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『気まぐれ古本さんぽ』について

『気まぐれ古本さんぽ』について

岡崎武志

 『気まぐれ古書店紀行』に続き、同じ工作舎から古書店紀行の連載を出してもらえることになった。もとは1998年1月号から「彷書月刊」で始まった「気まぐれ古書店紀行」という連載が、2010年から「日本古書通信」に受け継がれ、現在に至っている。今回は、その両誌にまたがる約8年分が収録された。

「気まぐれ」とは、敬愛する洲之内徹の美術エッセイ「気まぐれ美術館」からの借用である。これから訪れる店へ事前に連絡を入れ、取材を依頼するという堅苦しい方法を取らず、思いついたとき、気ままに、素の客として古書店を観察したい、という気持ちがあった。もちろん、青梅多摩書房さんのように、ふだん店を開けていなくて、予約制で客を受け入れるというケースでは、ちゃんと取材をお願いした。

 しかし、おおむね「気まぐれ」という流儀を押し通したつもりである。そのため、ご迷惑をかけたお店やご主人もいるかもしれない。ここにお詫び申し上げる。
本書あとがきに「古本屋へ行くための明日がある。それだけでも、生きる勇気が湧いてくるのだ」と書いたが、これは何も大げさではなく、本当にそう考えて生きてきた。次にどこへ行こうか、机上で地図や検索サイトを使ってプランを練るのがまず楽しい。その楽しさをいかにお裾分けできるかが、ライターとしての力量だと、半ば、修業として原稿に挑んできた。

 ふだん、自分の書いたものを改めて読み直すという習慣がないが、8年分の連載を、ゲラのかたちで三度、本になってから一度読んだ。読みながら、自らがまず楽しんだ。不遜に聞こえるかもしれないが、いやあ、おもしろいなあと感心したのだった。つまり、どこか他人事のように読んだのだった。この男、ちょこまかとよく動いてるなあ、と。

 もう一つ、読んで気付いたのは、ここには古書店の紹介と、そこにいたる探訪の記録だけでなく、私についてのほとんどすべてが書き表されているということだ。ジャンルとしては紀行文、ということになろうが、過去の追憶があり、そのときどきに自分を支配する強い関心があり、本家の洲之内「気まぐれ」に倣った脱線また脱線がある。たとえば、結婚した当時、共働きで、私の方がヒマで家でゴロゴロしていたのだが、そんな日々のことも回想されている。スクーターを駆って街道筋の「ブックセンター いとう」に小マメに通ったことなど懐かしい。

 あるいは、一年半ほど通った中学を再訪し、その通学路に「古本屋台」というリサイクル系の古本屋を見つけて驚くのだが、同時に、友人にそそのかされてやった放課後のボクシングの話など、ふだんは思い出さない。古本さんぽの副産物としてよみあがえった記憶なのだ。上京したばかりの空虚な思いも、こういう場を使わなければ、とても書けないことだった。

 もちろん、全国あちこち出かけて訪ねた古本屋さんのことがメインである。すでに消滅した店が多いことは、時代の趨勢だから仕方がない。ガイドブックとしては役に立たぬ部分もあるかも知れないが、逆に今は行くことのかなわぬ幻の古書店の貴重な記録になっているはずだ。8年は、振り返ればあっというま、であったが、こうして毎月書かれた文章から言えば、それだけの実質をもった年月だったようだ。

 ある信頼する人から言われたが、これまで受賞歴も、はなばなしい話題作もなく、地道に原稿を積み重ねて、それがすでに30冊ほどの本になった。かえって、それは誇るべきことじゃないか、とそう言われ、そう思った。その集大成が『気まぐれ』だと言える。400ページ強の2段組みという大著だが、おもしろく読めるように、興味がつながって行く書き方がされているはずだ。そのことだけは自信があるんだ。

 CD一枚分の価格となっている。近くの書店で手に入らない場合は、工作舎にお問い合わせください。


sanpo


『気まぐれ古本さんぽ』 岡崎 武志 著 
工作舎 定価:2300円+税 好評発売中!
http://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN978-4-87502-468-2.html

Copyright (c) 2015 東京都古書籍商業協同組合

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