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古本屋なしにはできなかった『麻雀漫画50年史』

古本屋なしにはできなかった『麻雀漫画50年史』

V林田

 2024年5月に文学通信より刊行された筆者の初単著『麻雀漫画50年史』は、タイトル通り、専門誌『近代麻雀』(竹書房)が刊行され続けているなど日陰者気味ながら日本の漫画シーンの中で独特の地位を築いている「麻雀漫画」というジャンルについて、その発祥から現在までの歴史をまとめたものとなります。

 この原稿を読んでいる方の多くは、麻雀漫画というジャンルについて、『ぎゅわんぶらあ
自己中心派』『哭きの竜』『アカギ』『咲-Saki-』などといった一部の有名作品については
読んだことがあるか名前を聞いたことがあるかはあっても、ジャンルの全貌についてはあまり
ご存知ないことでしょう。

「読み捨て」的な要素が強い大衆娯楽ジャンルであることから評論などの場で取り上げられることは少なく、作家や作品、専門誌の数々はかなりが忘れ去られているためです。
例えば80年代の一時期は、竹書房以外にも徳間書店、芳文社、双葉社、笠倉出版社など様々な会社から、なんと15の専門誌が同時に刊行されていたという、漫画雑誌史上でもそうそう見られない事態が発生していたのですが、そう聞いても「初耳」「信じられない」などと思う方がほとんどだと思います。

 筆者は、そんな麻雀漫画について、11~19年に『麻雀漫画研究』シリーズ(全22号)と
いう同人誌上で、関係者(漫画家、原作者、編集者等)へのロングインタビューを行ったり、これまでに発刊された麻雀漫画単行本を可能な限り(9割方は押さえられたと思います)収集してレーベルごとにまとめて紹介したり、国会図書館や明治大学米沢嘉博記念図書館、旧現代マンガ図書館に収蔵されている麻雀漫画誌の収録作品リストを掲載したりといった調査を続けてきました(「なぜそんなことを?」と思われる方もいましょうが、誰も調べてないことを調べてたら楽しくなってしまったので、成り行きで……)。

そして、その研究成果を通史の形でまとめたのが本書となるわけです。空前の本になったと自負しています(こんなことの研究に人生のリソースを割こうと考えるアホはいないので)。

 それにしても、この研究では古本屋に本当にお世話になりました。近年でこそ過去作の電書化も増えてはいますが、収集し始めた当時は、過去作については当然ながら古本屋を頼るしかない状態。この麻雀漫画というジャンル、マニアがついているごく一部の作家(官能劇画を描いていた人など)を除けば単行本にプレミアが付いていることはほとんどなく、金銭的な意味では苦労があまり大きくはありませんでした。が、それは同時に、「価値がないので、専門の古本屋でもあまり置かれていない」ということ。ウェブ通販やネットオークションの検索画面にタイトルを入れても梨の礫という本も少なからずあり。

 というわけで、収集は足で探すことに頼らざるを得ませんでした。まず優先的にローラー
して回ったのは、いとうグループやほんだらけといった、現在はだいぶ店舗が少なくなった
(いとうに至っては気がつくと全店舗なくなってますね)郊外の大型古書店チェーン。
こういう店は、10年単位で棚から動いてなさそうな外道でも枯れ木も山のにぎわいとばかりに棚に刺さっていたり、ホコリが積もった全巻セットが棚の上に放置されていたりとかがよくあったんですね。

今は亡きほんだらけ越谷蒲生店なんかは、なぜかは不明ですが、最高レベルに古の麻雀漫画
単行本が充実していたので今でも強く印象に残っています。大きな道からのアクセス優先で
駅からは微妙に遠い店が多くて、免許のない身にはしんどいところもありましたが。

 次に見て回ったのは、郊外の町にあって近隣住民の売り買いがメインと思われる、ある程度年季の入った古本屋です。Googleマップで当たりをつけ、「古本屋ツアー・イン・ジャパン」さんのブログ内を検索してみては、漫画の取り扱いがあるかや外見写真といった店舗情報をチェック。特に、入口にコンビニ版コミックスを並べた均一台があったりするようなところは積極的に押さえに行きました。

これは、麻雀漫画にはコンビニ版でのみ単行本化されている作品がそれなりにあったりするのが理由です。このような古本屋参りの果てに、本棚の半分くらいが麻雀漫画単行本で埋まり、棚の上には古雑誌を詰めた段ボールが積まれている家が生まれました。

 なお、集めた資料の一部については、2024年7月12日~20日にかけて、東京古書会館2階にて「麻雀漫画の歩み展」として展示いたします。貧乏人御用達のワンルームアパートで同居するには正直無理がある量(冷蔵庫を置くスペースさえ捻出できていない)なので、筆者としては前から「本を書いたら大半は然るべき図書館等に寄贈したい」と言い続けているのですが、「せっかくなので処分する前に展示しましょう」という話になったものでして。興味を持たれた方はこのイベントもよしなに。

 
 
V林田(ぶい・はやしだ)
1982年生まれ。神奈川県川崎市高津区出身。東京都立大学人文学部社会福祉学科卒業後、
古書店、時刻表編集、ライトノベル編集、業界新聞、ITベンチャーなど一貫性なく職を転々とした末にフリーライターとなる。『SFマガジン』『本の雑誌』等で記事を執筆しているほか、漫画総合情報サイト「マンバ」上でノンジャンル漫画紹介コラム『珍しマンガ探訪記』を連載中[https://manba.co.jp/manba_magazine_authors/32]。

並行して、同人サークル「フライング東上」で、埋もれた麻雀漫画作品や大ファンである
ほんまりう氏の漫画作品を復刻したりもしている。その他、kashmir氏の漫画『てるみな』(白泉社)の幕間コラム執筆、『ハヤカワ文庫JA総解説1500』(早川書房)の一部執筆、
アダルトゲーム『なつくもゆるる』(すみっこソフト)の生物部監修などを担当。
本書が商業出版での初単著となる。第二単著として、『本の雑誌』20~23年連載の鉄道書紹介コラム「鉄道書の本棚」の単行本化を準備中。

 
 
cover_mahjong50
 
 
『麻雀漫画50年史』
著者:V林田
出版社:文学通信
発売日:2024/5/30
定価:本体2,400円(税別)
四六判・並製・564頁
ISBN:978-4-86766-049-2 C0076
 
好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-049-2.html

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