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近代出版研究が三号雑誌になりました! ――戦後「書物雑誌」のまとめ記事も掲載です

近代出版研究が三号雑誌になりました!――戦後「書物雑誌」のまとめ記事も掲載です

小林昌樹(近代出版研究所主宰)

「三号雑誌」になりました

 出版史上の「小さい問題の登録」(by柳田國男)を目指す本誌も、はや3号。少なくとも「三号雑誌」にまではなりました。
 本誌は全国配本されるような雑誌ではありません。東京なら神保町の東京堂でフェア展開をしてくださっていますので、そこでバックナンバーも含め購入できるでしょう。京都では古書店・善行堂さんが多く仕入れてくださっています。他にも意のある独立系書店や古書店さんが仕入れておられます。例えば、兵庫県・朝来市にある『本は人生のおやつです!!』さんなどです。

東京堂(神保町)さんで三位

 いつもなら瞬間1位になる東京堂(神保町)さんのベストセラーリストでは、残念! 本屋大賞1位の宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』などにはばまれ(笑)、3位に終わりました(それでもスゴイとは思います)。いつも通っている東京堂さんには頭があがりません。

年刊でも「雑誌」なのでレパートリーは豊か

 出版業界紙、火保図(戦前住宅地図代替)、「白ポスト」(絶滅危惧種!)、明治エロ絵葉書の流通、新聞の欄外や版次、まんじゅう本、出版社マーク、出版社史本、税関検閲、雑誌祭、カセットブック、版権などなど。どれもこれもそこそこ知られてはいるけれど、論じられることがほとんどなかったものばかりです。そのうえどれもこれもオモシロい。オモシロくってタメになる?!!!
 黒岩比佐子さん、横田順彌さんといった古本人脈について貴重な証言もあります。

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【図1】集められた書物雑誌

昭和30年、少雨荘・斎藤昌三が展望して以来69年ぶり――書物雑誌の歴史

 巻頭座談会「「書物雑誌」と雑誌の「書物特集」:『近代出版研究』の先祖調べ、あるいは偽系譜作りの試み」をちょっとご紹介。
 このメルマガの読者は、『ダ・ヴィンチ』や『本の雑誌』といった、本についての雑誌を
当然ご存知のことでしょう。でも、そんな雑誌はいつからあったのか? 実はこれを総覧した最初で最後が戦前の大書痴、斎藤昌三の『書物誌展望』(八木書店、1955)でした。
つまり、実に69年ぶりに本誌で書物の雑誌のアレコレが回顧されたのです。

 書物雑誌の大先輩『sumus』(1999-2010)に参加していた林哲夫さんからもこんなお言葉をいただきました。
 「座談会「書物雑誌」と雑誌の「書物特集」はいかにも楽しげで、その分少々脱線しながらも、書物雑誌のおおよその流れがつかめるような内容になっているのには興奮を禁じ得ない。『sumus』もそこで名前を挙げられているわけだし、松本八郎さんの『サンパン』についても森洋介氏が通覧したうえで分析的に紹介しているのが当を得ている。」

 林さんに褒められ、泉下の斎藤昌三にも顔向けできます。いちおう私は少雨荘の孫弟子を自称しているので。

書物雑誌にコンドラチェフの波動説!?

 個別の分析もさりながら、座談会ゆえに思ってもみなかった仮説が飛び出したのには皆びっくり。すなわち〈書物雑誌20〜25年周期説〉です。関東大震災(1923年)をきっかけに書物雑誌ブームが発生したのはつとに有名でしたが、実はそれから20ないし25年周期で書物雑誌がブームになっていたと判明したのです! 本当にびっくりしました。

とある国会図書館OBからも、「書物雑誌コンドラチェフの波動説、なかなか面白い「仮説」だと思います。ポアンカレを待つまでもなく、仮説こそ科学の母ですから」との言葉をいただきました。20年周期なので、クズネッツの循環説のほうが近い気もしますが、そこいらへんはご寛恕いただいて、おどろきのオモシロさをご堪能ください。

近代出版を調べるには

 3号の特集は近代出版を調べる技術です。これは当初予定の特集「新聞書誌学」――本当にこういったものが1980年代なかばに提唱されました――が空中分解したので、代わりに編成されたもの。編集途中で研究員が「これらって「調べる技術」要素が多いのでは」と言い出したのがきっかけでした。たまたま私が『調べる技術:国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』という本を出して当たっていたのです(8刷で3万部)。

 エロ本研究ためのレファレンス本解題、小売書店の調べ実践、出版人物調査の方法、出版統計論の4本が集まりました。「本屋誌」を採録するために全国を回っている松永弾正さんには頭が下がります。「古本屋ツアーインジャパン」の歴史版という感じでしょうか。古ツアさんは全国に出没するので本職が不思議がられていましたが、松永さんは如何?

 一方でなぜだか(笑)感想がネットに上がりづらいアダルトメディア研究家・安田理央さんの論文について紹介しておきます。

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【図2】安田さんのエロ本研究レファレンス書籍解題

エロ本を調べるのにも調べる本があるのです

 私も前職の国会図書館でで仕事がらエロ本の調べ方を案内したことがありました。前職場は収集率が2割以下ながらその手の本も法定納本で収集しているので、実際に篤実な研究者が
やって来ます。

 以前、ライターの平山亜佐子さんの手引きで安田理央さんのコレクションを見学したことがあり、その間口の広さに驚きました。文学や芸術と異なり、自分の好みで集めるとこのジャンルは極端に狭くなるというのです。それが調査研究用にまんべんなく広いコレクションと
なっていました。
 そこから研究に必要なレファレンス的書籍をご紹介いただきました。司書風に言えば風俗本の解題書誌です。この書誌を読んで、高かったけれど古書で買いましたという篤実な研究者の報告をすでに受けています。

 アダルトメディアは現在、ほとんどネットに移行してしまったので、紙メディアを中心に
記述するこの書誌は本誌にふさわしくやや歴史的です。現在の情勢について知りたい向きは
同じ安田さんらが編纂した『アダルトメディア年鑑』を入手してください。現在の全体像が
わかります。献本されたので目を通しましたが、いろいろ思いもよらない事態が展開していることがわかります(とくに音声メディア系で)。

「三号雑誌」の語誌も

 ページ数が増えたうえに物価高。やむを得ず定価を300円あげましたが、前号にまけずオモシロいのでぜひご採用ください。ようやく三号雑誌になれたので「三号雑誌」という複合語の語誌についてもコラムを用意しました。こういった「小さい問題の登録」をこれからも続けてまいります。
 
 
kinaisyuppansyoei

 
『近代出版研究 第3号』
近代出版研究所 刊
皓星社 発売
2,530円(税込)
ISBN:978-4-7744-0820-0
 
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774408200/
 

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