鶴見俊輔著『「思想の科学」私史』(編集グループSURE)のこと
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昨年7月、哲学者の鶴見俊輔さんが、93歳で亡くなった。 鶴見さんは、敗戦直後から半世紀間、みずから編集と運営の中核を担って、雑誌「思想の科学」の刊行に力を傾けつづけた。その動機と歴史を綴る本書が、文字通り、この人の遺稿となった。 本書の初稿にあたる原稿を鶴見さんが書き上げたのは、たしか、2010年の春だったと記憶する。京都・岩倉のお宅に伺ったおり、奥の居間(その部屋で書き仕事をすることが多かった)に導かれ、いつもの悪筆で多くの訂正の跡などもある、200字詰め原稿用紙の厚い束を示されたのだった。 「これ、書いたよ、あなたに見せておこう」 と、それだけ言われた。かねて構想があった「倒叙『思想の科学』私史」の草稿なのだと、すぐにわかった。 ──今後、自分はこれを「思想の科学」の後継誌の一つ、ミニコミ誌「活字以前」に連載する約束になっている。ただし、年3回刊行の同誌で、毎回1章ずつ、計二十数章を連載するのだから、完結までには10年近い歳月を要する。たぶん、それまで生きることはないだろう。だから、そのときには、この原稿を使って、1冊の本としてまとめてくれればよい。── およそ、そうした気持ちで、これを示されているのだろうと私は受けとり、原稿に目を通した。 その後も、鶴見さんは、おりおり、この原稿に加筆したり、章の順序を並べ替えたり、何度もしておられたようである。「倒叙」という、時代をじょじょに遡っていく叙述の形式は、大正期の歴史家、吉田東伍の『倒叙日本史』にならったもので、「思想の科学」の初心を検証したいという鶴見さんの意図からしても、“章の順序”は重要なカギだったのだろう。だから、「活字以前」誌の毎号の締め切りごとに、該当する1章分ずつ、夫人にパソコンで浄書してもらって、編集部に届けておられた。 昨年の逝去後、夫人の横山貞子さんに相談すると、これを編集グループSUREから刊行するのだという意向は、生前、鶴見さんご自身から重ねて聞いているとのことだった。 本書は、その「倒叙『思想の科学』私史」全24章を中心に置き、背景にある経緯を詳しく鶴見さんにうかがったロングインタビュー「『もやい』としての『思想の科学』」、同誌の編集に参加していた私からの補足的な解説「いつでも編集を考えていた」を加えたものである。
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