文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 日本の古本屋メールマガジン

『散歩の達人』創刊30周年特別号「東京の散歩の30年」について

『散歩の達人』創刊30周年特別号「東京の散歩の30年」について

散歩の達人編集長 平岩美香
 『散歩の達人』という雑誌をご存じでしょうか。「散歩」という、どこかふんわりとした言葉を隠れみのに、街を歩き回り、その場所にしかないオリジナリティあふれる人・モノ・コト・風景を見つけることを大切にしている月刊誌です。

 そんな自由な雑誌が、2026年、おかげさまで創刊30周年を迎えることができました。

 振り返ると、『散歩の達人』が生まれた1996年は、書店にオシャレなタウン誌やクールなカルチャー誌がたくさん並ぶ、雑誌業界に勢いがある時代でした。『散歩の達人』の初期の特集は「路地裏の誘惑」「昭和[高度成長期]の東京を歩く」「街に赤線があった頃」など。オシャレさもクールさもかなり独読、独自の路線をまっしぐら。その後、1997年頃から徐々に「銀座でなごむ」「谷中・根津・千駄木」「新宿大遊覧」など、特集名に街の名前が入り、「大人のための首都圏散策マガジン」というキャッチフレーズがしっくりくる現在のスタイルへと移行してきました。

 そして、2026年4月号が創刊30周年記念号です。
 記念号をどんな特集にするか。悩みました。ノスタルジーに浸るだけでは若い世代を置いてきぼりにしてしまうかもしれない。データを詰め込むだけでは今の時代にそぐわないかもしれない。30年間、街を歩いてきた私たちに何ができるのか――。悩みに悩んでたどりついた特集が「東京と散歩の30年」でした。過去の羅列にとどまらず、30年間をまるごと詰め込もうと、とことん欲張ることにしたのです。
 とても幸せなことに、『散歩の達人』には、長い年月をともにした、信頼できる外部スタッフが数多くいます(ありがとうございます)。皆さんの経験と知識があれば、欲張りも実現できると思いました。創刊時の先輩編集部員が社内に残っていたことも後押しになりました。

 「東京と散歩の30年」の構成は、大きく分けて3つ。
 1つは、喫茶店、書店、建築、大衆酒場など、誌面で親しまれてきたテーマで切り取った「よりみちの30年」。もう1つは、神保町や中央線沿線、日本橋、谷根千など、ゆかりのある街で切り取った「あのまちの30年」。この2つの切り口から、散歩文化と東京の都市像の変化を俯瞰することを試みました(どのテーマで切るか、どの街で切るか、編集部内では喧々諤々でした)。そして3つ目が、バックナンバーと歴代編集長のメッセージによる「『散歩の達人』の30年」です。

 たとえば「よりみちの30年」のうち「書店の30年」では、大型チェーン店、個人経営の新刊書店、独立系書店、古書店といった異なる形態の書店の店主に話を伺いました。文章は、『東京こだわりブックショップ地図』の著者でもある屋敷直子さん。店主へのインタビューに、屋敷さんの洞察を加えて、紙の本を売るリアル店舗の攻防の30年をまとめ上げています。
 たとえば「あのまちの30年」のうち「神保町の30年」では、老舗飲食店や老舗書店などを取材しました。「神保町ってどこ?」という人が大多数だった30年前から現在へ。2025年には『タイムアウト』の「世界で最もクールな街」で1位に選ばれるなど、近年では世界的な知名度も高まり、レトロ喫茶には長い行列ができるような街に成長しました。文章は、あらゆる街に繰り出して記録を続けてきた下里康子さん。2026年3月、注目の中でリニューアルオープンを果たした『三省堂 神田神保町本店』では、オープン直前の店内をご案内いただき、ポッドキャストの配信も行いました。

 そして「『散歩の達人』の30年」です。12冊×30年で全360冊。さらに創刊前年に出たパイロット版を含めた全361冊の表紙画像を並べ、その1冊1冊にコメントを添えました。私にとって、紙の匂いをかぎながら、1冊1冊を開く作業は楽しいものでした。もうなくなってしまった路地や建物、街の皆さんの証言、その時代ごとの空気感、変わってしまった風景、揺れ動く価値観の変化も見えてきます。あんなこともあった、こんなこともあった。雑誌には、記録史としての価値があることを再認識しました。『散歩の達人』の30年には、東京と散歩のリアルな30年が詰まっていました。

 「『散歩の達人』の30年」には、5名の歴代編集長からのメッセージも収録しました。初代編集長・中村宏覚からは「なぜ散歩雑誌をつくろうと思ったのか」として、創刊時のコンセプトが語られています。また、3代・5代と2期にわたり編集長を務めた武田憲人からは「あの絶望的状況から29年」として、自らに課したミッションや、中村路線の継承、そして“売れる雑誌”にするための戦略がつづられています。歴代編集長が何を考え、何をつくってきたか。これらを読めたことは、私にとっても大きな財産となりました。

 『散歩の達人』だからこそ実現できた「東京の散歩の30年」。石田衣良さんの「散歩の三〇年」、角田光代さんの「書店の居場所」、山田詠美さんの「常連にはなれなくても」という贅沢な3本の特別寄稿も花を添えています。機会がありましたら、ぜひ手に取っていただきたいです。
 そして、この雑誌は10年後、20年後、30年後と、さらに価値を増していくものであることも付け加えさせてください。

 40年後、50年後も、『散歩の達人』をよろしくお願いします。



〇『散歩の達人』2026年6月号




書名:『散歩の達人』2026年4月号 創刊30周年特別号「東京と散歩の30年」!
出版社:交通新聞社
判型・ページ数:A4変型・130ページ
定価:1,100円(税込)

好評発売中!
https://www.kotsu.co.jp/special/sanpo30th/

Copyright (c) 2026 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース