語られない史実に斬り込む ――『陸軍と性病 花柳病対策と慰安所』刊行に寄せて藤田昌雄 |
筆者は今まで日本陸軍の生活や糧食について調べた事はあったが、人間の三大欲である「食欲」・「睡眠欲」・「性欲」の中で、日本陸軍と「性欲」については調べた事がなく、この問題について調べたくなり、今回「えにし書房」様より「陸軍と性病 花柳病と慰安所」のタイトルで日本陸軍と性病に関する書籍を刊行させて頂いた。 「公娼制度」がオフィシャルに存在していた当時の日本では、他の世界列強と同様に現在の常識を凌駕する規模での「花柳病」と呼ばれた梅毒・淋病・軟性下疳を主とした「性病」が蔓延しており、徴兵による国民皆兵制度を採用していた日本陸軍では国防の見地より兵員の人的資源確保の見地より性病対策には大きな重点が置かれていた。 これは平時では軍人の登楼は軍指定の遊郭の利用が定められて私娼の利用は厳禁とされており、戦時に際しては将兵の性欲対策と性病予防と防諜という三つの見地より、後方地帯に「慰安所」が設置されて将兵の性欲に対処した。 本書では、陸軍の性病に対する認識・予防法を当時の将兵レベルに配布されていたマニュアル類を時系列で紹介すると共に、当時の陸軍でも採用されていた性病治療法を取り上げてみた。 また戦場の後方地位に設置された「慰安所」については、設置に際しての陸軍の法的根拠と慰安所の民間委託をはじめとした運営例を示すと共に、残された実写写真を紹介する事で「慰安所」の実例を紹介している。 陸軍の性病対策と併せて、時代と共に進化を遂げた性病予防具である「コンドーム」の歴史と、一般に市販されていたコンドームや民間治療薬を、当時の雑誌広告を中心として紹介している。 現在の累卵の情勢下では、『いわゆる「従軍慰安婦」』をはじめとした甲論乙駁(こうろんおつばく)がある中で、本書では思想・感情に流されることなく当時の史料を核として史実のみを述べることで、戦前期にいかに「花柳病」と呼ばれた性病が社会的に大きな猛威を振るっていたかということと併せて、国民皆兵のシステムを採用していた日本陸軍が将兵という国防に資する人的資源庇護を目的として平時での「花柳病対策」に総力をあげると共に、戦時に際しては「慰安所」を設置することで人的資源の保全を図っていた事実を紹介している。 本書が歴史継承の一助になれば幸いである。
『陸軍と性病 花柳病対策と慰安所 』藤田昌雄 著 |
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