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第6回 中根ユウサクさん 息子に妖怪を教え込むひと

第6回 中根ユウサクさん 息子に妖怪を教え込むひと

南陀楼綾繁

「見て見て―、この本すごいんだよ!」と、『こども妖怪・怪談新聞』(世界文化社)をめくって私に見せるのは、小学1年生のソウスケくん。今回登場願うのは彼……ではなくて、その横に座るお父さんである中根ユウサクさんだ。
 子どもの頃から筋金入りの怪奇やSF好きである中根さんは、ソウスケくんが物心つくかどうかの時期から妖怪についての英才教育を施し、ソウスケくんは立派な妖怪マニアに成長した。『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きで、親子で高円寺の即売会に出かけ、水木しげるの『妖怪大図鑑』(講談社)を買ってもらった。そういえば、いま見せてくれた『こども妖怪・怪談新聞』も水木プロダクションの監修だ。
 親子二代にわたる妖怪本好きは、どのようにして生まれたのだろうか?

 中根さんは1977年、愛知県豊田市生まれ。両親は公務員で、父は本好きだった。とくにマンガが好きで、あだち充から岡崎京子まで幅広く読んでいた。また映画も好きで、まだレンタルビデオがはじまった頃に借りてきて、アニメや怪獣映画を息子と一緒に観たという。小学2年のとき、『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメの新シリーズがはじまり、親に原作や妖怪図鑑を買ってもらった。
 古本屋について教えてもらったのも父からで、小学5年のときに市内の古本屋に連れて行ってもらい、マンガを買ったという。親子二代と書いたが、三代にわたって本についての知識が伝えられているのだ。
 一方、学校図書館には子ども向けのSFや怪奇もののシリーズがあり、それらを読んだ。
「なかでも覚えているのが、あかね書房の『少年少女世界SF文学全集』に入っていたジョン・ウィンダムの『怪奇植物トリフィドの侵略』です。食人植物と文明が滅びるという、ハッピーエンドではない物語に衝撃を受けました」

 中根さんは中学に入っても、本やマンガ、アニメに浸っている。高校では市の中央部に電車通学するようになり、行動範囲が広がった。
「本屋でサブカルの要素が強かった時期の『ガロ』を買って教室で読んだり、季刊『幻想文学』で紹介された作品を古本屋で探していました。同じクラスに探偵小説好きの友人や先生がいて、ぼくが黒板にいたずらで『大坪砂男』と書いたら、それを見た先生が(代表作の)『天狗』について語りだすくらいで(笑)」
 この頃、のちに絶版文庫ブームを牽引した〈ふるほん文庫やさん〉が豊田市に開店している。中根さんはそこに通って、同店が発行する目録を読むことで、古本の基本的な知識を得る。ここで買ったのが、ウィンダムの『トリフィド時代』(創元推理文庫)。同じ作品のジュブナイル版を小学生で読んでいる。大げさに云えば、この作品はのちの中根さんの行動原理になる。

 名古屋にある大学の経済学部に入り、大学の近くにあった〈ヴィレッジヴァンガード〉の本店でアングラやサブカルの本を買ったり、映画館でSFやホラー映画を観まくり、自主映画をつくってコンテストに応募するほどになる。中根さんの話を聞いていると、ともかく同時期にいくつもいろんなことに深くハマっているのが判る。
「大学では教授から大学院への進学を勧められました。ドクター中根という響きにちょっと惹かれましたが、自分がやりたいのはやっぱり妖怪のことだと思いました。それで、別の大学で民俗学を学ぼうとも考えたのですが、結局、映像関係の会社に就職しました」
 仕事はきつく、古本屋通いが唯一のストレス発散法だった。SFやミステリー、UFO、オカルトなどの本を扱う〈猫又文庫〉の店主と意気投合し、仕事帰りに店に寄って話すのが楽しかった。どんな本がレアかということも教えてもらったという。

 後に中根さんは、転職して2006年に東京に引っ越す。
「初めて来たときは、神保町に行くのに神田駅で降りるという定番のミスをしています(笑)。神保町に電車一本で行けるところに住み、毎週のように即売展に通いました」
 そこで昭和初期に発行されたエログロ雑誌『猟奇画報』を手にして、妖怪が出てくることに驚く。これまで自分が考えていたよりも、「妖怪」というテーマには広がりがあると気づいたという。この雑誌に関わった民俗学者・風俗史家の藤澤衛彦は、妖怪研究のキーパーソンの一人である。
「エログロ雑誌から検閲や発禁のことを知りたくなるというふうに、興味の範囲がどんどん広がっていきました」というように、平田篤胤『古今妖魅考』という和本から、科学者にして心霊学者のカミーユ・フラマリオンが書いた『科学小説 世界は如何にして終るか』(改造社、1923)まで、ここでは紹介できないほど多くの単行本や雑誌を見せてもらった。

 東京での中根さんは、妖怪についてのイベントに参加したり、コミケで妖怪の同人誌を出している人に会ったりと、知り合いを増やしていった。北原尚彦さんが会長を務める日本古典SF研究会にも属し、毎月の例会にも参加する。また、超常現象を取り上げる同人誌『Spファイル』とその後継誌『UFO手帖』にも参加している。いったい、いくつ並行してやってるんだ!
「喫茶店に集まって、蔵書を見せ合う会もやっていました。本は一人で集めていても広がりがない。詳しい人と情報交換することで、『そんな本もあるのか!』と知ることができるんです」
 いま、中根さんが熱中しているのは、動く植物。先の『トリフィド時代』に出てきた食人植物の類(たぐい)は、さまざまな時代・場所の書物に見られるという。
「これも妖怪の仲間ですね。日本における食人植物のイメージが、どのように変遷していくかを追っているところです」

 中根さんは、ネットや目録ではほとんど古本を買わず、店や即売展で買うようにしている。本の状態を確かめて、納得してから買いたいという気持ちが強いそうだ。
「内容が面白くても、状態が悪ければ買わないことがありますし、後でいい状態のものが出たときは買いなおすことがあります。本は自分だけでなく、次の世代の人のものでもあると思うので。死んだあとは息子が継いでくれれば嬉しいですし、彼がその頃には妖怪から離れていたら古本屋を通じて市場に戻してもいいんです」
 もっとも、アマゾンやヤフオクを使わないことで自分に制限をかけている面もある。
「興味の範囲が広がるばかりで、当然本は増えていきます。妻は結婚前から私の古本趣味は知っていますが、すでに部屋が二つ本で埋まっているので、二人いる子どもが大きくなったらスペースをどうしようと、いまから頭が痛いです」
 ここでソウスケくんが「パパの部屋は本の川みたいになっていて、入り口がないんだよ」と口をはさむ。中根さんが云うには、生まれたときから本の山に囲まれているので、狭いすき間をすり抜けるのに慣れているのだとか。もっとも、怖い絵の表紙の本が多いので、「あの本をどこかに隠してくれ」と頼むというのがカワイイ。
 このインタビューは出版社の一室で行なったのだが、ソウスケくんが「ここも本がいっぱいあるけど、うちよりはマシですよ」と真面目くさっていったのには笑った。
 中根さんの今後の探書と研究がますます深まることに期待するとともに、ソウスケくんが立派な古本マニアに育っていくように祈りたい。20年後ぐらいに、また親子でインタビューさせてほしいものです。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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古書目録「堀紫山伝」のこと(三)

古書目録「堀紫山伝」のこと(三)

高橋 徹(月の輪書林)

 堀紫山の手元に届いた手紙は、いったい何通あったのだろう。
 寝床に入って、ふとそんな疑問がわいた。
 紫山は、新聞記者という職業柄、人とのつきあいが広い。一千通、いや三千通はあったか。紫山の生涯は76年、当時としては長生きだ。年少の頃からたんねんに数えたなら、五千通を超えたかもしれない。
 だけど今、我が手にあるのは、明治26年12月15日付の小栗風葉の書簡に始まり、堀紫山を「たった一人の友」と呼ぶ上司小剣の昭和11年9月11日のハガキまで、わずか200通にすぎない。

 それでも、関東大震災、東京大空襲、そして敗戦と大小さまざまの災禍をくぐり抜け、よくぞこの令和の世まで生き残ってくれたと天に感謝したい。
 さて、この200通、保存状態が極めて良いのだ。ひょっとして紫山は、考えに考えぬいて、後世に遺すべしと200通を選び大切に保存して来たのかもしれない。
 内田魯庵が「硯友社の幕僚」と呼んだ紫山だ、尾崎紅葉からの手紙は少なくとも50通はあったと思うのだが、手元には母方の祖母・荒木せんの死をつたえるハガキが一枚、それに年賀状一枚と、あきらかに少ない。

 紅葉死去の際、新聞社に手紙を貸したまま戻って来なかったのか? あるいは紅葉門下の後輩に懇望されてあげてしまったか?
 不可解なことはまだある。
 紫山の妹の堀保子だ。
 保子は、夫だった大杉栄が殺された半年後の大正13年3月15日午後6時、紫山の住む芝区二本榎の家で息をひきとった。41歳。病に伏し、引越せざるおえなかった大正12年11月まで、一人で暮らした四谷区南伊賀町の家財はすべて兄の家に運び込まれたはずなのに、保子の肉筆がハガキ一枚しかないのは一体どうしたことか。
 堀保子研究が、伊藤野枝にくらべてはるかに立ち遅れている一端はこんなところにあるのかもしれない。

 日蔭茶屋事件で大杉栄と別れた後、保子は大正7年7月、独力で個人誌『あざみ』(全4冊)を発行した。現物は沓(よう)として姿をあらわさない幻の雑誌だが、『初期社会主義研究』15号(平成14年)に「総目次」が掲載されている。馬場孤蝶、山田わか、安成二郎、堺利彦、岡野辰之助、徳永保之助、小寺菊子、遠藤清、そうそうたる執筆者のラインアップだ。読みたいが読めないもどかしさ、誰か『あざみ』を所持している方がいたならぜひ買わせて下さい。保子が心血をそそいだこの雑誌を隅から隅まで読み込むことで、堀保子の研究は一気に前に進むと思うのだが。
 それにしても堀保子の生資料は、いったいどこへ消えてしまったのか。
 そんなことを考えていたら、お客のSさんから四谷の西念寺の近くで保子が昔住んでいた家を発見したとの便りが舞いこんだ。

 先日、新宿に用があったので、四谷駅から西念寺をめざして歩いた。
 四谷は懐かしいところだ。今は影も形もなくなったが、駅横の戦後のにおいがプンプンただようマーケットに古河三樹松さんがいて、幾度か話をききに行ったことがあるからだ。三樹松さんは当時85歳位だったが、三坪程の古河書店の現役店主で、木の踏み台にちょこんと立って店番をしていた。三樹松さんは、とても小さな人で、踏み台に乗らないとレジスターに隠れてしまうのだった。

 三樹松さんは、明治44年1月24日に大逆事件で処刑された古河力作の弟でもあった。
堀保子は、その死刑執行の3日前に大杉栄と古河力作の面会に東京監獄を訪れている。当時10歳だった三樹松さんは、その時のことを大人になってから保子と話すことがあったのかな、そんなことを考えながら、大通りを新宿へ向って歩く。歩き始めてすぐの細い路地を左に折れると、そこは、堀保子が大正時代、何度も行き来した西念寺横丁だ。どこか淋し気なその道の行き止まりに保子はいた。
 小柄で色白、額が広く口がちょいと大きい、好奇心が強く利巧で根性もある、だけど、何より片意地な女、堀保子の旧宅跡をしばし見つめた。
 古書目録「堀紫山伝」の本当の主人公は、堀保子なのかもしれない、そんなことを思った。
                          (おわり)

高橋 徹(たかはしとおる)
1958年、岡山県の山奥、柵原鉱山に生まれる。日本大学芸術学部文芸学科を2か月で中退。鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の美術助手として映画製作に関わるも挫折、87年に大田区蒲田の古本屋・龍生書林の店員となる。
3年半の修業の後、90年、東急池上線の蓮沼駅近くに「月の輪書林」を開く。
特集古書目録に「私家版 安田武」、「古河三樹松散歩」、「美的浮浪者・竹中労」、「寺島珠雄私記」、「李奉昌不敬事件予審訊問調書」、「三田平凡寺」、「太宰治伝」などがある。著書には『古本屋 月の輪書林』(1998年/晶文社)がある。

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『古本屋 月の輪書林』
晶文社 定価:本体1900円+税 好評発売中!
https://www.shobunsha.co.jp/?p=1459

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2019年5月24日 第275号

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     。.☆.:* その275・5月24日号 *:.☆. 。
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☆INDEX☆
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1.雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検 高橋輝次
2.「新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版」
         株式会社メディアパル 代表取締役 小宮秀之
3.特殊文庫の古典籍-知の宝庫をめぐり珠玉の名品と出会う
             大東急記念文庫 学芸課長 村木敬子
4.古本乙女の独り言③  カラサキ・アユミ

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(223)】━━━━━━━━━

雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

                       高橋輝次

 今回、本メルマガに前著『編集者の生きた空間』に続いて、また
書かせていただくことになり、光栄に思うとともにいささか身構え
てしまう(配信数が相当多いそうですから)。
さて、本書も私が古本屋や古本展でたまたま出会った本や雑誌をき
っかけにして、関西、とくに神戸や大阪の主にマイナーな詩人や文
学者、画家、そして同人誌などを日録の形式で気ままに探索したも
のである。

続きはこちら
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『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』 高橋輝次
皓星社 価格:2,000円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/zassisyouryou/

━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

「新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版」

                 株式会社メディアパル
                    代表取締役 小宮秀之

出版不況といわれて久しい。市場規模は14年連続マイナスであり、
書店も出版社、雑誌点数も減少しています。また、以前は考えられ
なかった取次が経営破綻するということも起きています。
そのような厳しい状況下でも、昨年は71,000冊の新刊書籍、2,800点
の雑誌が発行され、市場には90万点以上の書籍が出回りました。

続きはこちら
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『新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版』
メディアパル発行 頒価540円(本体500円+税) 好評発売中!
https://www.mediapal.co.jp/book/519/index.html

━━━━━━━━━━━【学芸員登場シリーズ】━━━━━━━━

今、見るべき!
「五文庫連携展示 特殊文庫の古典籍-知の宝庫をめぐり珠玉の名品と出会う」

           公益財団法人五島美術館
            大東急記念文庫 学芸課長 村木敬子

 ある分野に特化した書物を所蔵する図書館「特殊文庫」。今、東
アジアの古典籍を収蔵する東京近郊の五つの文庫で標記のような連
携展示が行われている。その五文庫とは三菱財閥の創業者岩崎彌太
郎が設立した東洋文庫、その令弟彌之助が岩崎家の霊廟に建てた静
嘉堂文庫、九州の実業家麻生太賀吉の収書を礎とする慶應義塾大学
附属研究所斯道文庫、東急電鉄の元会長五島慶太が創設した大東急
記念文庫、そして歴代の蔵書家達の垂涎の的である鎌倉時代の金沢
北条氏の文庫を受け継ぐ神奈川県立金沢文庫である。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4900

五文庫連携展示

東京・神奈川の五つの特殊文庫で東洋の叡智に触れる千年の旅
──知の宝庫をめぐり、珠玉の名品と出会う 特殊文庫の古典籍

大東急記念文庫(五島美術館)・慶應義塾大学三田キャンパス
(斯道文庫)・東洋文庫・静嘉堂文庫・金沢文庫と「五文庫連携
展示 特殊文庫の古典籍」と題して、同時期に書物に関する展覧会
を連携して開催します。

詳しくは
https://www.gotoh-museum.or.jp/classic.html  をご覧下さい。

━━━━━━━━━【古本乙女の独り言③】━━━━━━━━━━

愛しの古本との共同生活、その喜びと葛藤

                   カラサキ・アユミ

レンタルしてきた或るアメリカ映画、蔵書が整然と並べられた書棚
に囲まれた部屋で主人公の女性がワイングラスを片手に時折口に運
びながら机の上に広げた本を読み耽るシーンがあった。たった数十
秒しか映らなかったその情景を私は羨望の眼差しで掴んでしまった。
その姿その空間その行為の格好良さときたら!!

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4816

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https://twitter.com/fuguhugu

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『書籍文化史料論』 鈴木俊幸 著
勉誠出版 定価 10,800円 (本体10,000円) 好評発売中!
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101007

『平成音楽史』片山杜秀 著 山崎浩太郎 著 田中美登里 聞き手
アルテスパブリッシング 定価:1800円+税 好評発売中!
https://artespublishing.com/shop/books/86559-200-9/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

5月~6月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=33

┌─────────────────────────┐
 次回は2019年6月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

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日本の古本屋メールマガジンその275 2019.5.24

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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2019年5月10日 第274号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第75号
      。.☆.:* 通巻274・5月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

古書目録「堀紫山伝」のこと(二)

                  高橋 徹(月の輪書林)

 表紙につかおうと心に決めている一枚の写真がある。
その写真は、今から百十二年前、明治39年7月22日、芝公園の浄運
院というお寺の前庭で撮影された。
 堀紫山が人物の名をすべて裏書きしてくれているので、とても助
かる。集合写真には、名前の分からない人が必ず何人か出て来るか
らだ。

続きはこちら
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高橋 徹(たかはしとおる)
1958年、岡山県の山奥、柵原鉱山に生まれる。日本大学芸術学部文
芸学科を2か月で中退。鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」
の美術助手として映画製作に関わるも挫折、87年に大田区蒲田の古
本屋・龍生書林の店員となる。
3年半の修業の後、90年、東急池上線の蓮沼駅近くに「月の輪書林」
を開く。
特集古書目録に「私家版 安田武」、「古河三樹松散歩」、
「美的浮浪者・竹中労」、「寺島珠雄私記」、「李奉昌不敬事件予
審訊問調書」、「三田平凡寺」、「太宰治伝」などがある。
著書には『古本屋 月の輪書林』(1998年/晶文社)がある。

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

古本マニア採集帖
第5回 村上博美さん 幻想文学に魅せられたひと 

                      南陀楼綾繁

 鳥取市に行ったことがなくても本好きなら、〈定有堂書店〉とい
う名前を耳にしたことがあるかもしれない。1980年創業で商店街の
中にある小さな本屋だが、ミニコミを発行したり、店内で映画愛好
者のサークルや読書会を開催したりしている。いわば鳥取の文化の
交差点のような店なのだ。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4876

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【5月10日~6月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

有隣堂イセザキ本店ワゴンセール(神奈川県)

期間:2019/04/27~2019/05/26
場所:有隣堂伊勢佐木町本店
   横浜市中区伊勢佐木町1-4-1

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早稲田大学青空古本祭

期間:2019/05/06~2019/05/11
場所:早稲田大学10号館前=大隈重信候そば

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第4回 上野広小路古本祭り

期間:2019/05/06~2019/05/12
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36 
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階 

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春の古本まつり「皐月 美術・古本即売会」 
天神丸善ギャラリー古書展(福岡県)

期間:2019/05/08~2019/05/23
場所:福岡県福岡市中央区天神1-10-13
ジュンク堂書店 福岡店 地下1F丸善ギャラリー内

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帯広藤丸古書フェア(北海道)

期間:2019/05/09~2019/05/14
場所:藤丸百貨店 7階催し会場 帯広市西2条南8丁目1番地

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城北古書展

期間:2019/05/10~2019/05/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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杉並書友会

期間:2019/05/11~2019/05/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第15回 東京蚤の市

期間:2019/05/11~2019/05/12
場所:大井競馬場 品川区勝島2-1-2
東京モノレール「大井競馬場駅」徒歩2分
京浜急行「立会川駅」徒歩12分
※荒天の場合を除き、雨天決行。中止の場合は、当日の
 午前7時までに公式サイトで告知されます。
URL:http://tokyonominoichi.com

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新橋古本まつり

期間:2019/05/13~2019/05/18
場所:新橋駅前SL広場

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東京愛書会

期間:2019/05/17~2019/05/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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五反田遊古会

期間:2019/05/17~2019/05/18
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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倉庫会(愛知県)

期間:2019/05/17~2019/05/19
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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第14回 サンボーホール ひょうご大古本市(兵庫県)

期間:2019/05/17~2019/05/19
場所:神戸三宮 サンボーホール1F 大ホール
神戸市中央区浜辺通5-1-32

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第90回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2019/05/22~2019/05/27
場所:くすのきホール
   西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:http://furuhon.wix.com/tokorozawafuruhon

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趣味の古書展

期間:2019/05/24~2019/05/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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中央線古書展

期間:2019/05/25~2019/05/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第12回 カジル横川古本市(広島県)

期間:2019/05/27~2019/06/09
場所:横川駅前フレスタモール カジル横川1階通路
広島市西区横川町3-2-36 JR横川駅隣接

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2019/05/30~2019/06/02
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2019/05/30~2019/06/02
場所:JR浦和駅西口さくら草通り徒歩5分マツモトキヨシ前
URL:https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2019/05/31~2019/06/01
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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名鯱会(愛知県)

期間:2019/05/31~2019/06/02
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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第15回 つちうら古書倶楽部の古本まつり(茨城県)

期間:2019/06/01~2019/06/09
場所:茨城県土浦市大和町2-1 パティオビル1F

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2019/06/01~2019/06/02
場所:神奈川古書会館1階特設会場
横浜市神奈川区反町2-16-10

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第5回 上野広小路古本祭り

期間:2019/06/03~2019/06/09
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36

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有隣堂藤沢店4階古書フェア(神奈川県)

期間:2019/06/06~2019/06/19
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
藤沢市南藤沢2-1-1フジサワ名店ビル7F

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城南古書展

期間:2019/06/07~2019/06/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2019/06/08~2019/06/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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立川フロム古書市ご案内

期間:2019/06/13~2019/06/27
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武
(ビッグカメラ隣) 3階バッシュルーム(北階段際)

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書窓展(マド展)

期間:2019/06/14~2019/06/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその274 2019.5.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎

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☆古本乙女の独りごと③  愛しの古本との共同生活、その喜びと葛藤

☆古本乙女の独りごと③ 愛しの古本との共同生活、その喜びと葛藤

カラサキ・アユミ

レンタルしてきた或るアメリカ映画、蔵書が整然と並べられた書棚に囲まれた部屋で主人公の女性がワイングラスを片手に時折口に運びながら机の上に広げた本を読み耽るシーンがあった。たった数十秒しか映らなかったその情景を私は羨望の眼差しで掴んでしまった。その姿その空間その行為の格好良さときたら!!

それに引き換え、我が家ときたら・・・テレビ画面から目を離し部屋を見渡す。床に蓄積されたホコリの塊、物で溢れた卓(裸のティッシュ箱、珈琲の飲みかけが入ったカップに食べかけの菓子袋、散らばった公共料金の領収用紙、読みかけの単行本やら相方の競馬攻略本にスポーツ新聞etc‥)、ジャンルも背表紙の高さもバラバラに並べられた本棚、本棚に収容出来ずに床に積み上げられた大量の本タワー、段ボール箱で作られた即席本棚(外側は飼っている猫の爪研ぎの餌食に。前衛アートのような風貌と化している。)、シーツカバーが歪んで皺だらけのソファ・・・。比較するなんて御門違いな現実の猥雑な汚部屋風景に思わず溜息が漏れ出た。今この瞬間、私と同じように〝憧れの空間〟と〝現実の空間〟の狭間で葛藤し、折り合いをつけて生きている物欲逞しき古本好きはこの星の下にどれだけいるんだろう、とベランダから空を見上げた春の夜更けであった。

私の場合、週に最低五冊は古本や新刊本を買込む。その為日々本はどんどん屋内の何処かに蓄積されて生活空間の一部として溶け込んでいく。やがてこれらは知らず知らずのうちに住む人間の片付ける気力をも奪う恐ろしい存在と化す。(ちなみに私は散らかし上手に拍車がかかった。)そう、彼等は(※本)我々古本趣味の愛情を利用する事で静かに確実に領土を拡張していく侵略者なのだ。(なんだか書きながら気分は空想科学作家になってきました。)そんな現状だから整理整頓も諦めの境地に。増え続ける古本様になすがままの毎日なのである。(こんな事を書いていた矢先に積ん読タワー雪崩の餌食になってしまった…脛がヒリヒリ・・・。)

結局、散らかった部屋で安い缶ビール片手に胡座をかいて茶けた古本をダラリと眺めるのが自分には一番ピッタリなのだよ、ネ?古本買いはやめられないし、ウンウン。なんて言い聞かせつつ、やはりスタイリッシュで整然としたお洒落空間への羨望の気持ちは抑えられないまま今日も夜が更けていくのであった。(このフラストレーションを多少なりとも抑制すべく書庫になりそうな安い賃貸物件をチェックするのが日課となっている現在。果たして第二の桃源郷は何処に!?)

otome3
『全古書連ニュース』より転載

otome3
東京古書組合発行 『古書月報』より転載

hibi
『古本乙女の日々是口実』皓星社
価格1,000円+税
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/furuhonotome/

ツイッター
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雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

高橋輝次

 今回、本メルマガに前著『編集者の生きた空間』に続いて、また書かせていただくことになり、光栄に思うとともにいささか身構えてしまう(配信数が相当多いそうですから)。

 さて、本書も私が古本屋や古本展でたまたま出会った本や雑誌をきっかけにして、関西、とくに神戸や大阪の主にマイナーな詩人や文学者、画家、そして同人誌などを日録の形式で気ままに探索したものである。そのため、自ら地域的には偏った記述になったが、私は古本ファンの場合、この地域性にはさほど抵抗なく読んでいただけるのでは、と秘かに期待している。実際、本書を贈呈した紀田順一郎氏からの温かいおハガキの中に「とくに関東の読者にとっての貴著の魅力は、日頃全く情報のない関西方面の同人誌や古書肆に関する記述に富んでいることです」とのお言葉を見出し、とても力づけられた。私自身も岡山在住の柘野健次氏の『古本雑記―岡山の古書店』を古本で見つけ、楽しく読み、本書に割に詳しく紹介している位である。

 地域性といえば、本書巻頭に、戦前の大阪で発行されていたレベルの高い文芸同人誌『茉莉花(まつりか)』のことを、福島保夫氏や寺島珠雄氏の文献を援用しながらいろいろ探索しているが、同誌の編集人、北村千秋氏や有力な同人、今井俊三、貞吉兄弟はともに三重県津市の出身であり、今井兄弟は戦前に、北村氏は戦後に郷里に戻っている。実は私の母方の実家は伊勢市にあって親しい交流があり、津市にも親戚がいるので、とくに愛着が深い文章となった。
 本書でもっとも熱中して書いたのが「渡仏日本人画家と前衛写真家たちの図録を読む」であり、主に神戸の画家の珍しい図録を次々見つけては、追記につぐ追記で紹介してゆく、72頁にわたる長い探求の旅となった。

 その過程で私は、戦前、日本で第二、三番目(?)に開いた神戸、元町にあった「神戸画廊」の活動とその画廊主、大塚銀次郎氏の仕事にも注目した。執筆の途中で、日本近代文学研究者、大橋毅彦氏(関西学院大学教授)も神戸の文化サロンとしてのこの画廊に着目され、画廊発行のユニークなPR誌『ユーモラス・コーベ』を通覧して総括的で興味深い論文を発表されたので、早速紹介させていただいた。さらに、中山岩太、安井仲治、ハナヤ勘兵衛など、関西で活躍した前衛写真家たちの作品を早くから評価して、兵庫県立近代美術館で数年にわたり展覧会を企画した学芸員(当時)、中島徳博氏の仕事を不充分ながら紹介できたのは私なりの収穫であった。お二人ともすぐれた芸術家たちの仕事を陰で支えたキーパースンであり、私ども編集者の仕事にも通じるものがある。

 他にも、私の中・高時代の母校、六甲学院の校内誌『六甲』をめぐる自伝的な文章も恥ずかしながら収録している。
 なお、出版社と林哲夫氏、街の草店主・加納成治氏のご協力によって、取り上げた同人誌『茉莉花』『遲刻』『書彩』の目次も不完全ながら巻末に掲げているので、読者の皆さんの探書の際の参考になることを期待している。林哲夫氏の素敵なカバー、表紙、扉写真も、ぜひ味わってほしいと思う。


zasshisyouryou
『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』高橋輝次 著
皓星社  2,000円+税 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/zassisyouryou/

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メディアパル 「新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版」

メディアパル「新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版」

株式会社メディアパル 代表取締役 小宮秀之

出版不況といわれて久しい。市場規模は14年連続マイナスであり、書店も出版社、雑誌点数も減少しています。また、以前は考えられなかった取次が経営破綻するということも起きています。
そのような厳しい状況下でも、昨年は71,000冊の新刊書籍、2,800点の雑誌が発行され、市場には90万点以上の書籍が出回りました。出版業界が様々な問題を抱え、曲がり角を迎えているとはいえ、やはり本は書店で買うという行為は日本人にとって無くてはならない習慣なのです。

世界的に見ても日本人の読書量は大変多く、様々な分野の素晴らしい書籍、雑誌が作られています。海外で人気のコミック、小説、雑誌も数多くあります。
この独自の出版文化を生み出し、発展させてきた要因の一つに日本独特の出版流通があります。出版社→取次→書店→読者の効率的な流通です。本書では出版界を流通から捉え、最新の数字と流通のしくみを図表、図解、イラストでわかりやすく解説しています。書店、取次、出版社だけでなく印刷製本業者、著者、編集者、図書館員、輸送関係者、通販業者、メディア、業界に関心のある他業種企業、一般の方にも好評です。特に新人教育テキストとして広く活用されています。
本書は販売会社大手トーハンの協力で作られ、2年に一度改訂されています。

主な内容は次の通りです。
・出版市場と流通ルート-2018年出版データ、流通経路 
・出版業界をさせる制度-再販制度と委託制度
・出版社の仕事-本が生まれるまで、出版社→販売会社
・販売会社の仕事-販売会社の役割、機能、販売会社→書店
・書店の仕事-書店の1日、書店→読者
・新刊流通、注文流通、返品流通のしくみ
・出版流通高度化へのしくみ-トーハンの取り組み
・図書館流通のしくみ-公共図書館と学校図書館の現況と流通のしくみ
・教科書流通のしくみ、図書カード流通のしくみ
・書店は情報の発信地-店づくり、複合書店、店頭活性化への取り組み
・伸びるネット市場-ネット書店の現状、主なネット書店
・電子書籍の現状-電子出版市場の規模
・読者はどこで出版情報を得るか-メディア、文学賞、インターネットなど
・本は国境を越えて-和書の海外販売、翻訳出版の動き、洋書販売の展開
・ますます広がる読書推進-JPICと読進協、読み聞かせ活動、朝の読書など
・主な出版関係団体一覧

「新・よくわかる出版流通のしくみ 2019-20年版」
発売日   2019年3月15日
頒 価   本体500円 +税
判 型   A5判・中とじ・48頁
発行・発売  株式会社メディアパル
購入方法  全国書店もしくはメディアパルのホームページで購入できます。
https://www.mediapal.co.jp

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今、見るべき!「五文庫連携展示 特殊文庫の古典籍—知の宝庫をめぐり珠玉の名品と出会う」

今、見るべき!「五文庫連携展示 特殊文庫の古典籍—知の宝庫をめぐり珠玉の名品と出会う」

公益財団法人五島美術館 大東急記念文庫 学芸課長 村木敬子

 ある分野に特化した書物を所蔵する図書館「特殊文庫」。今、東アジアの古典籍を収蔵する東京近郊の五つの文庫で標記のような連携展示が行われている。その五文庫とは三菱財閥の創業者岩崎彌太郎の弟彌之助が設立し、嗣子小彌太が岩崎家の霊廟に建てた静嘉堂文庫、三菱第3代目社長の岩崎久彌が設立した東洋文庫、九州の実業家麻生太賀吉の収書を礎とする慶應義塾大学附属研究所斯道文庫、東急電鉄の元会長五島慶太が創設した大東急記念文庫、そして歴代の蔵書家達の垂涎の的である鎌倉時代の金沢北条氏の文庫を受け継ぐ神奈川県立金沢文庫である。

本企画は各文庫が独自のテーマで展示を行いつつ、そこに他文庫の展示と関連のある作品を織り込み、回遊すると理解が深まり古典籍を見る楽しみが増幅する仕掛けとなっている。各展覧会の会期や資料の展示期間についてはそれぞれのHP等でご確認いただくとして、ここでは3つのキーワードで本企画を紹介したい。

【海外交流】海を隔てて古くから漢字文化圏と、また近世以降は西洋と交流を持ち、異文化を咀嚼し吸収してきた日本。その営みは書物の中にどのように表れているか。東洋文庫ミュージアム「漢字展ー4000年の旅」では『甲骨卜辞片』(紀元前14~前11世紀)、『科挙答案(殿試策)』(1772年写)など、漢字文化圏の広がりや日本の漢字文化に関連する資料が展示され、また静嘉堂文庫美術館「書物にみる海外交流の歴史~本が開いた異国の扉~」展では蘭学の大槻家旧蔵資料や『和漢三才図会』(1711~35年刊)等が出陳される。さらに大東急記念文庫創立70周年記念特別展示の第2部「海外との交流」(五島美術館展示室2)では、渡海して活躍した禅僧の肖像画や墨跡、近世の外交資料などを展示し、金沢文庫「特別展 東京大学東洋文化研究所×金沢文庫 東洋学への誘い」は、キジル石窟壁画、敦煌遺書など西域の文物を含め近代日本の東洋学の高まりを示す資料を紹介する。

【特殊文庫の漢籍】大東急記念文庫特別展示第3部は、江戸時代後期の学者狩谷棭斎らの研究から生まれた漢籍目録『経籍訪古志』がテーマ。国宝『史記 孝景本紀』(1073年写)や重要文化財『金沢文庫本白氏文集』(1231~33年写)等を展示する。これに関連し各文庫で『史記』『文選集注』『論語集解』『爾雅』『毛詩』など漢籍の名品が連携期間中に出陳される。日本文化に浸透した漢籍の蒐集が、蔵書家にとっていかに重要であったかが再認識されよう。

【蒐書の鬼】 特殊文庫を創設した財閥の総帥のみならず、研究者にも蒐集に取り憑かれる人々がいる。善本の情報を収集しライヴァルを出し抜き、戦利品に蔵書印を捺すという行為も古くからおこなわれてきた。斯道文庫『本の虫 本の鬼展』(慶應義塾大学三田キャンパス)は本と蔵書家との関係を探るユニークな企画。江戸時代の考証学者や川瀬一馬、横山 重など近・現代の研究者の旧蔵書や出版物なども展示される。大東急記念文庫展示第4部でも川瀬の研究を「五山版」「嵯峨本」「古辞書」などで跡付ける。

連携展示期間が最も重なるのは6月。この時期古典籍とじっくり向き合い、書物を蒐集した人々にも思いを馳せていただければ幸いである。ちなみに各会場にはオリジナル蔵書印を設置、連携展のチラシに捺せば次の会場で入館料が割り引かれる特典もある。愛書家ならスタンプラリーにも参加せずにはいられないだろう。
他国の文化を尊重し、書も絵も器物も宝の庫「ふみくら」に納め守ってきた日本文化。急速な国際化の中、何を誇りにし世界と共有すべきかを考える時期にある私たちが今、見るべき展示と自負している。



五文庫連携展示
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五島美術館 大東急記念文庫
https://www.gotoh-museum.or.jp/

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古書目録「堀紫山伝」のこと(二)

古書目録「堀紫山伝」のこと(二)

高橋 徹(月の輪書林)

 表紙につかおうと心に決めている一枚の写真がある。
その写真は、今から百十二年前、明治39年7月22日、芝公園の浄運院というお寺の前庭で撮影された。
 堀紫山が人物の名をすべて裏書きしてくれているので、とても助かる。集合写真には、名前の分からない人が必ず何人か出て来るからだ。
 集まりの名は、「陶友会」。
 メンバーは、堀紫山を含めて15名。
 主だった人物をあげる。

堀 紫山(二六新報記者/42歳)
堀 今子(堀紫山の妻)
加藤眠柳(新聞記者)
堺 為子(堺利彦の妻/34歳)
堀 保子(堀紫山の妹/23歳)
深尾 韶(社会主義者/25歳)
上司小剣(読売新聞記者/31歳)
大杉 栄(社会主義者/21歳)

 一目みて、社会主義者の集まりだと思った。
 皆、不敵な面構えをしている。
 この中に堺利彦の姿がないのが、ちょっと不思議な気がしたが、主義者の結社で陶友会とは、初耳。これは新発見ではないかと内心小躍りした。

 明治の社会主義者は、自分自身をさほど危険人物と思っていなかったのか、あるいは明治という時代がおおらかで牧歌的だったのか、皆身なりをととのえ写真館におもむき、堂々と入獄記念写真や出獄記念写真をのこしている。
 陶友会を撮影したのは、筒井年峰で、月岡芳年門下の明治の浮世絵師だ。堀紫山と年峰は共に大阪にいた明治26年、堺利彦や加藤眠柳らの文学仲間の結社「落葉社」で一緒に青春を謳歌した仲だ。
 それはさて、この写真は、見れば見るほどホロ苦くも味わい深い。
 堀保子をめぐって、恋のさやあてをくりひろげた二人、大杉栄と深尾韶が仲良く並んでうつっているからだ。

 陶友会から2週間後の8月6日、堀保子は、深尾韶とその妹・けんと共に富士山に登った。下山の後、静岡にとどまった保子は、深尾韶の両親に結婚相手として紹介されたらしい。その折に深尾韶と一緒に地元の写真館でとった記念写真が、『大逆事件の周辺 平民社地方同志のの人びと』(論創社/昭和55年)に掲載されている。

 堀保子の表情はとてもおだやかで、二人は仲の良い恋人同志に見える。
 日付は、8月16日。それなのに、その一週間後、堀保子は、深尾韶ではなく、大杉栄と結婚した。
 静岡の深尾韶研究者・市原正恵は、「大杉栄は自分の着ている浴衣の裾に火をつけて口説き、保子を妻としてしまった」(『日本アナキズム運動人名辞典』ぱる出版)と記している。
 深尾韶は、その翌年、社会主義運動から離れ静岡に帰郷、日本ボーイスカウト運動の先駆者の一人として活躍していくことになる。

 さて、主義者の結社、陶友会だが、同じ日に撮影された別の写真がひょっこり出て来た。写真の中央で陶器をあつかう老人を取り囲み、なごやかに見つめる紫山や大杉栄たち。陶友会とは、その字の通り、陶器を愛する者たちの同好会だったようだ。
 しかし、そう頭では分かっても、国家転覆をもくろむ革命家の集まりにしかどうしても見えない。
 写真にただよう不穏な空気を強く感じさせるのは、写真師・筒井年峰の研鑽をつみ重ねた技術のなせる技なのだろう。

 写真の後方で背筋を伸ばし、すっくと立つ堀紫山。写真中央、カンカン帽をかぶり、髭をたくわえ、伏目勝ちだが眼光するどく大物感ただようまだ21歳の大杉栄。二人が滅法かっこういいのだ。
 古書目録は、表紙という顔で全てが決まる。表紙につかいたいゆえんだ。

高橋 徹(たかはしとおる)
1958年、岡山県の山奥、柵原鉱山に生まれる。日本大学芸術学部文芸学科を2か月で中退。鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の美術助手として映画製作に関わるも挫折、87年に大田区蒲田の古本屋・龍生書林の店員となる。
3年半の修業の後、90年、東急池上線の蓮沼駅近くに「月の輪書林」を開く。
特集古書目録に「私家版 安田武」、「古河三樹松散歩」、「美的浮浪者・竹中労」、「寺島珠雄私記」、「李奉昌不敬事件予審訊問調書」、「三田平凡寺」、「太宰治伝」などがある。著書には『古本屋 月の輪書林』(1998年/晶文社)がある。

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『古本屋 月の輪書林』
晶文社 定価:本体1900円+税 好評発売中!
https://www.shobunsha.co.jp/?p=1459

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第5回 村上博美さん 幻想文学に魅せられたひと

第5回 村上博美さん 幻想文学に魅せられたひと

南陀楼綾繁

 鳥取市に行ったことがなくても本好きなら、〈定有堂書店〉という名前を耳にしたことがあるかもしれない。1980年創業で商店街の中にある小さな本屋だが、ミニコミを発行したり、店内で映画愛好者のサークルや読書会を開催したりしている。いわば鳥取の文化の交差点のような店なのだ。

 15年ほど前だったか、店主の奈良敏行さんに誘われて、定有堂でトークをした。この店の常連であり、さまざまな活動に関わっている人たちが多く集まってくれた。そのとき、奈良さんから村上博美さんを紹介されたのだと思う。すらりと細い体型で物静かな男性だった。県立図書館に司書として勤めながら、古本にも精通しているという。『幻想書誌学序説』(青弓社)という著書があると聞いて、あとで入手して読んだが、その該博な知識と柔らかい文章に驚いた。
 今年のはじめ、久しぶりに鳥取市に行き、定有堂を訪れると、奈良さんから『音信不通』というフリーペーパーを手渡された。そこに「ムラカミヒロミ」という人が少年時代の思い出を綴っている。あの村上さんである。なんだか久しぶりに、この人に会って話を聞きたくなった。

 
村上さんは1959年、鳥取市生まれ。父が国鉄に勤めており転勤が多かったことから、倉吉市(鳥取県)や木次町(島根県)で暮らしたこともある。「小学校の低学年までは、とにかくマンガ漬けでしたね。私が生まれた年に『少年サンデー』と『少年マガジン』が創刊されています。テレビのアニメもよく見ていました」と、村上さんは云う。

 小学4年ごろ、〈富士書店〉の鳥取駅前店で、父から江戸川乱歩の「怪人二十面相シリーズ」を勧められる。ポプラ社からの刊行が始まった時期で、最初に読んだのは『怪奇四十面相』だった。「戦後の乱歩作品ではベストだと思います。これを最初に読んだので、すっかりハマって、学校図書館や県立図書館で探してシリーズ全作を読みました」。当時は市立図書館はなく、県立図書館は新刊を1か月間は館外貸し出ししなかったので、館に通って読んだという。並行して、同じくポプラ社から出た南洋一郎翻案の「怪盗ルパン」シリーズや、山中峯太郎翻案の『名探偵ホームズ全集』を全巻制覇した。

 中学に入ると、筒井康隆、星新一、遠藤周作、北杜夫などを文庫で読む。小林信彦の『オヨヨ島の冒険』に衝撃を受け、本屋を探しまくってシリーズを揃えたという。「この頃は、本屋で『出版年鑑』を見せてもらって、店頭にない本を注文するということもやってましたね(笑)。トーハンが発行していた『新刊ニュース』も毎月チェックしていました」というからすごい。
 当時、鳥取市内には古本屋が2軒あった。そのうち〈西谷敬文堂〉には、中学に入って父と一緒に小学校で読んだ本を売りに行った。「学校の卒業と同時に、幼年時代の読み物を卒業する、という意識があったんでしょうか」。また、〈岡垣書店〉は本の量が多く、積んだ本で通路がふさがっていたという。

 
ミステリやSFだけでなく、少女マンガも好きだった村上さんは、ある少女マンガ家が近況欄に最近読んだ作家として挙げたことで、澁澤龍彦の名を知る。澁澤との出会いは、世界がひっくり返るくらいの衝撃だった。
その後、本屋で雑誌『牧神』(牧神社)の創刊号を見つける。特集は「ゴシック・ロマンス 暗黒小説の系譜」だった。

「これはただごとじゃない雑誌だと感じましたね。こんな世界があるとは知らなかった。こんなものを読んでも構わないんだと、お墨付きをもらったような気分になったんです」
 さらに、西谷敬文堂で平井呈一訳のブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)を入手したことから、吸血鬼ものへの興味が高まる。
「牧神社から日夏耿之介の『吸血妖魅考』の復刻版が出るという予告を見て、版元に手紙を書いたんです。すると編集者から『英語の勉強をしておくと、原書で読めるようになるから』という返事をいただきました」

 高校に入ると、文芸部に属し、部誌などに小説を書く。学校図書館の司書と図書館担当の教諭らから、桃源社、創土社などのマイナー版元を教えてもらったり、雑誌『幻想と怪奇』を貸してもらった。ダンセイニ、ブラックウッド、ビアズリー、夢野久作、小栗虫太郎など異端・傍流の作家を教わる一方、スタンダードな名作を読むことで自分の立ち位置を知ることの重要性も教わった。

 村上さんは高校を卒業して、県庁に。勤めを続けるうち「やはり本を扱う仕事をしたい」と、異動希望を出した。スクーリングで司書の資格を取り、県立図書館に勤務する。
「社会人になって自分の金が使えるようになると、集める本の範囲も広がっていきました。新刊は定有堂書店や富士書店で買い、古本は『日本古書通信』に載っている目録から注文しました。地方に住んでいると、なかなか古本屋の店舗には行けないので。取引ができると新たな目録が送られてくるようになり、機会がどんどん広がっていきました。帯やカバーの有無、函の状態など、目録に書かれていること、いないことにも注意するようになりました」
 村上さんが当時から集めていたのが、1970年前後に活動し、種村季弘の『吸血鬼幻想』などを刊行した「薔薇十字社」の本だ。

「造本がきれいで、持っているだけで嬉しくなります。全36点を10年かけて集めました。なかでも、バルベイ-ドールヴィリ『妻帯司祭』は配本途中に会社が倒産し、急遽回収されたという説もあって、入手困難でした。のちに判ったのですが、同書は回収されてから、改装されて「出帆社」から新たに刊行されたんです。そのため、薔薇十字社版はゾッキにも出ずに残らなかった」
 村上さんによると、幻想文学に関する本はもともと刊行点数が少なく、時間をかけるうちにかなり集まってきたという。周辺部分へも手を広げ、画家の挿絵本なども集めるようになる。神田小川町の〈崇文荘書店〉の目録から、エドガー・アラン・ポーの挿絵で有名なイギリスの画家ハリー・クラーク、『フランケンシュタイン』の挿絵を描いたリンド・ウォードの本を注文した。持っていない本があると、先方から連絡してくれる関係になった。最近は、インターネットで海外の古書店に注文することも多い。
「すでに持っている本でも、帯や函などがいい状態ものが出ればもう一冊買うことはあります。洋書は日本に持ってくると、紙にシミが出てしまうので、管理に気を遣います」

 
 50歳を過ぎてから、「あと何冊読めるのか」と考えるようになった。コレクションは市場に還流させるべきだと考え、死ぬまでに処分したいのだが、「そのタイミングがむずかしいですね」と笑う。
 しかし、ひとつのコレクションが形になったとしても、村上さんの本との付き合いはまだまだ終わらない。

 乱歩の少年探偵団シリーズの初出雑誌から挿絵画家の変遷をたどること、少女マンガの中のゴシック・ロマンスの系譜を考察すること、角川文庫の赤版やカッパ・ノベルスを集めることなどなど。定有堂のサイトでも、「黄色い部屋の片隅で」と題するミステリ本収集についてのエッセイを連載している。調べたいこと、書きたいことが、いくらでも出てくるようだ。
最後に、「これまで本につぎ込んだ金を足したら、家の1、2軒は買えたかもしれない。でも、本を集めることが楽しかったし、読むことで自分の世界が格段に広がった。仕事の役にも立ちました。だから後悔はしていませんね」と、村上さんは静かに断言した。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

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