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雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

高橋輝次

 今回、本メルマガに前著『編集者の生きた空間』に続いて、また書かせていただくことになり、光栄に思うとともにいささか身構えてしまう(配信数が相当多いそうですから)。

 さて、本書も私が古本屋や古本展でたまたま出会った本や雑誌をきっかけにして、関西、とくに神戸や大阪の主にマイナーな詩人や文学者、画家、そして同人誌などを日録の形式で気ままに探索したものである。そのため、自ら地域的には偏った記述になったが、私は古本ファンの場合、この地域性にはさほど抵抗なく読んでいただけるのでは、と秘かに期待している。実際、本書を贈呈した紀田順一郎氏からの温かいおハガキの中に「とくに関東の読者にとっての貴著の魅力は、日頃全く情報のない関西方面の同人誌や古書肆に関する記述に富んでいることです」とのお言葉を見出し、とても力づけられた。私自身も岡山在住の柘野健次氏の『古本雑記―岡山の古書店』を古本で見つけ、楽しく読み、本書に割に詳しく紹介している位である。

 地域性といえば、本書巻頭に、戦前の大阪で発行されていたレベルの高い文芸同人誌『茉莉花(まつりか)』のことを、福島保夫氏や寺島珠雄氏の文献を援用しながらいろいろ探索しているが、同誌の編集人、北村千秋氏や有力な同人、今井俊三、貞吉兄弟はともに三重県津市の出身であり、今井兄弟は戦前に、北村氏は戦後に郷里に戻っている。実は私の母方の実家は伊勢市にあって親しい交流があり、津市にも親戚がいるので、とくに愛着が深い文章となった。
 本書でもっとも熱中して書いたのが「渡仏日本人画家と前衛写真家たちの図録を読む」であり、主に神戸の画家の珍しい図録を次々見つけては、追記につぐ追記で紹介してゆく、72頁にわたる長い探求の旅となった。

 その過程で私は、戦前、日本で第二、三番目(?)に開いた神戸、元町にあった「神戸画廊」の活動とその画廊主、大塚銀次郎氏の仕事にも注目した。執筆の途中で、日本近代文学研究者、大橋毅彦氏(関西学院大学教授)も神戸の文化サロンとしてのこの画廊に着目され、画廊発行のユニークなPR誌『ユーモラス・コーベ』を通覧して総括的で興味深い論文を発表されたので、早速紹介させていただいた。さらに、中山岩太、安井仲治、ハナヤ勘兵衛など、関西で活躍した前衛写真家たちの作品を早くから評価して、兵庫県立近代美術館で数年にわたり展覧会を企画した学芸員(当時)、中島徳博氏の仕事を不充分ながら紹介できたのは私なりの収穫であった。お二人ともすぐれた芸術家たちの仕事を陰で支えたキーパースンであり、私ども編集者の仕事にも通じるものがある。

 他にも、私の中・高時代の母校、六甲学院の校内誌『六甲』をめぐる自伝的な文章も恥ずかしながら収録している。
 なお、出版社と林哲夫氏、街の草店主・加納成治氏のご協力によって、取り上げた同人誌『茉莉花』『遲刻』『書彩』の目次も不完全ながら巻末に掲げているので、読者の皆さんの探書の際の参考になることを期待している。林哲夫氏の素敵なカバー、表紙、扉写真も、ぜひ味わってほしいと思う。


zasshisyouryou
『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』高橋輝次 著
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