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『「印象派の道」を翻訳して』

 

『「印象派の道」を翻訳して』

永峯 朗(渡内書店)

 「印象派の道」(リオネッロ・ヴェントゥーリ)は元々、神奈川近代美術館の酒井忠康氏の勧めもあり翻訳したものです。三省堂書店の山口さんのお手を煩わせて、なかなか綺麗な本に仕上がりました。

 中身は印象派を網羅的に訳したもので、全体像が分かる貴重な本となりました。イタリアのネッロ・ボランテ氏は序文の一部でヴェントゥーリの特徴をこう書いています。

 「ヴェントゥーリの代表作は、「プリミティブ派の趣味」であり、その中で印象派を実証的に研究し、安易な図式化を拒み、詳しい内容を盛り込んだ。これは、ニューヨークのコロンビア大学での講義をまとめたもので、ジョルジョーネ、カラバッジョ、マネ、セザンヌの重要な作品を検証したものであった。

その源泉は、過去の芸術作品についての深い認識であり、リオネッロ・ヴェントゥーリの印象派及び印象派の芸術家たちや派生した印象派に関する論文集は、彼が芸術史研究を刷新するために行った貢献を理解する上で、基礎となるのは芸術作品それ自体ではなく、その内容、すなわち詩的性格そのものであった。
 
 そのすべての源泉となっているのは、文学的趣味でも、芸術事実についての発言でもなく、理念の運動についての深い認識であり、過去の世紀についての芸術史的探求の性格をもつ方法論であった。彼は、さまざまな時代に属する芸術作品を、安易な分類によって図式化するのは不可能であるとの確信をもっていた。もし図式化を図るならば有効性を保つために、それがきわめて厳密で抽象的なものになるのは必然で、模範的な完全さという普遍の範疇にあてはめるのは、多分不可能であろう。その当然の帰結として、開花期および衰退期について論ずることはなかった。
 
 これらの時期の設定は、それ依然の理論構造を根底から破壊するという重要な性格をもち、その多様な歴史的条件の必要性により決定されるものである。例としては、マネやセザンヌ、過去においてはレオナルド、ジョルジョーネ、カラバッジョがそうであった。

 別の図では、ヴェントゥーリは、偉大な歴史家である父親のアドルフォの流派から出発しながら、父親の狭い、単なる文献学を超越し、同様に単なる視覚的な批評をも超越し、作品を
見る独自の視覚を失わずに、観念や努力による抽象的な視覚に依拠して判断することは決してなかった。そうではなく、常に作品のもつ具体的な現実にその根拠を置いた。つまりは、作品を再びその歴史的時間の中に観察するのである。その一例として、モネの1875年の作品「アルジャントゥイユの帆船」について書かれた文章を引用してみよう。

 「よくみるとよい-とヴェントゥーリは、1866年の作品と比較して言うー論争的な性格は消滅していて、明暗法の対比は繊細な技法にとって代わられている。この絵では、個々の
色彩がくっきりとした色合いを保ち、それが光と陰を作り出し、以前にはなかった様式の統一をもたらし対象を燃焼させるものとなっている。レンブラントやティツィアーノが教えたように輪郭線は損なわれている。

1866年の平板な画面は、1875年には大気の塊状になり、以前の平面的なヴィジョンの不愉快なコントラストやアカデミックな遠近法的構図は、大気の充満した空間を構成する霧状の色彩と空間を発見することで乗り越えられている。趣味の変化ばかりではなく、芸術が枠組みから抜け出す様子を、二つの作品の画布の縁の部分を見るだけで知ることができよう。

モネは自然に浸りきることをテーマとして、光線をその導き手として新たな自然を創造しようとした。すべての事象を光線の中に参加させ、閉鎖的でなく、切り離されてもいず、体系的でもなく世界全体が光で揺らめき、生命と絶頂感の源泉そのものとなる新しいフォルムを創造する」「印象派(芸術)誌38巻1935年第二部」
 
 この模範的な文章は、様々な特徴と大気のような輪郭線と色彩と新たな空間の広がりを持つ、その作品の存在に気づかせてくれた。また、その重要性と必要性、つまりはそれらの条件によって見出された新たな人間性を示してくれた。
 
 そのためにこそ、繰り返して言うが、ヴェントゥーリにとって芸術作品は、プラトン的定義にしたがえば、具体的な対象物として、ある特殊な言語構造によって伝達可能な創造物として存在するのである。」
 
 印象派の研究の世界でも第一人者で、欠くことのできない、リオネッロ・ヴェントゥーリの本を翻訳し、日本の皆様にお読み頂けるのは、幸いであり、私の大きな喜びであります。これからも美術史に関心がある方、研究される方々にお読み頂きますように、心から願います。ありがとうございました。

 
insyohanomichi

『印象派の道』
三省堂書店/創英社 
リオネッロ・ヴェントゥーリ 
長峯 朗(渡内書店) 
5,500円(税込)
ISBN:978-4-87923-222-9
 
好評発売中!
https://www.books-sanseido.co.jp/soeisha_books/2414111

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