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DOMUS X(エックス) 書物の穹窿(きゅうりゅう)

DOMUS X(エックス) 書物の穹窿(きゅうりゅう)

吉増剛造

 ”懐かしい、すぐ傍(そば)の昔が。”ふと漏れたこの小声は、久しぶりの嬉しい古書メールマガジンさんからのご依頼をよろこぶ心と、古本、古書がそっと漏らした小声であったのかも知れなかった。しかしながら『DOMUS X(ドムス・エックス)』は、”本ならざる本”=”木ならざる木”これもすこし変わった小声なのだ。”本ならざる本”=”木ならざる木”から、そう”家ならざる家”といい替えることも出来るのではないのだろうか。

 コトニ社の後藤亨真氏、書肆吉成の吉成秀夫氏、田端文士村の木口直子さん、そうして剛造とマリリアさんが、”家ならざる家”の家族なのだが、もうおひとり、その”お家(うち)”の天上に、幻の大樹が光に戦(そよ)ぐ美しい枝葉を揺らしていて、その幻の大樹がオーケストラの指揮者の役目を果たされた、装幀家宗利淳一氏である。

 DOMUS(ラテン語の家)と名づけたのはマリリアさんだった。X(えっくす)は剛造。卓越した技術の図書印刷さん、澁谷さんと岩瀬さんにも深謝を。

 小文を綴りはじめてからもう十日か二週間、立ちどまり考えても考えても、DOMUS X(エックス)の樹下に辿りつかない。おそらく、しばらく考えていて、気がついていた。この”辿りつかなさ”は、日記性にあったのではないのだろうか。誰もなし得ないような「日記性」に、……。勿論、毎週木曜日に発信するので、ポルトガル語でQuinte-feiraキンタフェーラと名付けているのですが、ここにおそらく”誰も知らない日記性”が、隠れて胚胎していたのかも知れなかった。考えてみると、写真ご担当の木口直子さんとの出逢いが、その”めばえ”に似ていた。芥川龍之介展ご担当の木口さんの写真の切り出し=瞬間の別の切り口をみる眼に驚いたときの、そのときとの出逢いも、この”誰も知らない日記性”にあったのかも知れませんでした。後藤さんとも吉成さんとも。地縁もあるいは、この日記性とつながっている。札幌あるいは札幌大学が縁だった……。とすると故山口昌男氏、この大学者の俤も、このDOMUS X(エックス)の背景にはっきりとうかびあがってくる。そして吉成、後藤氏の師でもある今福龍太氏の姿と心もまた、……。あるいはサンパウロに立つ、ガローアという霧もまた、……。地縁、風土性を、”誰も知らない日記性”に倣(なら)っていい変えてみると、少し飛躍してですが”心の周波数性=soul’s frequency”と名付けることも叶う。そう、つまり、”家なき家”の”スタッフならざるスタッフ”は、何処にもないような放送局=stationを創ろうとしたのだった。カソリックのstation dayは金曜日なのだが、……。

 ”編集なき編集”とくにこれはコトニ社後藤亨真氏、書肆吉成の吉成秀夫氏のお心を憶測、推量してのことなのだけれども、折しもコロナ禍のさなかにあって両氏のお心の底に、”編集の潮目”といったらよいのか、発生状態への模索への意志があったのではなかったのだろうか。”コンピュータ難民”というよりも、”盲目的な発信者/剛造”を、その”潮目の渦潮……”に晒すという決断があったらしい。そして、優れた指揮者、枝葉を揺らすひと、宗利淳一氏も後藤亨真氏も想像をしなかった筈の”書物ならざる書物”が2024.3.7.に誕生することとなった。不知の未来の現在である、とわたくしは想う。

 わが親友(とも)にして、後藤、吉成両氏の師でもある今福龍太氏は刊行寸前の2024.3.1(受信)に、次のような驚異のVisionを伝えて来てくれた。”DOMUSはドームDome 半円球の涯てなき天球なのだ”と。この刹奈、DOMUSは小さなそして巨きな天球宇宙となったのだった。その天球の歌手Marylyaさんのご挨拶をここに。
The songs I create are reflections of my life, my images are reflections of my songs.(Marylya)

 ”懐かしい、すぐ傍(そば)の昔が”冒頭でふと漏れたこの小声は、穹窿(きゅうりゅう)の何処に居るのか、黄金虫(こがねむし)か、蜻蛉(せいれい)の親たし気な小声だったのか知れなかった。

 
 
 
 


書名:DOMUS X
著者:吉増剛造
刷り部数:499部限定[ナンバリング付]
造本:上製+本表紙箔押し+コデックス装+天アンカット+シュリンク包装
判型:菊判[縦225mm×横150mm]
頁数:248頁[カラー184頁+モノクロ64頁]
定価:18,000円+税
装丁:宗利淳一
出版社:コトニ社
好評発売中!
https://yoshimasu.bookstores.jp/stuffs/efW8RuXT09

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