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神田・神保町は明治から賑わっていた

神田・神保町は明治から賑わっていた

ノセ事務所 能勢 仁

 今回、日本書籍出版協会が1968年に編纂・発行した「日本出版百年史年表」を底本として「明治・大正・昭和の出版が歩んだ道」を上梓致しました。年表を編集して下さった布川角左衛門先生、他彌吉光長、岡野他家夫、小田切進、鈴木敏夫氏等編集委員に、他協力者、編集者17名の方々に敬意と感謝を申し上げます。

 本書は①明治の出版史探訪、②大正の出版史探訪、③昭和戦前の出版史探訪、 ④昭和戦後の出版史探訪、⑤昭和後半の出版と再販制度、⑥古書業界と神保町の150年、⑦明治・大正・昭和の出版創業記、⑧回想“本と読者をつなぐ知恵”の8章で構成されています。

 第6章は八木書店H.D社長、日本古書通信社社長の八木壮一氏が古書への思いを熱く語っています。古書業界の150年間を俯瞰できる本は、本邦初ではないでしょうか。

 内容は「古書業界と神保町の150年」と題し、4編に分かれています。1、明治時代の古書業界の歩み、2、大正時代の古書業界の歩み、3、昭和時代の古書業界の歩み、4、平成時代の古書業界の歩み、です。八木氏は反町茂雄の業績にも触れ、江戸から明治初めまでの古書店・古本店について詳述している。この中で“本の街神保町の誕生”が書かれている。明治36,37年頃の神田古本屋の地図は貴重であり、当時を彷彿とさせる。

 三省堂の創業家の亀井家は、江戸時代は現在の明治大学の場所に幕臣亀井家はあった。大久保彦左衛門の屋敷の前である。亀井家は幕府崩壊後は、一時江戸を離れたが、明治になって戻り、14年に古書店を開くとともに出版も始めた。18年には現在のすずらん通りで冨山房が創業している。創業時と現在地が変わらない稀有の例である。有斐閣も現在地に近い場所で10年に古書店を開業している。

 明治5年に国民皆学をめざして学制が公布され、大学、中学、小学の三段階の学校制度が設けられた。しかし小学校の建設は地元住民の負担であり、授業料も月額50銭(当時米10kg36銭)と高く、普及が遅れ寺子屋を改造する例が多かった。一方、八大学区の大学建設は国の負担で進められた。官立師範学校が各府県に設けられ、人材育成がなされたことが、教育立国の基礎となった。明治10年に開校した東京開成学校(場所は湯島、後の東京帝国大学)が発端となって、神保町は学生の街のスタートとなったといっても過言ではない。明治8年から22年までの14年間は神田周辺は大学創設のラッシュであった。明治8年商法講習所(神田一ツ橋・後の一橋大学)、13年東京法学所(靖国神社付近・後の法政大学)、14年法律学校(駿河台・明治大学)、18年英吉利法律学校(神田錦町・中央大学)、22年日本法律学校(飯田橋・日本大学)が誕生している。当時はまだ近代出版の時代になっていないので、本を必要とする学生は神田古書街に集まったのであろう。

 本書では明治20年、30年、40年代について、古書市場の成立と古書業界について祥述され、興味深い。古書店の老舗、一誠堂書店の創業は明治44年である。

 明治20年、博文館の創業によって、日本の出版界は一気に開眼した。明治を驀進した出版社は春陽堂と博文館である。文藝出版の春陽堂、総合出版社の博文館が業界をリードした。明治末年から大正にかけ雑誌ジャーナリズムに火が付いた。前二社も強力雑誌を発行していた。春陽堂は「新小説」、博文館は旗艦誌「太陽」「少年世界」他8誌を発刊している。

 大正の雑誌ジャーナリズムに点火した出版社は実業之日本社、婦人之友社、婦人画報社、ダイヤモンド社、研究社、主婦之友社、講談社等であった。大正は特化された雑誌の時代であった。書籍では岩波書店、新潮社の功績を忘れることはできない。書籍の個性派版元では平凡社、同文館、金星堂、古今書院等がユニークであった。本書の中では明治・大正の時代展望の中で書かれている。

 昭和は円本で始まった。リードした出版社は改造社、新潮社、平凡社であった。そして講談社の「キング」の発刊によって、国民の眼は講談社の18大雑誌に向けられた。社会背景としては国内の帝国主義化は発禁本を生んだ。世界史的にはロシア革命は日本の労働者に力を与えたが、出版にも弾圧が加えられ暗雲を残した。昭和戦前では出版(書籍)の立役者は改造社と岩波書店である。岩波文庫の創刊は出版の記念碑である。知られていないことでは三省堂の専門書活動である。辞書の出版を除いては学参色は全くない。戦前の書籍分野を岩波、新潮、と共に三省堂が担っていた。

 流通では組織化が早く、明治23年に東京堂が出来てから、昭和16年日配まで、東海堂、北隆館、大東館と四大取次が活躍、委託制度に協力的であった。書店の場合は大正8年に完成したと言ってよい。各県別全国書店組合が組織された。戦後は日書連(日本書店商業組合連合会)として歩んでいる。

 現在問われていることは再販制度である。再販意識が希薄になっていることを憂うものである。再販は空気ではない。出版業界の貴重な財産である。制作、流通、販売の各分野で
再販制度を大切に守ってゆきたい。アマゾンに利用され放しを反省したい。

以上

 
 
 
 


『明治・大正・昭和の出版が歩んだ道』
  ―近代出版の誕生から現代までの150年の軌跡―
出版メディアパル刊
能勢仁・八木壯一共著
定価 1,980円(税込)
ISBN:978-4-7744-0776-0
好評発売中!
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784902251432

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