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本の未来と本屋の未来

本の未来と本屋の未来

田口幹人

 『まちの本屋』は、僕一人の書店員としての半生を振り返った本ではないと思っている。半分は、小さなまちの本屋として生きた両親、恩師・伊藤清彦氏をはじめとした諸先輩方の背中に書いてあったことを、僕なりの解釈でまとめたものだ。僕が何を考え、想い、本屋という場所で仕事をしているのか。彼らの教え以上のことをしてきたつもりはない。しかし、全てを真似てきたわけではない。その教えを、今という時間軸に落とし込み、背伸びせず、自分の身の丈の仕事として取り組んできたつもりだ。本屋は一代と言われることがある。しかし僕たちは、一人の書店員が作り上げた売場とお客様を次世代に継承してゆくことの難しさを実感しているものとして、あえてその継承に活路を見出そうと考え、仕事をしてきたし、これからもそうありたいと思っている。僕がしてきたことではなく、僕が教えていただいたこと。それが本書の半分を占めている。

残りの半分は、まさに今も本屋の店頭でお客様に本を届けるために汗を流している全国の本屋の仲間たちのことを書かせていただいたと思っている。出版不況が叫ばれて久しいが、本屋を取り巻く状況は、日に日に厳しさを増している印象が強い。今年は、とくに明るい話題が少なかった一年だった気がする。それでも、全国の本屋の現場では、本屋の未来を信じ、一冊でも多くの本を読者に届けるために努力をしている書店員がたくさんいる。実家の本屋を閉じ、さわや書店に勤務したこの9年間で、僕は全国各地のたくさんの書店員に出会うことができた。その出会いなくして、今のさわや書店フェザン店の売場をつくることはできなかったと思っている。本を届けることに情熱を傾け、本を手にしてもらうために努力しているたくさんの書店員の姿に何度励まされただろうか。一冊一冊の本を介したこの人たちとの出会いは、何にも変え難い大切な財産となっている。僕が特別な何かをしているということはない。僕が出会った多くの書店員たちは、僕と同じように、いや僕など足元にも及ばない努力を積み重ねてきた人たちの方が多かったかもしれない。なにより、本屋の現場で本屋の未来を信じて働く姿が、僕の支えとなっている。

本書をお読みいただき、全国各地の本屋の店頭で、本の未来を信じ、お客様と本との出会いの場づくりに実直に取り組んでいる書店員がたくさんいることを知っていただけたら幸いです。




honya


『まちの本屋』 田口幹人著
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