紀田順一郎先生、卒寿記念特集!
昭和平成令和と、長年、作家、書物評論家として活躍してきた紀田順一郎先生。その先生の特集が4月10日発売の年刊雑誌『近代出版研究2025』に載ります。あたかもよし、紀田先生は今年4月、90歳の卒寿を迎えられます。特集で先生の長寿をお祝いしたいと思います。
先生はこれまで半世紀以上にわたり、無慮300冊を超える図書を執筆、企画、復刻してこられた書物博士ですが、意外にも初めての特集です。先生の特集を創刊4年目にして我々編集部で組めたことは望外の喜びです。
古本を箱で買う男!――片山杜秀先生
紀田先生特集で特大号となった2025年号ですが、他にも恒例の記事が満載です。
当雑誌の特徴となった巻頭ロングインタビューには、音楽評論家にして日本政治思想史家である片山杜秀先生をお呼びしました。
というのも所長が週末古書展で古本を箱買いする(=段ボール箱が必要なほど買って送ってもらう)人がいるという噂を聴き込んできて、「そんな人ならば古本整理の超絶技巧を持っているはず。ぜひ話を聞きたい!」と思ったからでした。
たまたま神保町の週末古書展で所員がお会いしたのでインタビューを頼んだところご快諾。30頁以上にわたるロングインタビューになりましたが、先生幼少のみぎりからの古本豪傑談が満載で、スタッフ一同、爆笑に次ぐ爆笑でした。ぜひ読者の皆さんにも片山先生の楽しさを
感じてほしいと思います。先生の巨大書庫写真も掲載。
特集誕生のきっかけ
紀田先生特集に話を戻します。
今回の大特集「書物百般・紀田順一郎の世界」の話が持ち上がったのは、世間がまだコロナ対策に追われていた2023(令和5)年夏のことでした。当研究所所長は学生のみぎりから熱心な紀田順一郎ファンで、特に「古本屋探偵もの」に耽溺することおびただしく、何かといっては「森田一郎のモデルは森山太郎だよね!」とか、「この前、テッチャンに聞いたんだけど、紀田さんが〔国会図書館の〕新館喫茶で稲テッチャンに取材したんだよ」などと申します。
ちなみに「稲テッチャン」とは国立国会図書館の一期生(昭和23年入館)にして、戦前の
大書痴・斎藤昌三の晩年弟子である稲村徹元さんの現役時代の館内名称(あだ名)です。森山太郎は昭和20年代に特殊出版で活躍した謎の人物。稲村さんが森山を斎藤昌三に紹介したのでした(のち森山は失踪)。
紀田先生から玉稿が!
そんなに紀田先生の諸著作が気になるのならば、編集部で先生に取材してしまおうという話になったのですが、実際にはかなわず、代わりに先生からインタビュー記事に擬した記事をいただけました。先生が日本で初めて本格古本屋探偵小説を書いた時の経緯を回顧したものです。これをコアにして特集が組めると編集部一同、わきたったことは忘れられません。
三上延先生の「ビブリア古書堂の事件手帖」が日本全土を席巻したことは、本好きの皆さんで知らない人はいないでしょう。そして、古本屋探偵の先祖に紀田先生の「古本屋探偵の事件簿」があることは、日本の古本屋メルマガを購読中の全国22万人の方々の記憶にあることでしょう。なんと紀田先生ご自身でその誕生秘話を明かしてくださったのです。
荒俣宏さんの強力な一押し!
紀田先生の特集なので、兄弟弟子にあたる荒俣宏先生に思い切って執筆依頼をしました。
すると、六十年余の師弟関係を振り返った書き下ろし「「博捜一代」随聞記」なる玉稿を採算度外視でいただけました。これまた全部で3万5000字(30頁以上)になる回想です。紀田
先生についての記事でこんなに長いものは後にも先にもこれだけではないでしょうか。
この他にも紀田先生300冊のご著書、それぞれの側面を明らかにすべく、気鋭の方々に執筆依頼しました。
そのスジの諸先生方の論考
先生の幕末明治研究については、『偽史冒険世界 カルト本の百年』で有名な歯科医師・
評論家の長山靖生さん、読書論など教養主義史については『批評メディア論』で知られる評論家・大澤聡さん、古本論については、古本ライターで有名な南陀楼綾繁さん、紀田先生のアンソロジストとしての側面については同方面の泰斗、東雅夫さんといった方々に論じていただきました。書物関係の賞で重要なゲスナー賞や、図書館論についても、そのスジの関係者、専門家に語っていただきました。
大アンケート――『みずす』の「読書アンケート」のような読み応え
それだけでも十分すごい特集なのですが、今回特別に紀田先生のご著書について(当研究所としては)大規模アンケートを敢行しました。結果60余名の方々のご回答を載せることができました。
実はこのアンケートも、通常アンケートと異なり、細かい字で見開き2頁になるような長文も多数あり、特大号にふさわしい大アンケートとなりました。
排列をほぼ生年順にしたところ、通読すると戦後日本読書人の読書史がなんとなく分かるようなものになりました。
ちょうど、雑誌『みずす』の毎年恒例「読書アンケート」のような読み応えがあると、編集部としては保証いたします。
『地下出版のメディア史』の大尾侑子先生は、特に長い回答をお寄せになったので、別編として独立記事としました。適度にエモく、これから日本近代書物史の発展に期待したくなる
読後感を持たれることでしょう。
「ビブリア古書堂の事件手帖」の三上延先生からも!
小説家方面では古本屋出身の出久根達郎先生や、芦辺拓先生、あのビブリア古書堂の三上延先生にアンケート回答をたまわりました。河内紀、東雅夫の諸先生といった文学界隈の方々もお願いしました。平山亜佐子、山本貴光、吉川浩満、読書猿といった今、話題の著作家さま方からもいただきました。
古本趣味がらみで言うと、小山力也、山本善行、岡崎武志、田中栞、郡淳一郎、荻原魚雷といった古本ライターの方々(敬称略)。川口秀彦(古書りぶる・りべろ)、藤原栄志郎(とんぼ書林)さんといった古本実務家の方々からアンケートをいただきました。
他にも紅野謙介、志村真幸、田村俊作といった学者先生の方々などなど、各方面から広くお答えをいただいています。
いつもの執筆陣だけでなく新規の記事も――ライナーノーツの起源
本誌は年刊ですが、准連載陣とも言い得る方々にご寄稿いただいており、多くは学者先生でない勤め人などですが、みなそれぞれの問題意識から近代出版についての問題提起をお寄せくださっています。戦前の娯楽雑誌について、日露戦争時の春画について、戦前大流行した十銭パンフレット、雑誌「巻号」表記の変遷史、逓信省検閲、ライナーノーツの起源、漱石の漢文読書などです。
この雑誌はどこで買えるか
今回、特大号で大幅増ページとなり、価格も高くなってしまいましたが、それだけの内容はあると編集部一同確信しております。特に本好き、古本好きの方々におかれてはぜひ手にとっていただきたく思います。
刊行頻度が年刊なので、委託配本でなく返品可能の注文制となっています。ISBNもついています。お近くの本屋さんにご注文ください。全国どこの本屋さんでもお取り寄せいただけます。Amazonやhontoなどのネット書店でも買うこともできます。
○近代出版研究所
2021年6月開設。近代書誌学、近代出版史を楽しい学問たらしむるべく、その環境整備を行うため、書誌、研究叢書、所報(『近代出版研究』)の発行、研究座談会の開催を事業としています。
『帝国図書館コレクション案内 請求記号から見た蔵書構成』といった研究叢書は皓星社ウェブストアから購入できます。

書名:近代出版研究 2025 第4号 特大号
特集「書物百般・紀田順一郎の世界」
発行:近代出版研究所
発売:皓星社
判型/ページ数:A5判並製/416頁
価格:3,520円(税込)
ISBN:978-4-902251-45-6
好評発売中!
https://libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774408583/