濡れた本

濡れた本

書肆吉成 吉成秀夫

 2019年晩夏、仙台市に「book cafe 火星の庭」をたずねた。店主の前野久美子さんには以前私が発行する「アフンルパル通信」に寄稿してもらったことがあった。
道路に面した大きな窓から店内が見える。たくさんの本が丁寧に並ぶとなりにカフェコーナーがあり、奥のカウンターに小柄な女性、前野さんがいた。店に入り「札幌の書肆吉成です」と告げると、目を丸くして驚いてくれる。妊娠中の妻にはエルダーフラワー、4歳の息子にはバナナセーキを出してくれた。どちらもメニュー表にないドリンクだった。
「火星の庭」は店内でミニコンサートを開いたり地域に根差した市民活動をするなど、古本屋の枠におさまらないユニークな活動をしている。私たちが訪れた前日には原マスミがライブをしたそうだ。最近知ったのだが、前野さんは一時本気で自分の店をNPOにしようと考えていたらしい。そのバイタリティーはどこからくるのだろう。
「けっきょく古本屋さんはそれぞれ自分のスタイルをつくるしかないですよね」。雑談のなか、ふっとこんな言葉が漏れた。他のお店の真似をしてみたくてもそううまくいかないものだ。しかし、だからこそ個性的な古本屋さんの話を聞くのは楽しい。3冊の本を買った。安東量子『海を撃つ』、『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋)、『FREE USHIKU|EVERYONE HERE, EVERYONE COMING/ ここにいるすべてのひと、ここにくるすべてひと』。

仙台文学館に行くと東日本大震災の津波で泥にまみれた本のオブジェが展示してあった。どこにもあるような文学全集の端本や家庭雑誌が汚れている。津々浦々に本があることを実感するとともに、どこにもあるような本棚が津波にのまれたのだという事実がいままた胸に刺さった。泥まみれでよれよれになった本を前にして、立ち尽くすしかない。全集の残りの巻は海底で蟹と戯れているだろう。文字は魚が食べたに違いない。花を添えたくなる。

この東北旅の目的は、石巻の牡鹿半島で開催のReborn-Art Festivalに詩人・吉増剛造さんを訪ねることだった。
吉増さんは津波が押し寄せた集落の一つに「詩人の家」をつくって本棚に本を置き、そこで客人を迎えるという、これを展示と言っていいのか作品と言っていいのかわからないけれど、とにかくその場所で生きる、人と出会い言葉をかわす、そんな営みをしていた。それとはべつに霊山として知られる金華山(キンカサン)が見えるホテルの一室に詩作の部屋がしつらえられ、詩「Voix」の原稿用紙、文具、本が置かれ、大きな窓にはカラーペンで新しい詩が書きつけてあった。なんとも不思議な明るい部屋だった。金華山のむこうの海が大震災の震源地という。妻の胎内で羊水に浮かぶ赤子はへその穴から窓の光を見ただろうか。長男は鯨の歯で遊んだ。

それから半年後、世界は新型コロナウィルスの恐怖に覆われて一新した。
2020年4月、コロナの禍中で吉増剛造さんがYouTubeに映像作品を発表することを思い立ち、私はその手伝いをすることになった。吉増さんから毎週送られてくるモノローグと歌のビデオを編集し、概要欄に説明と文字起こしをのせてYouTubeにアップする。出版社コトニ社の後藤氏と協力して毎週の発信が続く。この記事が配信される頃には70回近くなるはずだ。映像作品は国内外で展示され、イギリスの芸術祭への出展作品には字幕を入れるお手伝いをした。https://www.youtube.com/channel/UCiSexx2GYYS_JAYlpt8n5Kw

「書肆吉成」は吉増さんが名付け親だ。古書店の独立準備をしているとき、売るための本がほしかった私は必死の思いで吉増さんに「ご不要な本があればお譲り下さい」とお願いした。その願いは叶えられた。しかしいざ届いた本をみて、敬愛する詩人の蔵書だと思うととたんに手離せなくなり、しまいこむことに決めた。いまや段ボール300箱をゆうに超えている。

ときどき吉増さんから探して欲しい本のリクエストがくる。求めに応じて送った本が詩や講演や映像作品になり、再び私のところに送られる。最近吉増さんは本のリクエストに「山口昌男大先生みたいです」と言葉を添えていた。たしかにかつて私が山口先生の付き人をしていたときもひたすら本を探していた。あれから20年以上ずっと古い本から新しい表現が生まれることのお手伝いをしている。これが私の古本屋のスタイルなのだろう。今夏刊行予定の吉増剛造詩集『Voix』(思潮社)には吉増さんへ書き送った私の手紙が引用される。

一つ懺悔しなくてはならないことがある。吉増さんの蔵書を古い一軒家に保管していたときのこと、春の大雨で大量の雪解け水が屋根からあふれて室内に降り注いだ。そのため多くの本が水に濡れてしまった。すぐさまべつの建物に本を移し、吉増さんに謝罪の手紙を書いた。数日後、速達で届いた吉増さんからの手紙には「本も濡れてみたかったんだと思います」と書いてあった。涙がこぼれた。

昨年、火星の庭の前野さんがコロナ禍の間隙をぬって札幌に来てくれた。前野さんの札幌滞在最終日に私たちは再会して、書肆吉成の店や倉庫を案内し、帰りの新千歳空港までの車中よもやま話を楽しんだ。仙台から石巻の間に名所が多いこと、店からあふれるたくさんの本のこと、山登りのことなど。震災後、原発事故の影響を心配した前野さん御一家は仙台から移住しようとして西日本を転々としたことがあったそうだ。移住を断念してからは娘さんの通う仙台市内の学校給食を心配し、西日本の食材で作った弁当を持たせつづけたらしい。このあたりに前野さんのバイタリティーの源泉の一つがあるのかもしれないと思った。倉庫に保管してある吉増さんの大量の蔵書をお見せすると目を丸くして驚いていた。水に濡れて波打った蔵書が、前野さんとの出会いを喜んで、心なし身をよじっていたように見えた。



書肆吉成
https://camenosima.com/

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第31回 猪熊良子さん 「移動の記憶」と本が結びつくひと

第31回 猪熊良子さん 「移動の記憶」と本が結びつくひと

南陀楼綾繁

 夏葉社、スタンド・ブックス、水窓出版、信陽堂など、いわゆる「ひとり出版社」と呼ばれる個人経営の版元の刊行物には、校正者として猪熊良子さんが関わっていることが多い。彼女は以前からの知り合いだが、版面から丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。
「新しくはじめた出版社では、校閲についての意見をしっかり聞いてくださいます。どんな装丁になるのか楽しみですし、書店での売れ行きも気になります」と、猪熊さんは云う。

 1969年、高松生まれ。父は証券会社勤務で転勤が多く、猪熊さんは生後10か月で広島市に引っ越す。その後、小学3年生で沼津市、小学4年生で西宮市、中学3年で東京の文京区と引っ越しを繰り返す。
「両親の故郷が香川県なので、祖父母のいる高松には毎年帰省していました。丸亀町の〈宮脇書店〉本店や〈宮武書店〉で、よく本を買ってもらいました。大学生になって、古本屋の〈讃州堂書店〉にはじめて行きました」

 猪熊さんは一人っ子。父は映画、歌舞伎、落語が好きな趣味人で、家には本がたくさんあった。歴史書、ビジネス書、雑誌など何でも読み、「家では父が本を読んでいる姿しか覚えていません」。母は文学少女で、高校のときに〈高松書林〉でアルバイトをしていた。当時刊行がはじまった『世界の文学』(中央公論社)を1冊ずつ集めたという。いまはその本を猪熊さんが受け継いでいる。

 広島では、父の行きつけだった〈廣文館〉金座街本店で、本を買ってもらう。両親は、本に関しては好きなだけ買ってくれたという。
 幼稚園のとき、マルシャーク『森は生きている』(湯浅芳子訳、岩波書店)の表紙に描かれたロシアの少女の絵に惹かれて、買ってもらう。その頃から「子どもだましに思えて」絵本はほとんど読まず、文字の本を読んでいた。「判らない文字があったら辞書を引きなさい」と、母から三省堂の辞書をもらい、ヨレヨレになるまで何度もめくった。
 アレルギー体質だったこともあり、人が触った本は汚いと図書館には行かなかった。「自分で本を所有したいという気持ちもありましたね」。沼津に引っ越してから、友だちについて児童図書館に行ったが、借りるのに抵抗があり、そこで見つけた本を書店で取り寄せたりしていた。

 小学3年生ごろには、文字がいっぱい詰まった本を読みたくなり、父の書棚にあった五木寛之、山本周五郎などを読む。西宮に引っ越すと、大丸芦屋店の中の書店に父と毎週行った。「車で行って、いちどに20~30冊買うこともありました(笑)」。ここで平積みになっていた村上春樹『風の歌を聴け』を買う。その後、この作家の本は全部読んでいる。向田邦子はドラマも本も好きで、1981年に航空機事故で亡くなったときにはショックを受けたという。三宮や大阪の大型書店にも出かけている。

 中学では「あまり練習に出なくていい」と聞いて演劇部に入るが、文化祭で主役に抜擢されストレスを感じた。子どもの頃から腰痛、肩こり、頭痛があったが、脊柱側湾症(背骨が曲がる症状)と診断されたのもこの時期だ。その後ずっと、この病気と付き合って生きている。
 2年生のとき、近所の「寿市場」にあったボロボロで薄暗い小さな書店で、マッカラーズ『心は孤独な狩人』(河野一郎訳、新潮文庫)を買って読む。報われない愛を描いた小説で読むのが辛かったが、心に残る。それまで手当たり次第に読んできたが、今後はじっくり読もうと、新聞の書評を参考にしたり、父に聞いて本を選ぶようになる。

 1984年、文京区に引っ越す。いくつか引っ越し先の候補があったが、夏目漱石や森鷗外のゆかりの土地である千駄木に住みたいと主張し、そこに決まった。現在の森鷗外記念館の位置にあった鷗外記念図書館で、アガサ・クリスティーが並んでいるのを見つけ、片っ端から読む。
「神保町にも初めて行きましたが、古本はやはり埃っぽくて不潔だと思っていたので、新刊書店ばかり寄っていました。〈矢口書店〉で映画のパンフレットを探すぐらいです」
 高校に入ると映画にのめり込み、授業をサボって映画館に通う。『ぴあ』の情報を見て、マイナー映画の上映会にも行った。
 この頃は村上春樹ら同時代の作家を読んでいたが、父に神坂次郎の『縛られた巨人』を勧められて読み、南方熊楠に興味を持つ。
 映画に明け暮れ、受験勉強を何もしてなかったので3年になって焦る。
「神保町の〈三省堂書店〉に行って、他の本は見ないようにして、参考書コーナーに直行しました。参考書を選ぶのが楽しかった(笑)」
 その甲斐あって、青山学院大学の文学部日本文学科に入学。両親が転勤で東京を離れたため、護国寺の学生会館に入る。さまざまな大学に通う女子学生が200名ほどおり、仲良くなった子と本の貸し借りをするようになった。
「先のマッカラーズ『心は孤独な狩人』も誰かに貸して失くし、しかたなく神保町の古本屋で探しました」
 この頃もまだ古本へのアレルギーがあり、それが30代まで続くのだった。

 就職活動をするが決まらないでいるとき、新聞広告で文化学園文化出版局校閲部の募集を見つける。主婦のライフスタイルを綴った佐藤雅子『季節のうた』を出していた出版社だからと、受けてみる。面接ではこの本のことを話した。校閲のことは何も知らなかったが、文章の間違いを指摘する試験で褒められる。
 採用され、『MRハイファッション』『ハイファッション』などの雑誌を担当。「誤植が少なくて有名な出版社でしたが、私は失敗続きで何度か誤植を出してしまいました」。学生会館を出て一人暮らしをするが、給料は安く、本を買うお金もなかった。
「文化学園購買部で1割引きで本を買い、敷地内の大学図書館の本も借りました。新大塚に〈ノーベル文庫〉という貸本屋があり、そこで小説を借りました。あまりきれいな本じゃなかったけれど、しかたがない。貧乏が古い本へと向かわせたんです(笑)」
 4年半ほど勤め、雑誌以外の校閲もやってみたいとフリーランスの校正者になる。その後、文藝春秋の『オール讀物』『文學界』や単行本の校閲を手がけるように。車谷長吉や西村賢太などの私小説が好きで、彼らの作品のゲラを担当するのが嬉しかった。
 
 台東区池之端に引っ越した2010年、谷根千で開催されている「不忍ブックストリートの一箱古本市」の助っ人(ボランティア)に応募する。
「友人も少なく、引きこもって仕事をしてばかりの生活をなんとかしたくて参加しました」
 私が猪熊さんと最初に会ったのもこのときで、打ち上げの際に最後まで残って楽しそうに話していたのを覚えている。
 しかし、古本嫌いだったはずなんじゃ……?
「なんででしょうね(笑)。当時は千駄木にあった〈古書ほうろう〉が入りやすい店で、本がきれいだったこともあるかもしれません。その後、雑司ヶ谷の〈JUNGLE BOOKS〉のように、一箱古本市に出店した人が店舗を出したり、ほうろうから日暮里の〈古書信天翁〉が独立したりと、知り合いの古本屋が増えたことで、古本がさらに身近なものになりました。また、「わめぞ」(早稲田・目白・雑司ヶ谷で本のイベントを行うグループ)にも関わって、『古本好きに悪い人はいない』と判ったことも大きいです」
 地方の一箱古本市にも出向くようになり、仙台、盛岡、広島などの古書店を回るのが楽しみに。いまでは、旅行に行くときは古書店訪問をメインに据えるというから、大きな変化だ。
 仕事面にも影響があった。ほうろうのイベントで、夏葉社の島田潤一郎さんに会って、同社の本の校閲を担当したことから、小さな出版社での仕事が増えていった。 

 2019年8月、猪熊さんは神戸に部屋を借りて、東京との二拠点生活をはじめた。
「両親はいま高松に住んでいますが、高齢なので私が東京と高松を行き来する必要があります。その中間に落ち着ける場所がほしいと思ったんです。東京で引きこもって仕事をすることにも限界を感じていました。それで、神戸の春日野道の古い団地を借りたんです。古本屋で買った山本さほのマンガ『この町ではひとり』はこの街が舞台で、よく見ている風景が出てきます」
 月に2回程度、東京を離れて神戸で過ごす。新刊やミニコミも扱う元町の〈1003〉、沖縄に関する本を扱う岡本の〈まめ書房〉、六甲の〈口笛文庫〉などに行く。また、大阪や京都にも足を延ばし、本屋を覗く。
「やっぱり、明るくて埃っぽくない古本屋が好きですね。もっとも、二拠点生活をはじめて半年後に新型コロナウイルスが広まったので、まだあまり神戸を歩けていないのですが」
 故郷の高松にも、古本屋の〈なタ書〉〈YOMS〉や新刊書店〈本屋ルヌガンガ〉などができて、充実してきたと話す。

 子どもの頃から引っ越しをするたびに、増えた本を処分するのが習慣だったため、いまは手元にない本が多い。古本屋に行くのは、手放した本を探すためでもある。
「思い出のある本は持っていたいですね。あと、子どもの頃はまったく興味のなかった絵本を、古本屋で買うようになりました(笑)」
 神戸に住むようになって、子どもの頃の記憶を掘り起こしたいと、神戸の古い地図を探したりしている。「移動の記憶」と本が結びついているのだ。

 そんな猪熊さんが大事にしている一冊が、佐野英二郎『バスラーの白い空から』(青土社、1992)。10年ほど前、友人から「ぜったい好きだと思う」と勧められて読んだ。
「この本を読んでいると、どこかに埋もれている未知の書き手を探し出すことが編集者のもっとも重要な仕事だと思います。こんな文章を書く人がいたのかという驚きがありました。佐野英二郎さんは、文筆家ではなく商社員。この人の本は、亡くなられたあとに出されたこの一冊きりなんです。2019年に同じ版元から新装版が出ています」
 猪熊さんが積極的に小さい出版社の本の校閲をしているのも、「未知の書き手を探し出す」手伝いをしたいという思いからなのかもしれないと感じた。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

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札幌・一古書店主の歩み(試し読み)

札幌・一古書店主の歩み
弘南堂書店 高木庄治氏 聞き書き 創業前(一)

 昨年11月に刊行された『北の文庫』71号「古書専門弘南堂書店高木庄治氏聞き書き一~三」を、これから2年近くに亘って再録させて頂く。聞き書きは、元藤女子大学付属図書館司書大館光男氏、元北海道大学付属図書館司書藤島隆氏を中心に、古地図研究家で高木氏と親しい髙木崇世芝氏を加え、平成12年9月、13年7月、14年10月に収録された。今回B5判2段組を本誌の体裁に変更、また挿入の写真を新に製版、追加した。
なお、大館氏は本年2月8日に逝去された。この聞き書きは20年前の記録だが、昨年初めて刊行された。しかし小部数の為、今回敢えて高木、藤島氏の御了解を得て広く公開するものです。(編集部)

 少年時代・南陽堂書店の思い出
 私が生まれたのは昭和八年三月十二日ですね。南陽堂書店(一九二九(昭和四)年創業)は今の場所(札幌市北区北八条西五丁目)のちょうど隣り、現在の店の北隣りにあったんです。うちの親父(高木庄蔵・一九〇五(明治三八)年~一九六五(昭和四〇)年)に言わせますと、そこに夜逃げした料理屋さんがあって、その跡を親父が借りたらしいです。
 大家さんが今も南角にある坪田商店で、坪田さんは明治三十年代の後半からあった店だと思います。この辺りでは坪田さんと沢田さん(雑貨商・北九条西四丁目北大正門前)が古いんです。

 明治四十三年の札幌市の商工地図をこの間やっと手に入れましてね。以前一度手に入れて札幌市の図書館に寄贈したことがあるんですが。それに坪田さんと沢田さんが載っていました。その地図の北の方(現JR札幌駅(北六条西二~四丁目)以北)で僕が知っている店はその二軒だけです。
 親父はそれまで北七条西五丁目にいて、そこから引っ越して店を借り、本格的に古書店を始めました。非常に北大の学生さんにかわいがられて、店の前の真ん中に黒板の新入荷速報を置き、間口は今の店よりもちょっと大きかったんじゃないでしょうかね。平屋だったんですよ。

 それがこの写真です。この左隣りが今の店の場所です。この坂口という洋服屋が現在の南陽堂です。その右隣りが亀山と言ったか、標本屋さんで三階建てのちょっと洒落たサイロ造りの建物でして、現在フシマン商事というビルになっています。北七条の南陽堂の写真はあるのかどうか分かりません。
 新入荷速報の黒板は有名で、一週間に一度書き直していました。〈 店の写真を見ながら 〉ここがストック場で、こっちが店だと思いました。僕らが子供の頃はお客さんの間をくぐるようにして外から帰って来ました。

ある年、亀山さんの三階の屋根から雪が落ちてきました。昭和十二・三年頃かな。僕がまだ小学校に上がる前です。店の中にドーンと雪が、屋根をぶち抜いて入ってきて大騒ぎになりました。そんなこともあって、隣りの坂口さんが引越しされて店が売り物に出たときに、親父がそこへ、借家ではない初めての自分の店(家)として移るわけです。それが今の場所です。
 僕はそうですね、中学生の頃くらいから、何となくストック場の::。店員としておふくろの弟(相馬寿幸氏)が住み込みでいたんですよ。十幾つから入ってますけどね。今、横浜にいます。その他に砂川出身の住み込み店員も一人いました。

 当時は店というのは朝六時から起きたら掃除を始め、七時か八時にはもう完全に開いている状態でしたからね。夜は夜で十時くらいまでやりましたから。夜カーテンを閉めても電気は消さなかったものです、戦前は。私のところは消さなかったね。全部じゃないけれど。ほとんど店の中が明るくなった状態で夜通し点いていました。電気代というのは割合い安かったのではないでしょうか。昭和十四・五年頃までそうでしたね。裸電球でしたけど。

カーテンは白い木綿のカーテンでした。夜、店を閉めてからでも学生さんなどがよく戸をドンドンドンドン叩いて、「親父、イノシシ(旧十円紙幣の俗称・裏にイノシシの図があった)一枚貸してくれ」とかね。
 冬、店のストーブは石炭ストーブで、その上にやかんを乗せて、銚子をつけて酒の支度ができるようにしてありました。私ら子供は夜八時になったらもう「子供たちは早く寝なさい」と言われ、茶の間の隣の部屋で寝ました。その頃兄弟は四人いましたからね。

こちらの隣りに移った時にストックしてあった本を、店員さんが雑誌を=親父は雑誌が好きで坪田さんの隣りを借りて倉庫にしていましたが=当時の北大の先生は雑誌のバックナンバーを皆さんお持ちで、植物学雑誌や医学の雑誌を製本して並べてありました。そういう雑誌は教授室の部屋に、アクセサリーといえば悪いけれど置いてあるんですよ。また、そうした雑誌のバックナンバーはある程度の金額だったんです。先生が退職される際などにバックナンバーを買うことがよくありました。親父は同じタイトルでもAセット、Bセット、Cセットなどと随分持っていました。

 僕ら子供の頃に巌松堂の先代さん、波多野重太郎さんが、札幌へ来て、それを馬車に一台か二台買ってもらって大した大商いだったことがあるんですよ。その時のことははっきり覚えてます。それで何となくそういうような仕事をしているのを見たり、それから雑誌のカードを作って=南陽堂は早くからカードがありました=殆ど利用はしないんだけど、仕入れたものなどをカードに記入していました。見よう見まねで私も中学時代からするようになりました。

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2021年7月26日号 第327号

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     。.☆.:* その327・7月26日号 *:.☆. 。
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☆INDEX☆
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1.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也
2.『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』
                      阪本博志
3.『社史・本の雑誌』 浜本茂

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━【古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告】━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告

               古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという
間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が
進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだ
まだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、あり
えないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態
宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵
な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか
継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦
しめられた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7131

小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている
場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・
ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』
担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、
大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。
「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(273)】━━━━━━━━

『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

                        阪本博志

 立花隆氏が4月30日に亡くなっていたことが、6月23日に報じら
れた。7月9日発売の『文藝春秋』『中央公論』8月号には、追悼記
事が掲載されている。
よく知られているように、立花氏が『文藝春秋』1974年11月号に発
表した「田中角栄研究――その金脈と人脈」は、同年11月26日の辞
任表明につながった。
『出版ニュース』1974年12月下旬号「’74年出版界・読書界10大ニ
ュース」の第1位は、「『文藝春秋』11月号のヒット企画」である。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7134

『大宅壮一文庫解体新書 雑誌図書館の全貌とその研究活用』
阪本博志 編 勉誠出版 定価:3,850円 好評発売中!
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101210

━━━━━━━━━━━【自著を語る(274)】━━━━━━━━━

『社史・本の雑誌』

                      浜本 茂

 社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)
によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイ
ントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。

 ちなみにその五原則というのは、
 一、経営史として書く
 一、主語は当社は
 一、社史の本体は文(ドキュメント)
 一、「内部向け」>「外部向け」であること
 一、「社史」とは「社」会貢献「史」

 の五つで、ようするに「当社は」を主語にして、社外よりも社内
向けの感覚で、いかにわが社が社会の役に立ってきたかを熱い思い
をもって、写真ではなく言葉で伝えるべく書かれた経営ドキュメン
ト、が面白い社史ということになるわけである。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7138

『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『書物・印刷・本屋』藤本幸夫編
勉誠出版刊 定価:17,600円
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101221

『読む・打つ・書く』 三中信宏 著
東京大学出版会 税込3,080円 好評発売中!
http://www.utp.or.jp/book/b577413.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

7月~8月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 次回は2021年8月中旬頃発行です。お楽しみに!
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日本の古本屋メールマガジンその327 2021.7.26

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだまだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、ありえないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦しめられた。何故か古本屋にも東京都から休業要請が出されたため、東京では多くのお店が制限が緩和されるまでの一ヶ月ほど、休業に入ってしまったのだ。馴染みのお店のシャッターが閉じられ、そこに貼られた『臨時休業のお知らせ』の紙を、どのくらい目にしたことか……それはまるで“禁古本屋法時代”に迷い込んでしまったような、切なく乏しい一ヶ月……だが、砂漠の中のオアシスのように、それでも開けてくれている貴重なお店をトボトボ伝い、古本と言う名の命の露を必死に啜り、どうにか乗り切ることが出来たのであった。こんなことがいつまで続くのだろうか。またもや七月に入ってから緊急事態宣言が出されてしまった。そして愚挙と声を大にして言えるパンデミック下での東京オリンピック開催…これらが一介の古本屋ツーリストにどんな影響を及ぼすのか、その月日を乗り越えなければ、行く末はわからない。だが、これまで暮らして来た生活の中に、この継続する過酷な事態を乗り越えるヒントが、もしかしたら潜んでいるかもしれない。それに気付くために、一月からの古本屋行動を急ぎ足で振り返ってみる…。

 一月、去年同様、中央線の中野〜武蔵小金井間で古本を買い漁る日々が続いている。特に一月八日の二度目の緊急事態宣言発出以降は、主に高円寺〜吉祥寺間を頼みにすることが多くなった。そんな最中に、武蔵境の「浩仁堂」が店売りを辞めることを知り、大泉学園の名店「ポラン書房」閉店一割引セールに駆け付けたりした。二月は、いつでも開けてくれている上井草の「井草ワニ園」で童心社のヨセフ・チャペック「こいぬとこねこはゆかいななかま」を800円で、沼袋の「天野書店」で河出書房新社「霧と影/水上勉」の献呈署名入りを千円で買ったり、荻窪の「古書ワルツ」でカバーナシだがポプラ社の少女探偵小説「流れ星の歌/西條八十」を330円で見つけたり、都立家政の「ブックマート」で國民文藝社「溺れる川/窪田空穂」の歌入り署名本を330円で掘り出したりと、意外なほどの掘り出し物当たり月に。神保町では「大島書店」の跡地に入った「光和書房」の店頭の古書の充実に瞠目したり、白山通りの古本もちょっと扱っていた「東西堂書店」の『閉店の原因は、新刊書店業界の長期低落と新型コロナウィルスです』の閉店の貼紙に涙する。

また国立では老舗の、街の小さなランドマークでもあった洋古書専門店「銀杏書房」が閉店。同時期に同国立の「みちくさ書店」が、駅裏手の『国立デパート』内に移転する。三月も奮闘してなかなか良い本を見つけており、荻窪「竹中書店」で徳間書店「ミステリー 戦艦金剛/蒼社廉三」とアルス「槐多の歌へる/村山槐多」(函ナシ、大正九年初版)をともに200円で買えたのは奇跡であった。また吉祥寺には「あぷりこっとつりー」という絵本の古本を扱うお店が出現し、阿佐ヶ谷でも古着屋なのに知的な読了本を店先に並べる「雑踏」というお店が、小さいながらも近辺古本屋ルートに新たな選択肢を増やしてくれた。三月二十八日に緊急事態宣言が解除され、その直後に吉祥寺に「古本のんき」が誕生。これで吉祥寺古本屋ルートの駅南側が、キレイな半円を描くことになった。四月、荻窪に「中央線書店」が出来ているのを、たまたま車窓から発見。

今は店頭に100〜500円棚を出しているだけだが、秋くらいには店売りも始めるらしい。そして出来たばかりの「古本のんき」で春陽堂探偵双書「不連続殺人事件/坂口安吾」を千円で見つけたり、函ナシの日本評論社「勞働詩集 どん底で歌ふ/根本正吉・伊藤公敬」を千五百円で手にしたりと、一気に当店のファンとなる体験が連続。そんなことでウハウハ喜んでいると、本郷古本屋街とば口の老舗「大学堂書店」が閉店することを知り、ビル奥のロケーションが素敵だったお店に別れを告げに行く。そして四月二十五日には三度目の緊急事態宣言が発出。都下の多くの古本屋さんが休業に入ってしまう。“禁古本屋法時代”の到来である。そうして迎えた五月も、それでも開けてくれているお店を求め、街を彷徨う。そんな厳しい状況下で、下北沢「ほん吉」で櫻木書房「日米對譯 映画劇」(函ナシ)に330円で出会えたのは、古本の神が与えてくれた哀れみの慰めか。高円寺ではバンドマンが酔っ払いながら開いていた「おもしろ古本市」に偶然出くわし、角川文庫のレア本「流砂/ビクトリア・ホルツ」を二冊も500円で買えてしまったのは、古本の神がニヤリと微笑んでくれたおかげだろうか。さらにその高円寺では、元クリーニング屋さんが蔵書を並べて古本屋と化した「クリーニングまるや店」が出現。

だが、そんな風にどうにかヨロヨロと古本ライフを楽しみながらも、神保町に赴いてみたら、開いているお店が二十店弱…世界に誇る本の街が、さすがにこの状態はかなり寂しい、とショックを受ける。六月、緊急事態宣言は続くが、規制が緩和され、多くの古本屋さんも休業トンネルから脱出。開き始めたお店をあちこち挨拶するように巡りながらも、代田橋駅前の小さなお店「バックパックブックス」の開店を目撃したり、高円寺の変わり種店「アニマル洋子」の建物の解体に伴う閉店を悲しむなどする。この月一番の掘出し物は、吉祥寺「古本センター」で80円で買った千代田書院「決定版 祇園小唄/長田幹彦」(函付き、献呈署名入り)であった。

 ……うぅむ、ここまで書いて、何がヒントかまるで閃かない。ただ古本屋に行って古本を買っているだけではないか…まぁ、とにかくいつワクチンを接種出来るのかわからぬが、引き続き感染対策を施し、もはや己にとって性で呪いで福音でもある、古本屋さん探索に血道を上げてゆくことにしよう。江古田に出来た「snowdorop」にもいまだに行けてないし、池袋に移転した「コ本や」や、南足柄に移転した「中島古書店」、神保町すずらん通りに移転した「永森書店」、神保町に新しく出来た「NAGA」、伊勢原の「おほりばた文庫鐙堂」にも行かなけりゃならないんだ!新型コロナとそれに伴う強制型環境に、負けてなるものか!




小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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『社史・本の雑誌』

『社史・本の雑誌』

浜本茂

 社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。

ちなみにその五原則というのは、
一、経営史として書く
一、主語は当社は
一、社史の本体は文(ドキュメント)
一、「内部向け」>「外部向け」であること
一、「社史」とは「社」会貢献「史」
の五つで、ようするに「当社は」を主語にして、社外よりも社内向けの感覚で、いかにわが社が社会の役に立ってきたかを熱い思いをもって、写真ではなく言葉で伝えるべく書かれた経営ドキュメント、が面白い社史ということになるわけである。

なるほど、そうだったのか!
と思ったのはわけがある。実は「当社」もこの六月末に社史を刊行したのである。その名も『社史・本の雑誌』。「社史1」「付録2」からなる二分冊の箱入りで四六判厚さ五十五ミリ! グレーの箱に空いた窓から茶色の表紙がきりりと覗く、本の雑誌創刊四十五周年記念にふさわしい造本・装丁の大部なのである、と言ってしまおう。
しかしてその実態は。

何を隠そう「社史1」、つまり社史本編は『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』のカップリング。ご存じない方がいるかもしれないので、念のため説明すると『本の雑誌風雲録』は本の雑誌初代発行人の目黒考二が本の雑誌十周年を記念して書き下ろした本の雑誌社配本部隊十年のドキュメントであり、『本の雑誌血風録』は本の雑誌二代目編集長(創刊号のみ目黒が編集兼発行人だった)椎名誠が一九九六年の一年間「週刊朝日」に連載した超零細企業実録小説である。『風雲録』は一九八五年に本の雑誌社(「当社」ですね)から単行本が刊行。九八年に角川文庫化され、二〇〇八年には書下ろし+書籍未収録原稿九十枚を加えた「新装改訂版」がやはり当社から刊行。『血風録』は九七年に朝日新聞社から単行本として刊行されたうえ、二〇〇〇年に朝日文庫化、二〇〇二年には新潮文庫にもなっている。言ってみればどちらも相当数の読者に読まれてきた作品だ。だいたいドキュメントである『風雲録』はまだしも、『血風録』は実録小説である。これを「社史」と言っていいのか!?

よかったのである。冒頭の社史制作五原則に照らし合わせてみると、『風雲録』も『血風録』もともに経営者(ふたりとも取締役だった)の視点で会社の歴史を書いたものであり、もちろん文章がメイン。内部向けの内幕もので、本人たちが意識しているかどうかは別にして、エンタメ書評を確立して出版界に貢献した本の雑誌の立ち位置が熱く描かれている(本当です)。主語こそ「ぼく」だが、目黒も椎名も本の雑誌を自分たちの子どものように大事に育てていこうと慈しんでいたくらいだから、「当社」と「ぼく」は一蓮托生、一心同体と言っていい。まさに五原則にそった理想の社史だったのだ。
しかも初版刊行からそれぞれ三十六年、二十四年が経ち、残念なことにどちらの文庫も品切れになっている。本の雑誌創刊四十五周年だというのに、初期の本の雑誌史を伝えるこの歴史的名著二作を読めないままにしておいては本の雑誌社の名がすたる!

という次第で『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』を合本にして、本の雑誌社の社史として世に問うことにしたのだが、前述したとおり、どちらも文庫にまでなっているわけで、合本だけでは「全部読んじゃってるよ~」という人もいるだろう。そこで「付録2」として「付録本の雑誌」を用意することにした。「付録」には本の雑誌創刊号から最新号までの全表紙と「和田誠カバー劇場」「和田誠装丁劇場」をカラーで収録。椎名、目黒、沢野ひとし、木村晋介、浜本茂の書下ろし「本の雑誌の45年」のほか、ベテラン編、同期入社編の社員座談会が二本、さらに節目節目の対談や原稿、秘蔵写真集に年譜までを収め、合本では描かれなかったその後のエピソードを網羅。社史としての体裁を整えた(と思っている)のである。

『社史・本の雑誌』の刊行によって、当社が、まあ、いつか消えた出版社となったとしても、本の雑誌社の歴史は購入してくれた人の本棚や図書館(少なくとも社史コレクションがある神奈川県立川崎図書館には置いてほしい)の書架に長く残るに違いない。社史こそ歴史なのである。そして箱の背に記された「無理をしない 頭を下げない 威張らない」の本の雑誌社社是が、その前を通る人々の目に止まり、なんだ、これ?と笑ってもらえたら、こんなにうれしいことはない。

honshashi
『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

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『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

阪本博志

 立花隆氏が4月30日に亡くなっていたことが、6月23日に報じられた。7月9日発売の『文藝春秋』『中央公論』8月号には、追悼記事が掲載されている。

 よく知られているように、立花氏が『文藝春秋』1974年11月号に発表した「田中角栄研究――その金脈と人脈」は、同年11月26日の辞任表明につながった。
 『出版ニュース』1974年12月下旬号「’74年出版界・読書界10大ニュース」の第1位は、「『文藝春秋』11月号のヒット企画」である。「『文藝春秋』11月号は「田中角栄研究――その金脈と人脈」で“マスコミが教えてくれないから”“雑誌ジャーナリズムはじまって以来の大取材”と銘うって、田中首相(当時)への疑惑を追った。/これは周知のように、田中退陣までに追い込む契機をつくった。/新聞ジャーナリズムの政府に対する弱い姿勢に対して、雑誌ジャーナリズムが、有効な機能を果しうることを実証したようなものである」。

 立花氏は「「田中角栄研究」の内幕」(『文藝春秋』1975年1月号)で次のように述べている。「取材班がスタートして、最初にやったことは、大宅文庫にいって、あらゆる関連活字資料を集めてくることだった。(略)索引で“田中角栄”をひくと、田中角栄氏について書かれたあらゆる記事がドサッとでてくる。“黒い霧”“小佐野賢治”“入内島金一”“日本電建”など、ありとあらゆる関連がありそうな項目をひいて、山のようなコピーをとってくる」。
 1976年11月刊行の『大宅壮一エッセンス 5 多角的遊泳術』(講談社)に立花氏は、「大宅文庫と私」と題したエッセイを寄稿している。氏はいう。「大宅文庫なしには、「田中角栄研究」をはじめとする私の幾つかの仕事は、ほとんど不可能だったろう」。

 財団法人大宅文庫(当時。現・公益財団法人大宅壮一文庫)は、大宅壮一(1900-1970)の蔵書約20万冊(雑誌約1000種類・17万冊、書籍3万冊)を基盤に、1971年5月17日に設立された。
 大宅は1951年ごろから古書の収集をはじめた。1956年から数人のスタッフによる雑誌記事の索引カード(サイズは縦約7センチ、横12.5センチである)の作成・整理に着手した。
 大宅文庫設立後、カードは、『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』全13巻(1985年)に代表される図書、『大宅壮一文庫雑誌記事索引CD-ROM版1992-1996』(1997年)を嚆矢とするCD-ROMを経て、2002年に教育機関版のサービスをはじめた「大宅壮一文庫雑誌記事索引検索Web版」(「Web OYA-bunko」)というオンラインデータベースへと、進化を遂げていく。
 2020年4月時点で大宅文庫は、雑誌約1万2700種類・80万冊と書籍約7万冊を所蔵するにいたっている。

 この大宅文庫を活用して調査研究をおこなうための本邦初のガイドブックである拙編『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』(勉誠出版)を、本年5月17日の文庫創設50年にあわせて刊行した。下記リンク先の出版社ホームページにて目次をご覧になればおわかりいただけるように、本書は、国文学・社会学・メディア学・歴史学といったさまざまな領域の研究者が参加したものである。
 本書が生まれる端緒は、『幻の雑誌が語る戦争――『月刊毎日』『国際女性』『新生活』『想苑』』(青土社、2017年)などの著作で知られる石川巧氏に2018年10月、筆者が次のような相談をしたことにある。「大宅文庫には80万冊の雑誌が所蔵されている。これらのなかには、まだ光があてられていない雑誌もあるのではないか」。
 翌月石川氏から、「雑誌文化研究会」をたちあげ大宅文庫を活用しながら研究活動を推進していったらどうだろう、という連絡を受けた。
 そして石川氏と筆者が研究者に個別に声をかけ、計13名の研究者と鴨志田浩氏(大宅文庫)からなる雑誌文化研究会が結成された。2019年3月5日にキックオフミーテングを開き、同年5月15日の第1回研究会に、それぞれが各章のプランを持ち寄った。こうしてできあがったのが本書である。なお、雑誌文化研究会は現在、新規の入会希望者を受け入れる準備をしている。

 本メルマガ4月26日号(第321号)の記事「大宅壮一と古本収集」で平澤昇氏(大宅文庫)が述べていたように、本年5月17日には、公益財団法人大宅壮一文庫編『創立50周年記念 大宅壮一文庫所蔵総目録』(皓星社)が発行された。同書は、大宅文庫東京本館の80万冊にもわたる所蔵雑誌の全貌を明らかにするものである。
 「Web OYA-bunko」に加え、『大宅壮一文庫所蔵総目録』ももちいて、80万冊の雑誌にわけいっていくことが可能となった。本邦初のガイドブックである『大宅壮一文庫解体新書』を、その探究にご活用いただければ幸いである。

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『大宅壮一文庫解体新書 雑誌図書館の全貌とその研究活用』
阪本博志 編 勉誠出版 定価:3,850円 好評発売中!
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101210

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2021年7月9日号 第326号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第102号
      。.☆.:* 通巻326・7月9日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【『東京古書組合百年史』刊行】━━━━━━

『東京古書組合百年史』 刊行  締切間近!

東京都古書籍商業協同組合は、1920年1月に東京古書籍商組合とし
て創立され、2020年に創立100周年を迎えました。
100周年の記念事業の一環として 2021年8月に『東京古書組合百年史』
を刊行いたします。
本史は、昭和・平成・令和の各時代における古書市場の歴史は
もちろんのこと、当組合が経験してまいりました様々な歴史を
記録として残すことを心がけました。
ぜひ多くの皆様にご覧いただければ幸いです。

・書籍判型:A5上製本
・総 頁 数:696ページ(内、巻頭カラーページ:16ページ)
・定  価:8,000円(税込・送料込)
・申込締切:7月16日(金)17時まで

※本書は、「予約限定販売」となります。

東京古書組合百年史
http://www.kosho.ne.jp/100/index.html

━━━━━━━━【鹿島茂先生からのメッセージ】━━━━━━

第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

 今回、縁あって『東京古書業組合 百年歴史』のイントロダクシ
ョンを担当することとなった。四年前に『神田神保町書肆街考』と
いう本を上梓して神保町の古書店街の歴史を書いたことが東京古書
業組合の百年史制作委員会の目にとまったようである。この本の執
筆に当たっては『東京古書業組合 五十年史』にひとかたならぬお
世話になったので、恩返しの意味で今回、イントロダクションを引
き受けたのだが、しかし、『東京古書業組合 五十年史』の要約で
はつまらないので、自分なりにいくつかの問題を設定してみた。そ
れは以下のようなものである。
①そもそも日本ではなにゆえに古書店と新刊書店がはっきりと分
かれているのか?

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7037

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

                    書肆吉成 吉成秀夫

平素はご愛顧いただきありがとうございます。札幌組合の書肆吉成
の吉成秀夫です。この度は東京古書組合さんよりメルマガに原稿を
書くようにとご下命があり、3回にわたって書かせて頂きます。今回
は東京組合さんより指定のありましたテーマ「私が実感する古書組
合に加盟することのメリット6つ」をご紹介いたします。加えて、
昨年7月21日に私が古書店修行をした札幌の伊藤書房の伊藤勝美さん
が亡くなりまもなく一周忌となりますのでその追悼の意味をこめた
原稿となります。古書店経営や組合にご興味ある方にお読みいただ
ければと思います。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7026

書肆吉成
https://camenosima.com/

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

                     南陀楼綾繁

 神奈川県立近代文学館で開催された「永遠に『新青年』なるもの」
展を観に行って、懐かしい名前を見つけた。会場で販売していた
「新青年」研究会の機関誌『「新青年」趣味』に、末永昭二さんが
文章を書いていたのだ。もう20年以上前のことだが、同誌について
取材する際に末永さんとはじめて会った。その後、古書雑誌『彷書
月刊』で私と同じ時期に末永さんが連載されていたこともあり、顔
を合わせる機会が何度かあった。そのたびに、「この人は何者なん
だろう?」と気になっていた。なんでもよくご存じだが、どこかつ
かみどころのない印象があった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7099

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【7月10日~8月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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センター南駅店・港北古書フェア (神奈川県)

期間:2021/07/07~2021/07/16
場所:市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進、右前方※駅構内です
【最寄り駅】横浜市営地下鉄 センター南駅

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東京愛書会【会場販売あります】

期間:2021/07/09~2021/07/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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大均一祭

期間:2021/07/10~2021/07/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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趣味の古書展

期間:2021/07/16~2021/07/17
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第182回神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2021/07/16~2021/07/18
場所:兵庫古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5
(阪急花隈駅西口真裏の通り)

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たにまち月いち古書即売会

期間:2021/07/16~2021/07/18
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

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阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2021/07/21~2021/07/27
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催場 大阪市北区梅田一丁目13番13号

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八王子オクトーレ古本まつり

期間:2021/07/21~2021/07/27
場所:JR八王子駅北口徒歩2分
王子オクトーレ3階 フリースペース&5階エレベーター前

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和洋会古書展

期間:2021/07/23~2021/07/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2021/07/23~2021/07/24
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2021/07/24~2021/07/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2021/07/28~2021/08/09
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2021/07/29~2021/08/03
場所:さんちかホール(神戸・三宮さんちか3番街)

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我楽多市(がらくたいち)即売展

期間:2021/07/30~2021/07/31
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2021/07/31~2021/08/01
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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城北古書展

期間:2021/08/06~2021/08/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2021/08/14~2021/08/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその326 2021.7.9

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

 今回、縁あって『東京古書業組合 百年歴史』のイントロダクションを担当することとなった。四年前に『神田神保町書肆街考』という本を上梓して神保町の古書店街の歴史を書いたことが東京古書業組合の百年史制作委員会の目にとまったようである。この本の執筆に当たっては『東京古書業組合 五十年史』にひとかたならぬお世話になったので、恩返しの意味で今回、イントロダクションを引き受けたのだが、しかし、『東京古書業組合 五十年史』の要約ではつまらないので、自分なりにいくつかの問題を設定してみた。それは以下のようなものである。

①そもそも日本ではなにゆえに古書店と新刊書店がはっきりと分かれているのか?

②『東京古書業組合 五十年史』では、明治二十年代くらいまで古書店という業態には欠かせない市会というものが存在しておらず、「せどり」と呼ばれる独立の古書ハンターが古書探しを引き受けていたのはなぜなのか?

③明治維新で古書の最大顧客だった武士が東京からいなくなったため、明治二十年代まで和本は底値に張り付き、買い手は外国人だけだったが、しかし、だとすると、一般の古書店はどうやって営業を続けていたのか?

④明治十年代から神保町に進出した新しいタイプの古書店は有斐閣、三省堂、冨山房など一橋近辺に誕生した大学や専門学校相手の洋古書店としてスタートしたが、やがて業態を新刊本屋に移した。その際、洋装本という特異な書籍形態が生まれたが、その特異形態はどのようなところから来ているのか?

⑤明治三十年代に入ると和本は完全に洋装本に入れ替わり、神田神保町に古書店街が形成されたが、その多くが改正道路(靖国通り)の南側に集まった。それはいかなる理由によるのか?

⑥神田神保町の古書街は何度か大火に見舞われ、関東大震災で灰燼に帰したが、そのたびに規模を拡大して発展していったのはなにゆえか?

⑦東京の古書店は大学・専門学校の発展と軌を一にして発展していったが、それはかならずしも大学生や専門学校生が良き買い手だったわけではない。大学・専門学校と古書店の本当の関係はどのようなところにあるのか?

⑧東京古書業組合は、市会の改革をきっかけに百年前に生まれたが、組合と市会との関係は旧態依然だった。これが劇的に変わったのは統制経済が進む太平洋戦争の直前だった。その劇的な変化とはいったいなんだったのか?

⑨古書店は書物が耐久消費財であることを前提にして成立するが、円本の登場以来、本は戦後にはますます消費財化していった。では、前提が崩れたにもかかわらず、古書店があいかわらず存在しつづけているのかいかなる理由によるのか?

 イントロダクションでは以上の疑問に私なりに答えようとしたつもりだが、しかし、その本当の答えの多くはイントロダクションというよりも、古書組合員が自ら執筆した本編の中にありそうだ。
 私も本編を読むのがいまから楽しみである。

『古書月報』2021年6月号より転載

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第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

南陀楼綾繁

 神奈川県立近代文学館で開催された「永遠に『新青年』なるもの」展を観に行って、懐かしい名前を見つけた。会場で販売していた「新青年」研究会の機関誌『「新青年」趣味』に、末永昭二さんが文章を書いていたのだ。もう20年以上前のことだが、同誌について取材する際に末永さんとはじめて会った。その後、古書雑誌『彷書月刊』で私と同じ時期に末永さんが連載されていたこともあり、顔を合わせる機会が何度かあった。そのたびに、「この人は何者なんだろう?」と気になっていた。なんでもよくご存じだが、どこかつかみどころのない印象があった。

久しぶりに会った末永さんは、仙人のような髯をたくわえ、「神保町、久しぶりに来ましたよ」と話す。自宅で編集仕事をしていて、人と会う機会は少ない。新型コロナウイルス禍の前から、そういう生活を続けているそうだ。

末永さんは1964年、福岡県生まれ。大分県に近く、海も山もある田舎町で育つ。両親と6つ違いの兄との4人家族。父は中学校で技術家庭科を教えており、家には教育関係の本が多かった。
「技術家庭科だけど、本来は園芸が専門なんです。だから、授業で製作するラジオキットを検品代わりに私に教材を組み立てさせることもあった。小学生がつくれるんなら大丈夫って(笑)。それで『ラジオの製作』などの雑誌を買うようになりました」

記憶に残る最初の本は、小学校に入った頃に読んだ『吾輩は猫である』。子ども向けのものではなく、旺文社文庫版に母がルビを振ったものを読まされたという。
「ほんとうは何も判ってなかったのですが、なんとなく面白かったですね。めんどくさくなったのか、途中でルビがなくなるんですが、勘で読み通すことができました」
小学校に入ると、図書室の本を片っ端から読む。市の図書館や児童館でも借りまくり、それらを枕元に積み上げていた。あまり本ばかり読むので、言いつけを守らないときは、本を読ませないことが罰だった。小学校の図書室で週一回借りる本はすぐ読んでしまうので、兄に頼んで中学校の図書室で借りてもらっていたら、兄が多読で表彰されてしまうというハプニングもあった。
小学校3年のとき、校舎が建て替えで、図書室の蔵書が移動された。その中には、古すぎて開架にしていなかった終戦直後の仙花紙本が混じっていた。
「NHKのラジオドラマ『三太物語』シリーズもありましたね。ラジオドラマの本をよく出していた宝文館が発行したものです。この本で旧かな遣いが読めるようになったと思い込んでいましたが、最近確認したら新かな遣いでした。でも、この頃から新かな・旧かなの両方が読めていたのはたしかです」
恐るべし、旧かなを読む小学生!

乱読なので何でも読んだ。とくに保育社の原色図鑑を熟読する。「写真の説明を読むのが好きでした」。親に買ってもらった、小学館の全集「少年少女世界の文学」に収録されていた海野十三の『海底大陸』で探偵小説というジャンルを知った。1973年のことだ。だからと云って、特定の作家を愛読するということはなかった。
この頃から数年は、1冊ごとに読書感想文を書いて母に提出しないと、次の本を買ってくれなかったという。
「このあたりから『子ども向け』に編集された本を読まなくなりました。雑誌もマンガも読まず、テレビも子ども向けの番組はあまり観ませんでした」
なお、末永さんの母方の祖父は戦前に大阪で暮らしており、母は昔、祖父が買ったであろう『新青年』を読んでいたという。祖父の家には講談社版の江戸川乱歩全集があり、それを読んで、ポプラ社の乱歩シリーズが改変されていることに気づいた。

中学では吹奏楽部に入り、ギターも弾くようになって、バンドも組んだ。いまでもライブ活動を続けていて、楽器を自作する凝りようだ。
相変わらず本を乱読する。学校の図書室で、渡邊一夫が訳したラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』を読み、その文章に魅せられる。『鞍馬天狗』や『収容所群島』など、長い小説を好むようになる。
「田舎だったので、高校まで電車やエレベーターの乗り方を知りませんでした。高校の修学旅行で東京に行った際、自由行動の時間に友だちと秋葉原に行ったのですが、駅のホームが交差していて、電車がドンドン来るのに怖気づいて、早々に帰ってしまいました(笑)」

そんなウブな少年は、立命館大学の文学部哲学科に入学。京都で一人暮らしする。はじめての古本屋体験もこの地だった。
「映写技師のアルバイトをしていて、映写中は本を読んでいました。そこで安い本を買いたいと思って入ったのが、クラスの友人に教えられた〈アスタルテ書房〉でした」
澁澤龍彦も通ったと云われる伝説の古本屋だ。当時は河原町三条にあった。探偵小説が並んでいる棚があり、その中からまず、江戸川乱歩の本の解説で名のみ知る、小酒井不木を買ってその面白さに引き込まれた。
「この店では久生十蘭や橘外男といった作家の戦前の本を買いました。いま思えば安かったですね。週に3、4回通っているうちに店主の佐々木一彌さんから『探偵もの好きの学生』として覚えてもらいました」
新刊は立命館大学の生協で買う。ここの書籍部は国内最大級の広さがあり、組合員は割引で買える。葦書房の『夢野久作著作集』全6巻や三一書房の『少年小説大系』全27+6巻、『宮武外骨著作集』全8巻(河出書房新社)といった、長期にわたって刊行された全集物はここで買いはじめた。
「宮武外骨や小酒井不木を経由して、梅原北明という出版人に出会います。古本屋で、彼が編集した雑誌『グロテスク』や『カーマ・シャストラ』、『変態十二支』シリーズなどを集めました」
ウィトゲンシュタインで卒論を書き、ビュトールの言語遊戯に魅せられる。その流れで、1976年から刊行された集英社版『世界の文学』全38巻を揃いで買って、セリーヌやゴールディングを知り、当時知られていなかった作家の変わった作品を読んだ。
「ちなみに私は、文学作品は海外作家だけで、日本の作家は読みません。でも、探偵小説となると逆で、日本人作家ばかり読んで、海外ミステリには疎いです。なぜか手が出ないんです(笑)」

大学在学中、就職活動のために何度か東京へ。はじめて神保町の古本屋と楽器店をめぐる。〈中野書店〉の探偵小説の充実ぶりに目を見張り、「やはり東京に出ないとダメだ!」と思う。卒業すると、1987年、卒業とともに上京。府中のメーカーに就職し、技術開発として働くが、あまりの残業の多さに1年半で辞める。
その後、日本エディタースクールの通信教育の校正コースを修了し、同校から紹介されて、技術関係の出版社で編集者として働く。
「小さな会社で、給料が出ないこともありました。仕事が多くて、会社に泊まり込むこともあった。でも、好きにやらせてもらえたので、10年くらいいましたね」
神保町には足しげく通う。その頃から古い雑誌を集めるようになる。
「単行本と違って、当たり外れがあるのがいいんです。袋に入った雑誌の隅っこに、面白そうな記事がひとつでもあれば当りという遊びです」
その頃、『橘外男ワンダーランド』(中央書院)収録の単行本リストに入っていないタイトルを、読者カードに書いて送ったところ、編者である作家の山下武さんから自宅に誘われる。山下さんは古書関係の著作が多く、「参土会」という古本好きの集まりの主宰者だった。
「その日に出会ったのが、浜田雄介さんら第二次『新青年』研究会のメンバーでした。同世代で古本の話ができる人たちと会えて嬉しかったです」
山下さんとは40歳近くの差があったが、集めている本が重ならないことや古い演芸の話が通じることから可愛がられ、蔵書の整理も手伝った。その付き合いは2009年に山下さんが亡くなるまで続いたという。

また、ジャーナリストの竹中労を囲む月例会にも参加し、父の画家・竹中英太郎についての話も聞いている。末永さんはのちに竹中英太郎が挿絵を描いた小説を集めた『挿絵叢書 竹中英太郎』全3巻(皓星社)を編集している。同シリーズの横山隆一、高井貞二も担当。多種多様の雑誌に目を通してきた末永さんだからこそできる仕事だ。

会社を辞めたあと、編集プロダクションで校正のアルバイトをしたのち、90年代末から誠文堂新光社の雑誌『MJ無線と実験』にフリー編集者として関わるようになった。少年時代から親しんできた電気の知識が役に立った。
2001年には、『貸本小説』(アスペクト)を刊行。昭和30年代に貸本屋向けに出されていたライトな小説本を紹介した、ユニークな本だ。
「異なる出版社から似たような装丁の本が出ていることから、貸本小説ということに気づき、自分の中でひとつのジャンルになりました。お金が貯まると地方をめぐって、古本屋で買っては自宅に送るという旅行をしたり、田舎の元貸本屋で貸本小説がたくさん見つかったときは、数人で共同購入したりしました。『貸本小説』というジャンルに気づいてから2、3年で、500冊ぐらい集めたと思います」
同書は安くて変色しやすい本文用紙を使用し、時とともに古びる本だとアピールした。古本に関する本が盛んに出ていた時期でもあり、注目された。
「書評が書きたくなる本だ、なんて云われましたね(笑)」
同じ年、『彷書月刊』から「昭和出版街」を連載。そののち、PR誌『アスペクト』で「『垣の外』の文学」を連載した。いずれも、出版史・文学史の主流ではない、まだジャンルとみなされていないものに注目している。
「目的を持って集めるのではなく、目の前に来てくれたものを読んで、その意味を考えるのが好きです。いろいろ見ていくうちに、これまでジャンルとして成立していなかったものを、ひとつの塊として認識できるようになる」
いま気になっているのは、戦前のユーモアものだという。
「たとえば、原田宏『夫婦戦線異状なし』(1930年)の主人公は、探偵小説の研究家で、テーマはドッペルゲンガーです。版元の中村書店はマンガで有名ですが、こういう奇妙なユーモア小説も出しているんです」

以前は即売会にも通っていたが、10年ほど前から行かなくなった。
「あるデパート展で、初日の開場に集まったマニアの列におばあさんが巻き込まれて倒れてしまった。それに目もくれず走っていく連中を見て、自分もこうだったのかと、なんだかいっぺんに醒めてしまったんです。いまは目録やネットで買う方が多いですね」
それと、老眼で読書に根が詰められなくなったのも辛い。これについては、私も他人ごとではない。

自宅の本は以前は整理できていたが、東日本大震災と棚の老朽化でぐちゃぐちゃになって以来、諦め気味だという。
「もともと私以外には価値がない雑誌が多いですし、体系立ってもいません。私が死んだら捨てるしかないでしょうね」
しかし、その体系のないところに新しい山脈を発見するのが、末永さんという人なのだと思う。私はその成果が読める日を待っています。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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