『社史・本の雑誌』浜本茂 |
社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。
ちなみにその五原則というのは、 なるほど、そうだったのか! 何を隠そう「社史1」、つまり社史本編は『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』のカップリング。ご存じない方がいるかもしれないので、念のため説明すると『本の雑誌風雲録』は本の雑誌初代発行人の目黒考二が本の雑誌十周年を記念して書き下ろした本の雑誌社配本部隊十年のドキュメントであり、『本の雑誌血風録』は本の雑誌二代目編集長(創刊号のみ目黒が編集兼発行人だった)椎名誠が一九九六年の一年間「週刊朝日」に連載した超零細企業実録小説である。『風雲録』は一九八五年に本の雑誌社(「当社」ですね)から単行本が刊行。九八年に角川文庫化され、二〇〇八年には書下ろし+書籍未収録原稿九十枚を加えた「新装改訂版」がやはり当社から刊行。『血風録』は九七年に朝日新聞社から単行本として刊行されたうえ、二〇〇〇年に朝日文庫化、二〇〇二年には新潮文庫にもなっている。言ってみればどちらも相当数の読者に読まれてきた作品だ。だいたいドキュメントである『風雲録』はまだしも、『血風録』は実録小説である。これを「社史」と言っていいのか!? よかったのである。冒頭の社史制作五原則に照らし合わせてみると、『風雲録』も『血風録』もともに経営者(ふたりとも取締役だった)の視点で会社の歴史を書いたものであり、もちろん文章がメイン。内部向けの内幕もので、本人たちが意識しているかどうかは別にして、エンタメ書評を確立して出版界に貢献した本の雑誌の立ち位置が熱く描かれている(本当です)。主語こそ「ぼく」だが、目黒も椎名も本の雑誌を自分たちの子どものように大事に育てていこうと慈しんでいたくらいだから、「当社」と「ぼく」は一蓮托生、一心同体と言っていい。まさに五原則にそった理想の社史だったのだ。 という次第で『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』を合本にして、本の雑誌社の社史として世に問うことにしたのだが、前述したとおり、どちらも文庫にまでなっているわけで、合本だけでは「全部読んじゃってるよ~」という人もいるだろう。そこで「付録2」として「付録本の雑誌」を用意することにした。「付録」には本の雑誌創刊号から最新号までの全表紙と「和田誠カバー劇場」「和田誠装丁劇場」をカラーで収録。椎名、目黒、沢野ひとし、木村晋介、浜本茂の書下ろし「本の雑誌の45年」のほか、ベテラン編、同期入社編の社員座談会が二本、さらに節目節目の対談や原稿、秘蔵写真集に年譜までを収め、合本では描かれなかったその後のエピソードを網羅。社史としての体裁を整えた(と思っている)のである。 『社史・本の雑誌』の刊行によって、当社が、まあ、いつか消えた出版社となったとしても、本の雑誌社の歴史は購入してくれた人の本棚や図書館(少なくとも社史コレクションがある神奈川県立川崎図書館には置いてほしい)の書架に長く残るに違いない。社史こそ歴史なのである。そして箱の背に記された「無理をしない 頭を下げない 威張らない」の本の雑誌社社是が、その前を通る人々の目に止まり、なんだ、これ?と笑ってもらえたら、こんなにうれしいことはない。
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