北の出版社・人とつながることができました。OBが語っています。
「本屋というのは、本を通して人と人をつなぐ仕事だと思います」
潰れた本屋ですが、多くの皆さんに読んでいただけたらうれしいことです。


 海文堂は「古書波止場」を誘致したほか、古本棚も常設し、古本市も定期的に行いましたので、古本屋さんと濃密な関係を持っていました。そのおかげで古本屋さんが拙著を積極的に販売してくださっています。古本屋さんも新刊本屋と同じく強い味方、頼りにしています。地元神戸では美術画廊、カフェ、バーでも販売してもらっています。販売条件などは苦楽堂までお問い合わせください。よろしくお願いいたします。


http://kurakudo.jp/
メール: nob@kurakudo.jp
Tel & Fax:078-392-2535



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『海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録』平野義昌 著
 苦楽堂刊 定価:1900円+税 好評発売中!
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『高校野球100年を読む』ポプラ新書

『高校野球100年を読む』ポプラ新書

ビブリオ 小野祥之

今年、高校野球が100年目を迎え出版界ではちょっとした高校野球ブームです。
名場面、名選手、名エピソードが盛り込まれた本が多数出版されましたが多くの本にはどうしても焼き直し感がつきまといます。
 何か新たな視点がないだろうかという模索の中で古書店主である私に白羽の矢が当たりました。古書店を営んでいると、そこから見えてくるものがあります。ファンとも記者とも違う独特の視点です。店でお客さまに話していると妙に感心されることも多々あり、まとめてみると面白いのではないかと常々考えていました。そこに思いがけない出版の話が持ちあがったのです。


「私は本を整理する際に一つの方針を決めています。編年体で並べること。このことによって見えてくるもの、それが古書店の視点です。学者やコレクターも文献リストは作れるでしょう。が、売れる売れないまでを把握することは不可能です」。
これは前書きに書いたことなのですが、このようなという話をしていると「それで行きましょう!」ということになりました。


全国高等学校野球選手権大会が100年目を迎えるということはこの大会にまつわる本も100年の歴史を持つということになります。100年という年月は歴史を語るに十分な時間です。多岐にわたる高校野球本を分類し直し、本を通して甲子園の歴史を振り返ってみようというのがこの本の試みです。古書を通じて一つの現象を捉えるというのは実に画期的なのではないかと思います。


しかし、出版に先だって私がとても心配していたことがありました。果たして「野球の本の本」を買う人がどれだけいるのだろうか?ということです。出版元の編集者は「絶対に売れます!」と自信満々に言っていましたが、「せいぜい500部くらいじゃないの?」と私は半分本気で言っていました。
ところが私自身の予想は大幅に外れ、出版されてから複数のメディアから取材や出演の要請があり朝日新聞・読書欄では大々的に取り上げられました。普段、何げなく仕事として続けていることがこのような形で日の目を見ることとなり古書店主という立場も悪くないと改めて思っています。



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『高校野球100年を読む』小野 祥之 著、野球太郎編集部 著
ポプラ社刊 定価:842円(税込) 好評発売中!
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「春画展」について

「春画展」について

永青文庫 学芸課長 三宅秀和

「春画」は、人が愛を交わす様子を描いた絵画である。日本では「枕絵」や「笑い絵」などといい、平安時代には「偃息図」(おそくず)と呼ばれ、古くから愛好されてきた。初期の春画は人の手で線や色が施された「肉筆」で、上層の人々だけが享受できたと思われるが、江戸時代に入ると浮世絵版画、版本が普及して庶民にまで広まった。


日本では春画は、これまで展覧会のテーマとされてこなかった。展覧会以前に、研究対象とするにも厳しい状況があったからである。石上阿希氏の『日本の春画・艶本研究』(平凡社、平成27年)が春画の研究史を簡潔明快にまとめているが、状況が変わり出したのは平成元年(1989)からである。それまでは研究書でも図版に何らかの修正があったが、この年刊行の林美一氏の『江戸枕絵師集成 国貞』(河出書房新社)は修正の全くない完全な状態で図版が掲載された。また平成3年(1991)には学習研究社が『浮世絵秘蔵名品選集』を無修正の完全復刻画集として刊行し、以後、春画を掲載する図書や雑誌から修正はなくなった。


本展は日本初の本格的な春画展となるが、2013年秋に大英博物館で開催された「春画 日本美術の性とたのしみ」を日本に巡回させる試みが発端である。春画展日本開催実行委員会によると、大英博物館の後に帰国展を行おうと20以上の施設に日本展の開催を働きかけたが実現に至らなかったという。日本での春画展開催のハードルは高かったといえるが、その一方、平成10年(1998)の福岡市美術館の「大歌麿展」以降、徐々に春画は展覧会で出陳されるようになっている。昨年も 岡田美術館、 東洋文庫で展示され、今夏の福岡市美術館の「肉筆浮世絵の世界 美人画、風俗画、そして春画」展では29点も展示される。永青文庫の春画展も、この流れに位置づけられよう。


とはいえ、春画を実見したことのある方はまだ少数だろう。春画は嫁入り道具とされたり、火難を避けると考えられたりしためでたいもので、人生儀礼に際して調えられ、贈られたりした。その一方、気分転換を図るもの、憂さを晴らし、心を和らげるものでもあった。大名家の発注と思しい作品はその時代の技術の粋を尽くして作られている。教訓書や医学書、芝居、西洋の地理書をパロディ化したものもあり、江戸文化を知るのにも有用である。多くのご所蔵者にご協力賜り、文字どおり「肉筆の名品」、「版画の傑作」の数々をご出品いただけることになった。この機会にぜひ多くの方に実際にご覧いただければと願っている。



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『春画展』永青文庫
2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)
前期:9月19日(土)~11月1日(日)
後期:11月3日(火・祝)~12月23日(水・祝)
※会期中展示替えあり
※18歳未満は入館禁止
会場:永青文庫 東京都文京区目白台1-1-1 TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
休館日:月曜(祝休日の場合は開館)

永青文庫 http://www.eiseibunko.com/index.html
「春画展」http://www.eiseibunko.com/shunga/index.html

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2015年7月24日  第186号

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☆INDEX☆
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1.『書籍の宇宙 広がりと体系』     鈴木俊幸
2. 百万塔陀羅尼からクウネルまで    松田友泉
3. 「2015年前半の古ツアをふり返る」  小山力也

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━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━━

『シリーズ本の文化史2 書籍の宇宙―広がりと体系』



                       鈴木俊幸



 このシリーズは、「書物・出版と社会変容」研究会を母体として
いる。2015年7月現在、すでに98回続いているこの研究会に参集して
きた面々による蓄積、またそこから広がる人脈に基づいて発想された
企画で、今のところ6巻までの原稿が出そろい(つつあり)、順次刊
行の予定、本書はその第2巻である。内容は以下のとおり。

続きはこちら
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 『書籍の宇宙 広がりと体系』鈴木俊幸 編
  平凡社刊 定価:3,000円+税 好評発売中!
  http://www.heibonsha.co.jp/book/b185097.html


━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━━

 百万塔陀羅尼からクウネルまで


                        松田友泉



 『BOOK5』という雑誌で「古本即売会へようこそ!」という特集を
企画・編集しました。いったいなぜこのような特集を組もうと思いつ
いたのかは、よく覚えていません。
 古本即売会(古本市、古本まつり等名称があります)は、全国各
地様々な場所で行われています。
 今回の号では、福岡(徘徊堂×古本や檸檬)、名古屋(倉庫会)
、東海地区(太閤堂書店、徒然舎、古本屋ぽらん、古本うみうさぎ堂
のユニット「古本ジャンボリーズ」)を取材。鹿児島(つばめ文庫)、
関東圏(古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也)をレポートして
いただきました。

続きはこちら
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『BOOK5 VOL.17 特集 古本即売会へようこそ!』
  発行:トマソン社 定価:800円+税 好評発売中!
  http://tomasonsha.com/?pid=89870838


━━━━━━━━━【古本屋ツアーインジャパン】━━━━━━━



古本屋ツアー・イン・ジャパンの2015年上半期活動報告

               古本屋ツーリスト 小山力也

いよいよ八年目に突入した自主的古本屋調査であるが、今回は古
本屋の話ではなく、古本の話から始めたい。何故ならこの毎日古本
屋を求めて街を彷徨う男を、古本の女神が哀れに思ったのか、突然
にっかりと微笑みかけてくれたからである。 時はまさに元日、場所
は西武新宿線沿線にある年中無休のリサイクル系古本屋さん。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=2339


『古本屋ツアー・イン・ジャパン』 2008年5月からスタートした、
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す
無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャル
フ」の屋号で古本販売に従事することも。ブログ記事を厳選しまと
めた『古本屋ツアー・イン・ジャパン 全国古書店めぐり 珍奇で愉
快な一五〇のお店(原書房)』と、神保町についてまとめた『古本
屋ツアー・イン・神保町(本の雑誌社)』が発売中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net


━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━


 『高校野球100年を読む』小野 祥之 著、野球太郎編集部 著
  ポプラ社刊 定価:842円 好評発売中!
 http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=82010620


 『海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録』平野義昌 著
  苦楽堂刊 定価:1900円+税 好評発売中!
  http://kurakudo.co.jp/


 『春画展』永青文庫
  2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)
  前期:9月19日(土)~11月1日(日)
  後期:11月3日(火・祝)~12月23日(水・祝)
   ※会期中展示替えあり
  会場:永青文庫 東京都文京区目白台1-1-1 TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
  休館日:月曜(祝休日の場合は開館)

  永青文庫 http://www.eiseibunko.com/index.html
  「春画展」http://www.eiseibunko.com/shunga/index.html



━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━


7月~8月の即売展情報
https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=16

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 次回は2015年8月中旬頃発行です。お楽しみに!
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*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその186 2015.7.24


【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/


【発行者】
 広報部:殿木祐介
編集長:藤原栄志郎

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2015年7月11日 第185号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
   古書市&古本まつり 第33号
     。.☆.:* 通巻185・7月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回の配信になりました!

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛けください。
次回メールマガジンは7月下旬に発行です。

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━━━━━【7月10日~8月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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東京愛書会

期間: 2015/07/10~2015/07/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
    
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古書愛好会

期間:2015/07/11~2015/07/12
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
    
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有隣堂イセザキ本店・古書ワゴンセール(神奈川)

期間: 2015/07/11~2015/07/30
場所:有隣堂伊勢佐木町本店

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本の楽市

期間: 2015/07/11~2015/07/26
場所:座・高円寺 エントランスホール
   杉並区高円寺北2-1-2/JR高円寺駅 北口から徒歩5分

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大サブカル市(仮) (大阪府)

期間:2015/07/12~2015/07/20
場所:ツイン21 1F特設会場 
   大阪市中央区城見2丁目1-61

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有隣堂センター南駅店・古書ワゴンフェア(神奈川)

期間:2015/07/13~2015/07/22
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売

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第26回 リブロ池袋本店 夏の古本まつり

期間:2015/07/14~2015/07/21
場所:西武池袋本店 別館2階 西武ギャラリー

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第37回 丸栄古書即売会(愛知県)

期間:2015/07/16~2015/07/21
場所:丸栄百貨店 8F 大催事場 
   名古屋市中区栄三丁目3番1号

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趣味の古書展

期間:2015/07/17~2015/07/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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たにまち月いち即売会(大阪府)

期間:2015/07/17~2015/07/19
場所:大阪古書会館1F 大阪市中央区粉川町4-1

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第3回 カジル横川古本市(広島県)

期間:2015/07/20~2015/07/26
場所:JR横川駅 フレスタモールカジル横川 1F
   広島市西区横川町3-2-36 JR横川駅隣接

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2015/07/23~2015/07/26
場所:JR浦和駅西口下車 
   さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

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和洋会古書展

期間:2015/07/24~2015/07/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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五反田遊古会

期間:2015/07/24~2015/07/25
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2015/07/25~2015/07/26
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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我楽多市(がらくたいち)

期間:2015/07/31~2015/08/01
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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倉庫会(名古屋)

期間:2015/07/31~2015/08/02
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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反町古書会館展(神奈川)

期間:2015/08/01~2015/08/02
場所:神奈川古書会館1階 特設会場
横浜市神奈川区反町2-16-10

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新宿古書展

期間:2015/08/02
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22  
※1日のみの特別開催です

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城北古書展

期間:2015/08/07~2015/08/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2015/08/08~2015/08/09
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9  

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第28回 下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2015/08/11~2015/08/16
場所:下鴨神社糺の森 
京都府京都市左京区下鴨泉川町59

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第24回 東急東横店 渋谷大古本市

期間:2015/08/13~2015/08/18
場所:東急百貨店東横店 西館8階 催物場  
渋谷区渋谷2-24-1

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日本の古本屋メールマガジンその185 2015.7.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:殿木祐介

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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2015年上半期活動報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2015年上半期活動報告

古本屋ツーリスト 小山力也

いよいよ八年目に突入した自主的古本屋調査であるが、今回は古本屋の話ではなく、古本の話から始めたい。何故ならこの毎日古本屋を求めて街を彷徨う男を、古本の女神が哀れに思ったのか、突然にっかりと微笑みかけてくれたからである。 時はまさに元日、場所は西武新宿線沿線にある年中無休のリサイクル系古本屋さん。神保町・早稲田・本郷と、お正月休み中の日本三大古本屋街を見て回った後、疲れた足を引き摺り商店街の片隅にあるお店の店頭棚にたどり着くと、目についたのは185ミリ×150ミリの少々傷んだ80ページ余の変型本。引き出してみるとそれは椎の木社「随筆/井伏鱒二」であった。


裏表紙に貼られた値段シールを見ると五百円とある。わりと珍しく高価な本なのだが、この時はそんなことも知らず『五百円か、高いな…』と無知に思う。しかし見返しを開いてみると、そこには墨書きで文字がズラズラと書き連ねてある。ドキリとして慌てながら目を走らせると、それは驚くことに井伏鱒二から三好達治への献呈署名で、一文はこの本の序文に三好の詩を使わせてもらった謝辞であった。瞬間、肌が泡立ち背筋に電撃が走り、その衝撃は脳内でバシッとスパークした! ということはこの本は、三好達治の旧蔵書でもあるのか! こんな風に、日本近代文学史の一ページに、己が唐突に無造作に、手を触れているなんて! こんな貴重な本を掘り出せるなんて! このリアリティのない状況を信じられないまま、ソワソワしながら本を購入し、強く冷たい風が吹く黄昏の帰り道を、途中何度も足を止め、本を取り出し、見返しを眺めることを繰り返す。この本が、古本に関わって来た長い人生の中で、間違いなく一番の掘り出し物となった瞬間である。


そして同時に、改めて古本屋で古本を買う楽しさを再認識し、古本屋の店先には、まだまだ夢が転がっているのだ、と強く思うようになる。  この出来事があってから、古本仲間に会うと『もう一生分の運を使った』『もうすぐ死ぬのではないか』などとからかわれたものだが、自分もちょっとだけは、確かにそんな風に思っていた。もうあれ以上の強運と感動はないであろうと。しかし、古本の女神は驚くことに、まだまだ軽く微笑み続けてくれていたのである。今年六月までに、集団形星「風光る丘/小沼丹」(三千円)、新正堂「熱線博士/蘭郁二郎」(八千円)、雄山閣YZミステリ「四枚の壁/楠田匡介」(三千円)、竹村書房「皮膚と心/太宰治」(五百円)などを次々と見つけ出し、夢にまで見た本たちを、相場より遥かに安値で手に入れる快感を獲得していく。


もっとしっかり頑張れば、もしかしたらセドリで暮らしていけるのではいかと錯覚するほどの快進撃であった。もういい加減女神にはそっぽを向かれるかもしれないが、めげずに後半戦も素晴らしい本をハイエナのように求め、巷の古本屋を彷徨って行きたいと、考えている  またそれらの微笑みとは別に、四月には別のじんわりした微笑みがあった。それは書評家&古本ライターの岡崎武志氏が秘蔵していた、夭折の芥川賞作家・野呂邦暢の写真をまとめ、「盛林堂書房」から岡崎氏と共編集で、四月に出版出来たことである。その名も「野呂邦暢古本屋写真集」! 


芥川賞作家が異様なほどの情熱を秘めて撮った、神保町・早稲田・池袋・渋谷・広島の古本屋の、店構えや店頭棚、さらには本を読む人たちを捉えた、前代未聞の古本屋写真集! 古本屋についてのエッセイも多い野呂は、憧れの作家のひとりであるが、まさか古本屋を追い求めて生きて来たら、こんな素晴らしい写真集を編むチャンスに恵まれるとは。まさに人生の玄妙さと幸せを味わえる楽しい仕事であった。おかげさまで五百部はあっという間に完売し、将来古書価値の上がる本を作れたと今でも自負している。


 もちろんそんな怒濤の半年を古本探しや編集作業だけに費やしていたわけではない。掘り出し物発見は、あくまでも連綿と続く古本屋調査の副産物なのである。とは言っても今年はまだ地方にそれほど遠征出来ていないのが現状である。一月に雑誌の取材を兼ねて念願の「万歩書店」全店ツアーと下諏訪のサブカル隠れ部屋「正午の庭」、二月に静岡の写真関連に強い「壁と卵」と休眠中の布佐の古民家古本屋「利根文庫」、三月の京都「中井書房」と「水明洞」、五月に新潟の沼垂市場跡に移転した「FISH ON」が目立った遠征ツアー先であり、例年に比べると極端に少ない。これは後半戦に、どうにか巻き返したい大きな課題である。


だが別にツアーをさぼっているわけではなく、ほぼ毎日古本屋を訪ね歩く日常は変わらない。最近は『古本屋消息』と称し、一度ツアーしたお店を再訪することが多くなっているのだ。主に関東近県のお店に絞られているが、訪ねた当時にすでに存在の危うかったお店や、情報がネットから消えたお店など、気になるお店を自らの足で再び回っているのである。今のところその現存率は約五十パーセントといったところだが、いつの間にか跡形もなく消滅したお店に思いを馳せ、またしぶとくたくましく現存するお店に再会したりするのは、古本屋界の片隅で起こっているさざ波を目にしているようで、どうにかこれら小さなお店の記録を残して行きたいと、入れ込みながら楽しみ、足を動かし続けている。


実はこの二周目ツアーは、私にとって重大な意味を持っている。それは今年の秋に出す予定の、二冊の単行本のための予備調査なのである。一冊は古本屋ツアーの骨格としてある、面白いお店や驚きのお店を集めたもの。そしてもう一冊は、古本屋ツアーの実用的なガイドとしての本である。まだプレ編集段階なので、二冊ともどんな本になるのかその全貌ははっきりとしていない。しかし今までの二冊に加え、さらにまたもや古本屋について二冊の本を出せることは、とても喜ぶべきことでもあり異常でもあり、つまりはどれだけ古本屋さんが好きなんだ!ということの表れでもあるのだ。その古本屋への無闇な愛が、本としてうまく結晶するように、2015年後半戦も、古本屋に熱い視線を注ぎ、古本屋まみれになりながら、暮らしていくつもりである。



『古本屋ツアー・イン・ジャパン』 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。ブログ記事を厳選しまとめた『古本屋ツアー・イン・ジャパン 全国古書店めぐり 珍奇で愉快な一五〇のお店(原書房)』と、神保町についてまとめた『古本屋ツアー・イン・神保町(本の雑誌社)』が発売中。
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