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メールマガジン記事 シリーズ本とエハガキ

本とエハガキ⑫ 情報処理②インターネット……の方へ(最終回)

本とエハガキ⑫ 情報処理②インターネット……の方へ(最終回)

小林昌樹(近代出版研究所)

■のぞきからくり→インターネット



【図12-1】「路傍の所見、農民達の都見物 THE COUNTRY FOLKS SIGHT OF THE TOWE」
罫線パターンcで外国向け仕様 1918年以降

 最初に【図12-1】を見てほしい。これはインターネットのご先祖だと思って買ったものだ。ビニール袋に着いた値札を見ると神戸の絵葉書専門店、図研(ずけん)さんから800円で買った。2010年ごろ直接お店へ伺った時には大変良くしてもらった。
 写っている器械はのぞき絵、「のぞきからくり」。レンズが付いた箱の中の絵を覗き込み、立体的な景色や物語を楽しむ見世物である。場所はおそらく大陸、中国だろう。「外地」の風物は戦前、よく写真エハガキになっている。いま私が覗いている箱(ずいぶん薄くなったが)も、インターネットといういう「のぞきからくり」だ。
 この箱を手前のレンズから覗きこむと、箱の上に展示されているショッピングモールのような西洋の名所旧跡の写真か絵を見ることができたのだろう。

■自分なりの「スジ」で古エハガキを買うとよい

 私のエハガキ蒐集は、戦前図書館のレファレンスカウンターをこの目で見たい、という大それた望みから始まったわけだが、たまたま図書館情報学を専攻したせいで、そもそも図書館を「箱モノ」(=建物)ではなく、情報センターという「機能」として考えるのがデフォルトになっている。だから、【図12-1】の箱も、図書館という箱も、眼の前の箱も、私にとっては同じ機能を果たしていると思っている。硬く言うと「機能的等価性」とか言う。

 ゼミの田村俊作先生(いま日本一美麗な図書館、石川県立図書館の館長)に、加藤秀俊『見世物からテレビへ』(岩波書店、1965)を紹介してもらったことを思い出す。
 考えてみれば1953年に始まったテレビ放送は戦前エハガキに出るわけもないが、しかし、テレビやインターネットにまでつながる前史、先祖を探ることはできる。なにより、そういった自分なりのスジ(趣味でもよい)を通してエハガキを集めると、楽しいし、それに相対的に安く済ませることもできる(美人エハガキのように、他人が喜ぶ人気ジャンルでないので)。そこで、情報処理の歴史をこちらで勝手に妄想し、エハガキを探すという仕儀に相成る。

■媒体としての紙カード

 インターネット成立の前には、もちろん電算機が発明されねばならないのだが、電算機がない世界でも、同様の情報処理は人間世界でなされていた。その手段が紙メディアの「カード」である。


【図12-2】カード式原簿記念
罫線パターンa 1906年

 【図12-2】は郵便貯金局が1906年に貯金の原簿管理を帳簿式からカード式に切り替えた際*の記念エハガキである。表面には「CARD SYSTEM/第一回決算紀年会/於晃・開催/39-7-8」と丸型スタンプが押されている。写真を見ると、壁にカード専用の棚を造り付け、そこに記号・番号順にカード(セットのエハガキもう1枚を見るに、ずいぶん縦長)を横に入れて並べているようだ。カードはランダムアクセスやソートに必須の紙メディアだった。
 一度、カード処理の日本史を調べたことがあるが、やはり初期にカード処理をしたのは図書館だった。【参考図1】は1909(明治42)年ごろの帝国図書館目録室で、いま上野に現存している国際子ども図書館の建物。左端の人物がカードボックスから引き出しを抜き出してボックスの上に置き、カードをチェックしているのが分かる(コロタイプ印刷は小さい画像でも拡大して、分析できるのが有り難い)。当時、最先端の情報処理システムだ。
* 『郵便貯金局郵便貯金事務史 第1編』郵便貯金局、1910、p.123-
 

【参考図1】「同〔帝国図書館〕目録室ノ一部」 帝国図書館絵葉書4枚以上セットの1枚(部分)の更に部分拡大
罫線パターンa 1909年の消印あり
 
 【図12-3】は郵便貯金と同様、数十万人のデータを処理するために、どうやらカードで処理しているらしい生命保険会社の事務室である。部屋の奥壁面に300個ほどのカードボックスが見える。1箱に300枚カードが入るとすると9万人分の情報がこの事務室1室で処理できる、というわけだ。カードボックスは、手前の人物が2個引き出しているのを見ると、側面が白木っぽいのでギリギリ木製かと判断したい。大正期から一部大会社に金属家具が普及しはじめていたが、金属家具で奥の方だけ明るく塗装するとは思われないので。


【図12-3】「住友生命保険株式会社事務室一部 住友ビルヂング」
罫線パターンc 昭和初めか

■新聞社と情報処理

 時代はさかのぼるがおそらく大正末、新聞社の事務室である。左の奥に作り付けのガラス戸棚、手前に特殊な戸棚(ファイリング用か)があるが、メディア機器としてはまだ、電話機が右の台状に麗々しく置かれているくらいで、情報ストックで記事を書く感じではない。新聞社が「調査部」を備えて、ストックも合わせて記事を書くような体制になっていった初めは、1911年、杉村楚人冠による朝日新聞調査部の設置ということになっている。


【図12-4】「中央新聞社事務室(銀座上方屋製)」
罫線パターンc 1923年か 消印12[or2].5.3

 しかし、日々のニューズを追いかける新聞社も、メディアとしてメディア装置を導入していかねばならなくなる。【図12-4】の右、台の上にある電話機がその最初と言えよう。そして昭和初年には電送写真が導入され、離れたところから、画像が送られてくることになった。テレビの語源はテレ・ビジョンだが(テーレ:古代ギリシャ語で「遠く」)まさに離れたところからビジョンが送られてくるわけだ。テレ・フォンも離れたところから音声が送られてくるわけで、電算機の発明と並行して通信技術の発達もまた、来たるべきインターネットへの助走と位置づけられる。

 次の【図12-5】は電送写真機とあるが、今風に言えばファクシミリである。


【図12-5】「(東京日日新聞)仏国ベラン式電送写真機(上図は大阪より電送されたる写真)」
罫線パターンc 1928年ごろ
 

■情報処理は何段階革命?

 新聞社など大組織、大会社による情報機器の利用と並行し、徐々に個人もそれを利用するようになり、日本でファクシミリが家庭(個人宅)に入ったのは1980年代だったと思うが、手元の写真エハガキを見ると、「写真電報」というサービス名称で民間でも利用できたようである。科学技術というかテクノロジーというか、いわゆる情報技術の歴史がエハガキにかいま見れる。


【図12-5a】「東京中央郵便局写真電信室と写真電報」
罫線パターンcの罫線なし? 1930年ごろ
 
 写真電送術とラジオが組み合わさり、テレビジョンがさきの大戦直前に登場する(一般放送は戦後)。連載「本とエハガキ⑨」「情報処理①タイプライター」でも紹介したが、戦前オフィスに入りはじめたタイプライター及び和文タイプが、1970年代末、ワープロ専用機【参考図2】として登場し、日本語の書写に一大「情報革命」をもたらしたのはご存知のとおり。それがパソコン通信と融合し、インターネットになっていったのは1995年から数年間の出来事だった。いまの我々が住んでいる情報環境である。さらにスマホ革命が控えているが、要素技術としては現在と同じである(ただ、大きくて、重くて、高い)。


【参考図2】ワープロ専用機のカタログ(1980年代半ば)
 

■次回は……エフェメラへ

 ちょうど12回、エハガキの連載「本とエハガキ」を書きました。次回からは少し趣向を拡げて、「本とエフェメラ」あたりにしたいと思います。
 これは画家、文筆家の林哲夫さん(古本マニアはご存知でしょう)に教えてもらったのですが、英語ではbibliophemeraなる造語があり、本にまつわるエフェメラ(栞など)のことをいうそうです。
 本にまつわるエフェメラのひとつに、とりもなおさず「本がらみのエハガキ」もあったわけで、今までの連載をちょっと拡張して書いてみたい、というのが趣旨です。
 【参考図2】ワープロ専用機のカタログも、神保町(正確には小川町)の古書会館、週末古書展で買ったエフェメラなのでした。全国数万の古本好きに言いたいのは、ぜひ、古書会館の週末(大阪は月イチ)古書展に行くべきですよ。世界が広がります。

エハガキの罫線パターン(連載1回にも掲載)


【表1-1】様式による年代推定表(あくまで目安)


■お知らせ――4月刊行『近代出版研究』はエフェメラ!

・わたしの主催する近代出版研究所の年報『近代出版研究』ですが、今年4月刊行(予定)5号の特集は「エフェメラ」です。
・エフェメラとは、蒐集家が集める紙もの一般のことで、英語で虫のカゲロウのこと。英語だと正式にはプリンテッド・エフェメラと言います。
・はかなきもの、一過性資料などと訳されますが、栞、ラベル、チケット、ハガキ、切手、切符、シールなど、薄くって、すぐ紙ゴミになってしまうもの。「紙もの」「紙くず」などとも呼ばれます。
・エフェメラはなんと、最近、ミュージアム系の資料や展示物として注目されているのだとか。
・エフェメラ蒐集については、私もいささか腕に覚えがあります。駿河台図書館(いまの千代田図書館)の「閲覧券」を買ったり、いろいろ集めました。図書館の絵葉書もそれ。
・有名なエフェメラ専門店のロング・インタビューを筆頭に、戦前のエフェメラ(「寸葉」とも呼ばれました)蒐集の歴史、早大の西垣文庫にあるエフェメラ整理ばなし、レコード関係のエフェメラ、フランスのエフェメラ、明治のシュリンクパック(!?)など、他で読めないエフェメラ話が満載! いちおうエフェメラの理論も抑えます。
・通常(?)記事も、有名文学研究者による(作家の)年譜作成の思い出など、面白くって役に立つ!?

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 前職で、他の部屋がやらない「その他」を調べる部屋に勤めたこと、これは本当に勉強になりました。「その他」を調べる人のための本です。



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※シリーズ【本とエハガキ】は今回が最終回です。
ご愛読ありがとうございました。

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