幻の探偵作家を求めた果てに ――
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大阪圭吉は、愛知県南設楽郡新城町(現・愛知県新城市)出身の探偵作家です。本名は鈴木福太郎。1912(明治45)年3月20日に新城町の旅館「鈴木屋」の息子として生まれました。
1932(昭和7)年に探偵作家・甲賀三郎の推薦で『新青年』に「デパートの絞刑吏」を発表してデビュー。以後、『新青年』『ぷろふいる』などの当時多くの探偵小説を掲載した雑誌を中心に短篇探偵小説を発表。1936(昭和11)年には、初の単行本『死の快走船』(ぷろふいる社)を刊行しました。1942(昭和17)年に上京して日本文学報国会に勤務。翌年、応召。 私が、探偵作家・大阪圭吉に初めて触れたのは、創元推理文庫『とむらい機関車』『銀座幽霊』だったかと思います。どの作品も面白く一気読みしてしまった記憶が残っています。そして、たまたまお客様から買い取った本が、自分の中で「大阪圭吉」に一気にのめり込むきっかけになりました。鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて』(晶文社・1985年)という本です。 推理小説雑誌『幻影城』に鮎川氏が連載した当時、すでに表舞台から姿を消し、誰も知らないであろう探偵作家たちを取り上げた尋訪エッセイ集。この本で、マイナー探偵作家により興味を持ってしまい、ミステリの仙花紙本を含め、今まで以上に取扱うようになったのですから、鮎川哲也氏に今の古本屋人生の方向を決められてしまったと言っても良いかもしれません。 そして、大阪圭吉もこの本で「幻の探偵作家」の仲間入りをしてしまっていました。確かに、江戸川乱歩や横溝正史のような巨匠と同じように知名度があり、誰もが知っている作家ではありません。しかし、もっと読まれても良いのにという切なさはありました。 鮎川氏の『幻の探偵作家を求めて』と出会ってから、それなりの年月が経った、2013年。いろいろな切っ掛けから小規模の出版を始めていた時に、2冊目の本として取り上げたのが大阪圭吉でした。大阪圭吉には単行本に収録されていない作品が多く残っており、大阪圭吉研究家・小林眞氏の助力の下、4篇を収録した薄い文庫を刊行しました。この文庫の巻末には小林氏が作成した探求作品リストを収録し、大阪圭吉の作品が掲載されている雑誌で、小林氏が それにいち早く反応頂いた方が、大阪圭吉の郷里・愛知県新城市で、今も地元の郷土史研究や大阪圭吉研究・普及に努めている髙田孝典氏でした。髙田氏からも大変多くの資料の提供を頂き、5年後の2018年に、大阪圭吉の単行本未収録となっている作品を蒐集し、本としてまとめるプロジェクトを開始しました。その1冊目『大阪圭吉単行本未収録作品集1 花嫁と仮髪』の刊行後、髙田氏のお力添えで、新城市へ赴き、大阪圭吉のご長男である故・鈴木壮太郎氏と面会を果たすことになります。 はじめて鈴木家を訪問し、壮太郎氏と対面した際は、大変大きな体で、私が何度も写真で見ていた大阪圭吉の顔の雰囲気とそっくりで大変驚いたことを覚えています。そして、壮太郎氏が大事に保管していた大阪圭吉の直筆原稿や創作ノート、江戸川乱歩・横溝正史・水谷準ら関係者からの手紙などの資料を何度も拝見させて頂く機会を得ました。壮太郎氏の話を聞きながらのいろいろな自筆資料を手に取り整理をさせて頂いたのは、至福の時間でありましたが、同時になんとか多くの方にこの資料をご覧頂けないかと考えてきました。 そして、2025年。戦後80年、大阪圭吉没後80年の節目として、〔没後80年記念 探偵作家・大阪圭吉展〕を愛知県新城市も公共機関の後援と多くの方々のご協力の下、東京古書会館で開催させて頂ける運びとなりました。 本展示では、大阪圭吉の旧家に保存されている原稿・執筆メモ、交友関係者からの手紙・書簡を中心に、大阪圭吉の全著書・収録書籍・関係書籍の展示を行います。大阪圭吉の全著書が 本展示で大阪圭吉の仕事・交遊関係を広く知って頂き、魅力を再認識して頂けますと幸いです。ぜひ、東京古書会館まで足をお運びください。 また、本展示に合わせて、全200ページの図録も刊行します。大阪圭吉自筆資料・単行本・関係者からの書簡類をはじめ、今回の展示にて展示予定の全ての資料をカラーにて掲載いたします。巻末には資料編として、著作・単行本・作品収録書籍一覧、収録作家プロフィールを 展示と合わせて、ぜひ手に取って頂けますと幸いです。 スペースの関係上、展示できない資料等もございますが、本図録で補完できる構成となっています。 |
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