『証言・満州キリスト教開拓村 国策移民迎合の果てに』石浜みかる(ノンフィクション作家) |
1868年の明治維新以降、日本は西欧にならって帝国主義国家路線を採りました。韓国を併合すると、さらなる領土拡張の欲望やみ難く、日本海を渡り、1931年の、奉天(今の瀋陽)近くの鉄道爆破を契機として、満州全土(現在の中国東北部)を日本の「生命線」化していき、
翌年、傀儡国家「満州国」を建国しました。そして占領地全体に、国策として、日本本土から開拓団を次々に送り込みました。移民です。その中に、2つのキリスト教開拓団がありました。キリスト教界も国策に迎合したのです。 本書の「証言」は、その2つの開拓団の団員であった方たちから、筆者が直にお聞きして 書き留めた言葉です。戦後沈黙してきた時間があまりにも長かったので、沈黙を破ると、 敗戦時の悲惨な記憶がほとばしり出るのでした。満州での暮らしは現代に少しも伝わって いないと確信し、筆者は夢中で書きとどめていきました。全体像をできる限り描き出すのは、 わたしの役割であると自然に感じられました。スタートしたのは30年ほど前のことでした。 当時筆者は50歳代でした。以後満州(満州国)について学び続けてきました。原稿から 書籍への道は長かったのですが、電子書籍が広がるなかで、手で触れられる造本で、 やっと読者のみなさんのお手元に届けられる時がきました。無上の喜びです。 開拓団員たちは、日本敗戦によって、本土へ引揚げました。満州で築きあげたものはすべて失いました。満州入植そのものが国家による侵略行為だったからです。現地民をその農地から追い出し、肥沃で広大な農地から大豆その他の農産物を得て本土に送りました。満州の大地 戦後の経済が、爆発的かつ安定的に成長していった日本では、戦争の責任や他国民への加害など、〈疚しさ〉を感じる過去など振り返らないでもうまくいくのだという楽勝気分が、指導者にも一般市民にも広がりました。日本の学校における歴史教育において、近代史はほぼ省略されました。近代史隠蔽です。そこに落とし穴がありました。緊張感を失ったまま、いまに しかし少なからぬ人たちが、現在の社会情勢の変化に危機の到来を感じとっています。 本書の構成は、第一章から第四章までは時代背景と前史、および満州への邦人移民の全体像の素描です。第五章がキリスト教開拓団の本論になります。第一章から第四章までの説明が 開拓団・青少年義勇隊の農場・報国農場など、日本人の村は全満州に1000近くありましたが、このキリスト教開拓団員たちの証言ほど、小さな個人がどう生きたかを自ら語った「団員たち自身の証言」は見当たりません。敗戦時の満州在住日本人は約155万人、開拓団員は約27万人、死者は約8万人。語られなかった無数の個人の物語があったのです。 本書は、ひとりの青年牧師がはじめた「探求の旅」を原型にしています。1970年代に日本キリスト教団史の作成が始まりましたが、あちこちから集められた戦時中の資料を時系列に 現代の日本は世界に先駆けて「労働人口減少社会」に突入しました。建築現場でも、工場でも、農地でも、多民族の労働者を雇っています。人間として対等に相和して働いているでしょうか。満州で現地民を使っていたのは、曾祖父母、祖父母の世代ですが、反省がなされていないなら、世代が交代しても、「多民族協和」の重要性や人権意識は、いまの労働現場で十分に意識化されていないかもしれないと危惧されます。 危惧はもうひとつあります。SNSが急速に発達し、デジタル文明の時代になりました。 彼らの「証言」を、読んでいただけることを願っています。
![]() 『証言・満州キリスト教開拓村 国策移民迎合の果てに』 日本キリスト教団出版局 刊 石浜みかる 著 3,300円(税込) ISBN:9784818411548 好評発売中! https://bp-uccj.jp/book/b639573.html |
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