『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』平野義昌 |
神戸市の新刊本屋「海文堂書店」は2013年9月に閉店しました。私はここに10年間在籍しただけです。何でも知っているかのような顔をして書きましたが、共に働いたスタッフたち、OBたち、ずっと本屋を応援してくれた皆さんの協力がありました。出版社は昨年神戸で創業したばかりです。石井代表は編集者時代から長年にわたる海文堂サポーターで、彼の手助けによって本書を完成することができました。 多くの皆さんが海文堂の閉店を惜しんでくださったことがありがたく、改めて歴史をたどり、関係者の話を聞きました。書名に「海の本屋」とつけたように、1914年に海事図書の出版・販売から始まりました。原稿に取りかかっている最中は、海文堂が海港都市神戸の発展と共に歩んできた、という「大きな歴史」のヒトコマを書いている気分でした。ところが、書き終えて読み直していると、お客様方それぞれの本屋への思い、スタッフたちの日常の仕事など、細部の重要さに気づきました。 私たちスタッフは「熱狂的」な閉店時の混雑や賑わいを、ある意味醒めた感じで受け取っていました。お客様の中には「ローカル線廃止」のようなノリの方もいらしたと思います。しかし、顧客はもちろん、何らかの事情で足が遠のいていた方も懐かしい思い出を語ってくださいました。皆さんの記憶のヒトコマ=「小さな歴史」の中に海文堂は存在していました。 スタッフたちも本や棚の話よりもお客様との関係を語っています。レジや案内カウンターでの接客、顧客との世間話など、私たち本を「売る者」は「読む者」と深く関わってきました。また、「書く者」「作る者」も巻き込んでイベントを開催し、呑み会までしていました。地元の小さな出版物を大切にし、阪神淡路大震災震災棚を続けてきたことで、東日本大震災後は東北の出版社・人とつながることができました。OBが語っています。 「本屋というのは、本を通して人と人をつなぐ仕事だと思います」 潰れた本屋ですが、多くの皆さんに読んでいただけたらうれしいことです。 海文堂は「古書波止場」を誘致したほか、古本棚も常設し、古本市も定期的に行いましたので、古本屋さんと濃密な関係を持っていました。そのおかげで古本屋さんが拙著を積極的に販売してくださっています。古本屋さんも新刊本屋と同じく強い味方、頼りにしています。地元神戸では美術画廊、カフェ、バーでも販売してもらっています。販売条件などは苦楽堂までお問い合わせください。よろしくお願いいたします。 http://kurakudo.jp/ メール: nob@kurakudo.jp Tel & Fax:078-392-2535
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