出版業界の本で、古書業界を取り上げることは少ないが、本書は26%が古書の頁である。
執筆者は日本古書通信編集長の樽見博氏である。戦後の古書業界が歩んだ道をテーマに論述
したものである。内容は、①変わりゆく古書業界のかたちと人 ②理想の古書店を求めて
③書物への深い敬愛 ④日本古書通信社に入社した頃(樽見)⑤懐かしき古書店主たちの談話
⑥信念に生きる古書店主たち ⑦読書に裏付けられた古書店主 ⑧書痴の古本屋店主
⑨郊外の古書店主の生き方 ⑩戦争と古書店 ⑪個性あふれる古書店主 ⑫土地の匂いを
まとう古書店主 と続いている。
更にコラムとして「古書市場の変化」「インターネット普及と古書業界」と現在の流れにもふれている。写真の多いことも本書の特色である。「古書肆・弘文荘訪問記」「古書目録
りゅうせい」「古書游泳」「全国古本屋地図」「彷書月刊」「神田神保町・古書街ガイド」
「下町古本屋の生活と歴史」・・・懐かしい写真も豊富である。小生は青木正美氏と同年で
ある。若い頃お店にお邪魔してお話を伺ったことがあるので、一層この本は身近に感ずる。
小生が担当した出版流通の項は特色が三つある。
①出版先進国、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国、中国の出版流通の紹介で
ある。先進諸国のドイツ、フランス、アメリカ等は1~3%は伸びている。日本だけが連続
14年ダウンである。その差はどこにあるのか。出版流通の完成度とアマゾン対策にある。
中でもドイツの完成度は100%である。しかも10年前に完成している。本の注文を前日
夕方6時までにすれば、翌日朝10には書店に100%届く。フランスも翌日到着は80%にまで
向上している。フランスは取次主導ではなく、大出版社主導の流通である。アシェット社は
30%のシェアを持つ。プラネッタ社、ガリマール社が続いている。講談社、集英社が取次を
やっている様なものである。
イギリスはもっと面白い。W.H.スミスとかウォーターストーンズ、フォイルズ書店、
ハッチャーズ等、有名書店はあるが取次は育たなかった。23,000社のディストリビュー
ションが賄っている。イギリスは英語圏の利を味方にして、世界ダントツの輸出国で
ある。売上4779億円に対して、輸出額2616億円は、対売上54.7%の高率である。日本は
1.1%と悲しい。
アメリカはトランプ氏流自由奔放であるが、やはりアマゾンが強い。
韓国は疑似日本型であったが、現在は日本より進んでいる。
共産圏の中国の出版事情は、1990年以降、改革、開放政策で和らいできているが、まだ闇
の部分が多い。本書では触れなかったが北朝鮮に至っては、書店がない。だからこどもの
本、絵本、小説、実用書などは、あろうはずがない。人口258万人のピョンヤンに17店の
政府刊行物センターがあるだけである。
②特色の2は紀伊國屋書店の実績である。
書店の不振の中、紀伊國屋書店の一人勝ちがある。10年黒字経営と聞いただけで驚く。本書
では紀伊國屋書店一人勝ちの検証をした。紀伊國屋書店の国内店舗は69店舗、1306億円の
売上である。和書の業界シェアは5%である。専門書はその倍ある。好調の一因は外商と
図書館業務である。紀伊國屋書店のの海外戦略をみてみよう。海外店は10ケ国、42店舗、
売上300億 円である。海外店No1のドバイ店を筆者は訪れた。月商1億円、従業員90名
(日本人スタッフ7名)、20ケ国の言語対応は可という。店頭から一番奥の売り場、美術書
コーナーまで歩いて 5分位かかった。商圏は飛行機で3時間以内という。好調の因は、
店長以下スタッフの教育の行き届いている事だと思った。
③特色の3は政府の書店支援である。
来店客数の減少、アマゾンによる売上減、キャッシュレス決済の増加で、3%の手数料が
粗利益を圧迫等々、書店環境は最悪状態である。その上、知識欲、情報欲の強い日本人
は、スマホは読むが、本は読まない民族に成り下がってしまった。全国書店の倒産、
廃業をみて、見かねた政府(通産省)は重い腰を上げた。政府の支援の観点は書店という
一業種ではなく、文化産業の振興という捉え方である。経産省は書店振興プロジェクト
チームを立ち上げた。業界三者と経産省で意見交換も数回持たれた。経産省は「書店
活性化のための課題」のパブリックコメントの内容も発表した。取引・流通慣行に関する
意見が多く、正味の変更などについての早急な見直しを求める切実な声が多かった。

書名:『出版流通が歩んだ道--近代出版流通誕生150年の軌跡』
著者:能勢仁・八木壯一・樽見博
発行元:出版メディアパル
判型/ページ数:A5判/208頁
価格:2,640円(税込)
ISBN:978-4-902251-45-6
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