文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 自著を語る

『笠置シヅ子ブギウギ伝説』

『笠置シヅ子ブギウギ伝説』

佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)

 10月2日からスタートした連ドラ「ブギウギ」のヒロイン、花田鈴子(趣里)は、小学校を卒業した春、大阪道頓堀・花丸劇場でレビューを上演している「花丸少女歌劇」に入団。そこから福来スズ子のステージ人生が始まります。

 スズ子のモデルは、戦後「東京ブギウギ」で一斉を風靡、「ブギの女王」として昭和20年代を駆け抜けた、不世出のスター・笠置シヅ子です。その時、彼女は33歳。生まれたばかりの乳飲子を抱えたシングルマザーとして生きるため、戦前からの音楽パートナーだった服部良一に「センセ、頼んまっせ」と依頼して出来たのが「東京ブギウギ」でした。

 ぼくは娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサーとして、戦前、戦中、戦後のエンタテインメント史をライフワークとしてきました。エノケン=榎本健一、ロッパ=古川緑波、岸井明やあきれたぼういず、クレイジーキャッツなどの音楽パフォーマンスを、今の世代にも楽しんでもらいたい。という気持ちで音楽CDを企画してきました。笠置シヅ子もその一人です。

 2014(平成26)年、笠置シヅ子生誕100年を記念して、コロムビアから「ブギウギ伝説〜笠置シヅ子の世界」を企画、監修して解説書を執筆。その頃から笠置シヅ子の音楽人生を執筆したいと思っていました。CDリリースから九年、連ドラ「ブギウギ」をきっかけに、興陽館の編集・本田道生氏からのお声がけで、書き下ろしたのが「笠置シヅ子ブギウギ伝説」です。

 ぼくは1963(昭和38)年生まれなので、昭和30年代前半に、歌手引退を表明して女優に転向した笠置シヅ子は、映画やドラマでの大阪のおばちゃんのイメージしかありませんでした。子供の頃、日曜の昼に放送していた「家族そろって歌合戦」の審査員の姿や、クレンザーのCMで親しんでいました。彼女が「時代を変えた歌手」であることを意識したのは、中学生になってから。ラジオから流れてきた「買物ブギー」のリズム感、グルーブ感に圧倒されてからです。

 映画やドラマの焼跡、闇市のシーンに「時代を象徴する歌」として流れる「東京ブギウギ」をレコーディングした1947(昭和22)年、笠置シヅ子は、すでに二十年のステージキャリアでした。

 「ブギの女王」になるまでの彼女の音楽人生は、まさに昭和エンタテインメントの黎明期です。服部良一との出会いは1938(昭和13)年。松竹が日比谷・帝国劇場で、男女混成のミュージカル劇団「松竹楽劇部(SGD)」を立ち上げることになり、松竹少女歌劇(OSSK)のスター・笠置シヅ子を、メインのスターとして迎えることになってからのこと。その頃、服部良一は、ジャズプレイヤーから作曲家となり、コロムビア専属の気鋭の音楽家。SGDの副指揮者として、笠置シヅ子と出会ったのです。

 ここで笠置シヅ子は「少女歌劇」の十年選手のベテラン・スターから、ミュージカル舞台でジャズソングを歌って「スウィングの女王」として大輪の花を咲かせます。SGDがスタートして一年、服部が笠置のために書き下ろしたホット・ジャズ「ラッパと娘」で、彼女はコロムビアから本格的にレコード・デビューを果たします。1939(昭和14)年12月のことでした。

 その「ラッパと娘」を聴くと、戦前、日本のショウビジネス、ジャズ界がいかに成熟していたかは一聴瞭然です。服部は次々と笠置のためにジャズ・ソングを作曲、レコードも連続リリースされます。

 しかし1941(昭和16)年、日本が連合国に宣戦布告、第二次大戦は太平洋戦争へと広がっていき、アメリカのジャズは「敵性音楽」として、歌うことが禁止されてしまいます。当局から敵性歌手としてマークされた笠置シヅ子は、派手なパフォーマンスが禁止され「マイクの前、三尺四方からはみ出してはならない」と厳命されました。

 「笠置シヅ子ブギウギ伝説」では、昭和初期の「少女歌劇の時代」、戦前の「スウィングの女王の時代」、戦時中の苦労、そしてシングルマザーとして再び舞台に立って「ブギの女王」として、日本中を席巻していく、笠置シヅ子の音楽人生を綴りました。笠置シヅ子を語ることは、昭和のエンタテインメント史をたどることでもあります。

 幸いなことに、彼女がコロムビアに残した五十数曲のレコード音源は、現存するものは全てCD化され、配信でも気軽に聴くことができます。しかし、その曲の成立ちや、ヒットした背景、時代については、知る機会が少なくなっています。

 そこで本書では、笠置シヅ子のステージや楽曲をフィーチャーして、少女歌劇時代の初レコード「恋のステップ」「ラッパと娘」や、戦後の「東京ブギウギ」「買物ブギー」などの楽曲にまつわるエピソードや、遅れてきた世代が唯一「動く笠置シヅ子」を観ることができる映画での歌唱を紹介。舞台、レコード、映画でのパフォーマンスについても詳説しております。

 CDや配信で彼女の圧倒的なパフォーマンスを味わいながら、また連ドラ「ブギウギ」の背景を知るために、「笠置シヅ子とその時代」へのガイドとして楽しんで頂ければ、何よりです。(文中敬称略)

 
 
 
 


『笠置シヅ子ブギウギ伝説』
興陽館刊
佐藤利明著
価格:1,540円(税込)
ISBNコード:978-4-87723-314-3
好評発売中!
https://koyokan.co.jp/9784877233143/

Copyright (c) 2023 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース