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メールマガジン記事 自著を語る

自著を語る(116) 「松村書店の松村さんの思い出」

「松村書店の松村さんの思い出」

森岡督行

「日本の古本屋」のメールマガジンを読まれる方は、古本と古本屋に関心のある方ばかりなので、いまはもうなくなった、神保町の松村書店の松村さんをご存じの方も多いのではないでしょうか。神保町交差点付近の靖国通り沿いにあった松村書店は、洋書の美術書の専門店でした。

ご主人の松村さんは、とにかく毎日笑顔で、愛犬のハナをいつもそばによせていました。社屋は3階建てだったでしょうか。一階のお店の玄関は、靖国通りよりも若干低い位置にあるため、雨の日はよく、早じまいをしていました。植草甚一さんが、本に書いてある価格を消しゴムで消して、勝手に独自の価格を記入していたという逸話も残されています。松村さんの笑顔は、いま思い出しても、そんなお店のゆるさ加減をよく表して います。

この度、晶文社から出させていただいた「荒野の古本屋」でも、松村さんのことも、ほんの少しですが書かせていただきました。本書は、「就職しないで生きるには」というシリーズの一冊ですが、決して、仕事をしないで生きていこう、というわけではありません。むしろ、生きるためにどう仕事を生み出していくか、その仕事をどう楽しむか、という観点から企画された本だと思っています。

私はいま、松村書店の松村さんこそが、「就職しないで生きるには」を体現した人物だったのではないかと考えています。何度思い出しても、あの笑顔からは、神保町の古本屋稼業を楽しむ愛くるしさが伝わってくるからです。自分も松村さんみたいに笑っていたいのですが、この文章を書いているいまも支払いに追われているのが現実です。(事実です)

本書の内容は、松村書店の隣の一誠堂書店に入社した私が、独立して森岡書店を開業し、現在に至るおよそ16年間に身のまわりで起こったことです。他愛のない自伝のようなものですが、装幀を矢萩多聞さん、装画をミロコマチコさんが担当してくださったので、古本屋に持ち込んでも、いくらかの価値がつくのではないかと考えております。願わくは、松村さんにも読んでほしかったです。「古本屋が自分のとこなど書くな、バカ」と言われそうですが。
kouya
森岡書店  http://moriokashoten.com/

 『荒野の古本屋』 森岡督行著
晶文社刊 定価:1575円(税込) 好評発売中
http://www.shobunsha.co.jp/?p=3025

Copyright (c) 2014 東京都古書籍商業協同組合

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