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国会図書館秘伝?――ネットと本での調べものに『調べる技術』をどうぞ

国会図書館秘伝?――ネットと本での調べものに『調べる技術』をどうぞ

小林昌樹(近代出版研究所)

 去年から今年にかけて、懇意の出版社、皓星社さんのメルマガで「在野研究者のレファレンス・チップス」なる連載をしました。それを今回、同社から『調べる技術』という本にまとめて出したのでご紹介します。

 前職場――国立国会図書館(NDL)――でレファレンス(調べもの)担当司書を15年ほど体験したのですが、その時のノウハウを書き出したのが本書です。意外と書かれていないコツや予備知識などを書きました。

 この本は、当初の連載タイトルにあるように在野研究者をはじめ、趣味人、校正者、編集者、ライターなどの方々向けを意識して書いたのですが、卒論を書く学生さん、それを指導する大学の先生にも役立つと思います。

■本書の内容:Googleの先へ行くには
 調べもので「ググる」のは当然としても、他にどんな専門的データベースがあるのか、1990年代に話題になった「アリアドネ」のようなリンク集があるとよいなぁ。今はないの?→ある。それも国営で。

 本を読んでいたら知らない人物が出てきたんだけれど、あまり有名な人でないみたい。人名事典に載っていない人がわかるようなデータベースはないの?→ある。WhoPlusといい、大きな大学の図書館でなら検索できる。

 でも契約大学/図書館経由でしか見られないんしょう。ただで引けるデータベースはないの? →ある。それも国営で。

 こんな予備知識やちょっとした検索テクニックまで、レファレンスにはそれなりのノウハウがあります。それらをまとめて書きました。本書目次は出版社サイトにありますが、列挙すると、調べものの基本的考え方、実際に役立つデータベースに行けるリンク集の紹介、新聞や雑誌の記事の探し方といった一般的手法から、ちょっとした小ネタ集、といったものです。ベテラン司書の暗黙知だった日本語「ドキュバース」にも言及しました。

■ホントにNDL秘伝なの?
 サブタイトルを「国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」としました。これは販売戦略でもありますが、図書館史上の事実でもあります。

 敗戦後、アメリカから図書館使節が呼ばれ、彼らが国立国会図書館の基本コンセプトをイチから作ってくれました。その際、「国会図書館はレファレンス局を筆頭に編成せよ」と言われたので、とにもかくにも74年間、200人ほどのレファレンス司書や調査員がレファレンス事業を実行してきました。そういう意味では「伝承」。

 けれど、どうやったら情報参照できるのか、適切なレベルでノウハウを本にした職員はいなかったのです。そういう意味では「秘密」。

 伝承されてきたのに秘密状態だったから「秘+伝」というわけです。

 正確には、外見的に見えやすい部分だけ本になっていました。図書館界でこれまで作られてきた参照ツールの解説リストがそれです(『日本の参考図書』といったもの)。けれど、そこには個々のタイトルごとにスペック(何万語収録とか)が書かれるだけで、類似の本を使う順番や、関連する違う分野の本をセットどう使うか、といったメタな「考え方」は書かれてこなかったのでした。

■ノウハウは司書にたまるが、その「見える」化は?
 そんな本がいままでなかったのは、司書自身が、お客の代わりにやってあげればよい、と誤解してきた側面もあったからでした。代行業なら結果だけをお客に教えればよく、ノウハウまで教える必要はありません。実際、国会図書館では議員さん向けレファレンスを、ほぼ代行業でやってきました(もちろんNDLにはセルフ・レファレンス用の議員閲覧室もありますが)。

 また、紙メディアしかない時代なら、司書の調べを見ていれば利用者も自然にマネできる、という事情もありました。かつては新人司書も、徒弟奉公よろしく、職人のレファレンス術を見様見真似で身につけたものでした。コツが言語化されるキッカケはありません。

■コロナ禍で可視化された調べるニーズ
 しかし、司書に貯まるスキルは本に書いて一般人に公開すべきと私は思ったのでした。きっかけは、2020年コロナ禍で、当時勤めていた国会図書館が閉館し、論文書きの学生さんや院生、調べもので通っていたライターさん、校正者さんたちの「仕事ができない」という声がネットで顕在化したことです。

 彼らの悲痛な声に押されて、国会図書館が10年間ネットに出してこなかった分の「デジタル・コレクション」(通称「デジコレ」)が、部分的ですが登録利用者にネット公開されたのは今年5月のことでした。

■本とネットの複合効果が広まらないといけない
 前述の国会のデジコレを私は「本」だと思っていて、だからこそ、公開がさらにすすめば、かなりいろいろなことが家にいながら分かるようになると思っています。というのも、従来の紙メディア(=本)とネット情報源をセットで使うと、どちらかだけでは絶対出ないことも、わりとすぐ出る傾向になったからです。

 けれど、司書がネット情報源を使ってもお客さんからは「見え」ません。同僚にすら「見え」ない。つまり「見様見真似」ができないのです。本とネットのあわせ技で新しい調べの構造ができつつあるのに、ネット情報源の使い方を可視化しなければ、それが広まるわけはありません。そこで、私は「本好き」ではありますが、今回の本では特に、ネット情報源について力点を置いて発想法や使う順番などを可視化しています。

 調べものというのは結局、各人が自分で納得しなければ終わらないものなので、本書を使っていただき、自分なりの調べものを展開していただければ幸いです

■「ただ検索しただけで求めるものに手が届くとは限らない」とようやく気づいた?
 なぜだか本書は前評判がとても良く、アマゾンも楽天もそうそうに「カート落ち」(品切れ)となりました。

 広く学際的な啓蒙活動をなさっている山本貴光さんにはご自身のユーチューブで紹介いただき有り難く思ったことでした。
哲学の劇場 #134 注目の新刊

 はてなブロガーさんに、次の書評を挙げている方がいました。私も「そうそう」と膝を打つ的確なツッコミでした。
調べる技術: 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス /小林 昌樹 (著) – dtk’s blog(71B)

 ブックファースト新宿店さんが発売日(12月9日)に何十冊も平台角に置いてくれたり(これも14日現在売り切れ)、私もよく通う東京堂神保町店さんでベストセラー週刊3位になったり、大変好評です。初刷も発売前2刷も、客注やネット書店で溶けてしまい、年末進行で3刷をかけることになりました。戦前なら「忽ち三版!」とでも言うところでしょう。

 なんでこんなに当たったのか、著者の私もわかりませんが、前記の山本貴光さんは、「ただ検索しただけで求めるものに手が届くとは限らないと、ようやく分かり始めた我々に時宜を得た本。ありそうでなかった」と指摘しています。

■謝辞
 サブタイトルは、Yutaro KTR(育休中)さんの、次のツイートからヒントを得ました。感謝です。
・「図書館レファレンスの秘伝のたれ、みたいな感じでためになる

 
 
 
小林昌樹(こばやし・まさき)
 1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒。2021年国立国会図書館を早期退官し、慶應義塾大学でレファレンス論を教える。近代出版研究所主宰。近代書誌懇話会代表。専門は図書館史、近代出版史、読書史。
執筆リスト

 
 
 
 


『調べる技術――国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』
小林昌樹 著
発行元:皓星社
ISBN:978-4-7744-0776-0
定価:2,000円+税
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774407760/

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