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自著を語る(112) 完全版『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』

完全版『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』

磯前順一

ザ・タイガースの評伝を書くことは、中学生の時からの夢だった。タイガースが解散して程ない1970年代半ばのことである。解散から数年後に彼らの音楽を聴きはじめた私は、その活動期間に間に合わなかった自分の幼さを悔やんだ。そして、いつかは彼らの音楽やその葛藤について本格的な評伝を書きたいと願うようになった。それから、本書『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』が刊行されるまでに、約四十年という年月を待たなければならないのだが。

その後紆余曲折を経て、学問の世界で文章を私は書くようになる。しかし、近年は違和感を覚えることが多く、本書と同様に昨年に刊行された『閾の思考 他者・外部・故郷』を一区切りとして、学問の世界からは距離を置こうと思うようになった。しがらみだらけの既存の業界から離れる思いが強まるなかで、タイガースのメンバーであった瞳みのるさんや加橋かつみさんが感じていた芸能界に対する違和感というものが、私の心の中で鮮烈に蘇り、彼らとの距離がふたたび近くなり始めた。そんなとき、2011年春に瞳さんの自伝『ロング・グッバイのあとで』が刊行される。瞳さんは四十年ぶりにメンバーたちに再会し、ファンの前にも姿を現わす。そして、タイガースの再結成の動きが浮上してくるなかで、宿願であるタイガースの評伝を書くのならば、今しかないと私は強く感じるようになる。

それならば、瞳さんの自伝の担当者の方ならばどうだろうか、ダメもとで集英社に電話を入れた。なんとも幸運なことに、その担当者のKさんが直接電話に出たのである。東京でお目にかかることになり、これまでの私の著作をお見せしたり、タイガースの評伝に関する考えを話すなかで、トントン拍子に企画が決定した。やがてKさんは、この評伝のタイトルを『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』と命名した。この書名が内容を決定づけた。あとは、私がKさんの与えてくれた書名にふさわしい内容を書けばよかった。

実のところ、わたしがKさんとのやりとりの中で完成したオリジナルのタイガース評伝は、現在刊行されている本の二倍の長さのものであった。タイガースの未発表曲の情報、ゴールデン・カップスやジャックスとの比較、高度経済成長と天皇制ナショナリズム、ベトナム戦争と学生運動、寺山修司とミュージカル・ヘアー、三島由紀夫の死とロラン・バルトなど、そこには様々な物語が組み込まれていた。そのままの形で刊行されていれば、タイガースと戦後日本社会の密接な繋がりももっと明確なものとなり、もうひとつの1968年論として結実すると私たちは考えていた。しかし、新書一冊の手ごろな値段と厚さでファンに届けたいという編集方針のもと、最終的にはKさんが現行版へと編集作業を行っていった。それでも、その内容を惜しんで彼は最後まで完全版の刊行を様々なかたちで模索していた。そして、今、Kさんの思いを胸に、タイガースのメンバー、瞳みのるさんが完全版を手にしている。遠くないうちに一般の読者にも届けられたならばと願っている。
bokura
 『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』
  磯前順一著 集英社刊
   定価 819円(税込) 好評発売中
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-720714-9

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