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メールマガジン記事 自著を語る

『古本乙女、母になる。』 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。

『古本乙女、母になる。』 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。

カラサキ・アユミ

 昨年12月に皓星社から刊行した2冊目の拙著となる『古本乙女、母になる。』は、古本に目がない筋金入りの古本者である自分が、結婚出産育児という人生のターニングポイントを迎えてからの日々の出来事を書き綴ったエッセイ本だ。

 珍スポットトラベラーで二児の母でもある金原みわさん、古本界のスーパースターである古本屋ツアー・イン・ジャパン小山力也さんという敬愛してやまないお二人による素晴らしい寄稿も収録されている。

 どんな本かと問われれば、「育児と趣味に奔走する一人の母親の日常風景が綴られている。」と答えるだろう。だが、育児をしていない人にもこの本はきっと楽しめてもらえると思う。

 切らしていた洗濯用洗剤をスーパーで買う行為と、古本屋で本を買う行為とでは一見違っているようで実は本質は一緒だ。

 古本者にとって本は生活必需品と同様の位置付けなのだ。それはたとえ母親という立場になっても変わらぬ価値観であることを私は身をもって体験した。

 ドラッグストアで50枚入り1200円の紙オムツの袋をレジに持って行きながら「これで古本屋で数冊本が買えるよなぁ」と考えたり、夫に子守を任せて遠くの街の古本屋で漁書をしながらも「今晩のおかずは何にしよう、あの子が好きな焼き魚にしてあげようか…早めに切り上げて帰りにスーパー寄らなくちゃ」と思案している自分がいる。

 子供が生まれたことによって、趣味に対して時間もお金も思考も全力投資できなくなってしまった私は自分のことを半端者と呼ぶことにした。これは決して揶揄なんかではない。むしろ誇りを持ってこの称号を自分に与えた。

 それにしても、毎回書店に行くとこんなにも面白そうな書籍達が日々大量に刊行されているのかとワクワクして感動すると同時に「すべての本を把握することも読むことも叶わない生涯の短さと人生の時間の足りなさ」を改めて痛感してしまう。

 どこの新刊書店も最近映画化された本や、テレビで芸能人が紹介した本、SNSで話題になった本、これらの書籍が大々的に目立つように平積み陳列されているわけだが、そんな中、自分の本がひっそりと片隅にでも置いていただけていることに興奮しつつ感謝が尽きない。

 ほぼ無名の著者による限りなくマイナーと言われる〝古本趣味〟についてのエッセイ本である。

 フラッと書店に立ち寄り棚を眺め、この膨大な書籍の大海原の中から拙著の背表紙に目を留め「おや、この本は?」とおもむろに棚から抜き出しパラパラとページをめくってもらえる確率は果たしてどれくらいあるのだろうか…そんなことも考えてしまう。

 各業界に人脈も交友関係もほぼ皆無な市井の作家である自分が唯一情報発信できるささやかな場がSNS(主に旧TwitterことX)のみなので、とにかく〝本の存在を一人でも多くの人に知ってもらう〟べく地道に宣伝活動に勤しむ現在だ。せっかく世に出たからにはやはり一人でも多くの読者に繋がってほしい。一方で売れた数なんて関係ない、マイナーなジャンルの本だからこそ刺さる人にだけ刺さればいい、なんて格好つけながら、しかし本当に心の底からそう思う自分もいる。このジレンマはある種の、商業出版における呪いのようなものかもしれない。

 だが実際、本の存在を知られなければ書店さんから注文してもらうきっかけも生まれないわけで、拙著を目指して探しに来てくれる人がいなければ、きっと現在店頭で並べられている本達も発売から時間が経って旬が過ぎたら返品されゆく運命だろう。そして発行部数もそう多くはない初版が売り切れたとしても重版もされずに潔く絶版になるかもしれない。なので、もし、この「自著を語る」をお読みいただき少しでもご興味を持たれた奇特な方々がおられたら是非書店に出向いて『古本乙女、母になる。』が店頭に並んでいるうちに探してお手に取っていただけたら幸いである。

 昨年の本の発売日当日の夕方、ささやかなお祝いにと地元のお気に入りの渋い焼き鳥屋に行った。一人で来たことは何度かあったが、この日は初めて2歳になる息子と一緒に暖簾をくぐった。年季が入ったコの字カウンターで、息子を膝に乗せて流し込んだあの冷えたビールの一口目の味は、きっと一生忘れないだろう。

 イヤイヤ期真っ只中の幼子を育てながら、仕事をしながら、減ることのない家事を日々こなしながら、子供が眠った後に睡眠時間を削りながらの書籍作業はやはり楽ではなかった。大変だったけれど、私のような半端者が古本の話をする本があっても良いのではないか、と不確かな自信もあって楽しく執筆活動に臨むことができた。

 こうして母がしみじみと感慨に耽っているその間、息子は焼き上がったばかりのつくねを私の膝の上に絶妙なバランス感覚で姿勢よく座りながらハフハフと頬張っていた。酒場の女将さんが優しく微笑みながら次々と焼き上がった串を息子の皿に乗せていく。この楽しい時間を息子と共有するなんとも言えぬ多幸感。幸せを熱々の砂ずりに重ねて、串から口に含み噛み締めて味わった。

 いつか古本漁りの面白さもこんな風に息子と共有できる日が来るのかもしれない。

 これからも母親として子育てに奔走しながら古本半端者道を極めていきたいと思う。

 
 
 
 

 
 


『古本乙女、母になる。』
皓星社刊
カラサキ・アユミ著
税込価格:2,200円
ISBNコード:978-4774408019
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/literature_criticism/9784774408019/ (試し読みあり)

 
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