『国書刊行会50年の歩み』国書刊行会 川上貴 |
国書刊行会は創業50年を迎え、2022年11月から全国の書店で50周年フェアを開催している。実は創業は1971年で、本来であれば2021年にフェアを開催するべきであったが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年はフェア開催を見送り、2022年からの開催とした。筆者は今回のフェアや記念小冊子をはじめ、一連の創業50周年事業の企画・運営を担った。
フェアの無料頒布物としては2冊の記念小冊子を刊行した。1冊は『私が選ぶ国書刊行会の3冊』(編集担当者は小社編集部の伊藤昂大)。知名の53名に小社の書籍から3冊を選書いただき、推薦文とともに掲載したものだ。本冊子は創業40周年フェア(2012年開催)の際に制作した記念小冊子と同コンセプトのものであり、今回のフェアの第一弾として11月から配布を開始した。 そして、もう1冊が『国書刊行会50年の歩み』である。こちらは書名の通り小社のこれまでの歩みをまとめたいわゆる社史である。筆者が企画をし、編集作業は筆者と伊藤が担当し、2023年3月から配布を開始した(なお、口絵と本文に掲載している書影は営業部の竹中朗の撮影による)。おかげさまで両小冊子とも大変好評をいただき、『国書刊行会50年の歩み』は配布開始から1週間程度であっという間に在庫が切れてしまい、増刷もした(ちなみに、筆者は本冊子の完成後すぐにアメリカ出張に出てしまったため、SNSでの反響しか知ることができず、実はすべてが幻であったような気がしている)。2冊の小冊子は基本的にフェア開催店のみでの取扱品となり、フェアも小冊子も好評のため、開催期間を延長し、現在も開催店を募集している。8月下旬頃まではフェアを続けていく予定である。 そもそも『国書刊行会50年の歩み』をなぜ企画したのかといえば、まず何よりも筆者が国書刊行会を愛しているからである。自身が若い頃から憧れていた国書刊行会の歩みを、創業50周年という機会には何らかの形で残さなければならないという思いは入社以来ずっと抱いており、その思いが本冊子の根底にある。ただ、通常の社史のような格式張ったものにするつもりは当初からまったくなく、読者の方々に「読みもの」として楽しんでいただけること、そして願わくは笑っていただけることを目指して制作をした。なぜ笑っていただきたかったのかといえば、先輩諸氏から聞く小社の数々のエピソードや自身の実体験がどれも風狂無頼というかある種の幻想文学的であり、その空気感もまた小社の社史として形に残したかったからである。「国書刊行会らしさ」には笑いの要素も含まれていると筆者は思っている。 本冊子は資料性という観点では小社が扱うすべてのジャンルをカバーしきれてはいないが、幻想文学や海外文学を筆頭になるべく多くのジャンルについて言及することを心がけた。小社の代表的な書籍を紹介するカラー口絵からはじまり、創業者および代表取締役の佐藤今朝夫によるあいさつ、元編集長であり小社の幻想文学路線を決定づけた礒崎純一へのインタビュー(ライター・書評家の朝宮運河氏による)、小社在籍時にミステリ路線を開拓したフリーランス編集者の藤原義也氏(藤原編集室)によるエッセイ、小社の特殊編集者である樽本周馬と特殊翻訳家の柳下毅一郎氏の対談、元営業部長・元編集部課長の竹中朗によるコラム、現役社員の座談会(取材・構成は朝宮運河氏)、沿革……とヴァラエティブックのような構成にしているのは筆者の個人的な趣向であるが、小社のようなごった煮の会社の歩みをまとめるにあたってはこの形がベストであったと思っている。時間と予算が許すのであれば本冊子であまり言及していない仏教書や研究機関向けの大型書籍、語学教材などの記事も追加し、収録記事もまだまだ内容を充実させたかったがこれはまた別の機会としたい。 造本については、最後の最後まで函・表紙・本文小口と天地まで漆黒に染められている《セリーヌの作品》よろしく三方小口染め加工(希望は金か朱色)をするつもりで粘っていたが、全社員から狂っていると止められたのはここだけに記しておく。また、本冊子の装画も含め今回のフェアのメインビジュアルはコラージュアーティストのM!DOR!氏に、デザインは山田英春氏に手がけていただいた。はじめてその作品を拝見したときからフェアのビジュアルはM!DOR!氏に依頼しようと考えていたので、素晴らしい新作を制作していただき、それらをデザインしてくださった両者には感謝してもしきれない。 最後に、本冊子の編集作業で各編集者の思いなどに触れ、出版というものは人と人の縁があって成立するのだという至極当たり前のことを改めて実感した。冒頭のあいさつで代表が語っているように、著者・訳者の方々をはじめ、装幀家や組版・印刷・製本会社、小社の書籍を販売しようと思っていただける書店の方々、そして読者の方々に心より感謝したい。 今後も国書刊行会が「国書刊行会らしさ」を失わないことを、一社員として、また一愛読者として願って止まない。 ![]() 『国書刊行会50年の歩み』 本小冊子の配布は全国各地の「創業50周年記念フェア」開催書店にて行っております。 |
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