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メールマガジン記事 シリーズ本とエハガキ

本とエハガキ⑪ 書斎エハガキを読む②これって明窓浄几?

本とエハガキ⑪ 書斎エハガキを読む②これって明窓浄几?

小林昌樹

 あれは図書館のエハガキが戦前、実はけっこう出版されていたことに気づいて、切手屋、骨董市、専門古書店、そして週末古書展と、ありとあらゆる販売ルートを抑えて集めまくっていた2008年夏のことだった。
 
 ルートの一つにコレクター同士の交換会というのがあり、そこでの「盆回し」(盆回し式のオークション)で見つけたのがこれ【図11-1】。図書館エハガキのコレクターとして、本や本棚にも目がいっていた。交換会の「盆回し」の良いところは、図書館のブラウジングのように、すべてのエハガキを一度見るので、従来気付かなかった未知文献ならぬ未知エハガキに気付けることだ。
 


【図11-1】書斎の青柳秀雄(仮題、キャプションなし)
 罫線パターンdで罫線なし 1933年以降

 
 なにやら作り付け全面書架の前で腕を組み、しかつめらしくポーズを取ってあっちを向いているメガネをかけた人物が写っている。
 残り4枚のエハガキとセットで入手したのだが、そのうちの1枚が同じところから出てきたこの人物宛てのエハガキだった【図11-2】。またセットの他のエハガキにはキャプションがあり、それらが一致するところによれば、写っているこの人物は青柳秀雄という人だということになる。差出人はどうやら地元、佐渡の畑野第一小学校に勤めていた教員であったようで、彼は青柳が本好きであったことを知っていたのだろう、小学校の本棚のエハガキを送ったのだった。
 

【図11-2a】小木町青柳秀雄宛てハガキ 
 1931年2月 差出人は佐渡の教員矢田求の義理の弟
 


【図11-2b】【図11-2a】の裏面「児童文庫開館式記念 畑野第二小学校同窓会」 
 罫線パターンc 1931年
 
 小学校に図書館が置かれるようになったのは戦後、学校図書館法ができた1950年以降のことだが、戦前もそれなりに地元で図書を充実させたいと思う向きがあったようだ。このエハガキのように文庫を開く例があった。

佐渡の本マニア、青柳秀雄

 教員から学校文庫のエハガキを送られた青柳秀雄(1909-1969)は、戦前、佐渡で郷土研究をした在野研究者だが、近年まで埋もれていた人物だ。本業は僧侶。寺は歴史のある名刹で、相当に資力もあったらしい。彼はそこで佐渡の郷土研究をこころざす。
 
 大正末から昭和初期にかけて、郷土研究、土俗学、方言学という名のもとに、後の民俗学、方言研究といったものが各地で盛んになり始めていた。柳田国男が地方の郷土研究家たちを民俗学会のインフォーマントとして組織化したのもこの頃の話。そんななか青柳秀雄は自分の研究のため、本を集めまくり始める。
 あたかもよし、これも地方から全国に展開した書物雑誌『図書週報』を出した沼津の古典社の連絡員なども請け負った。その伝手で、青柳は古典社が出した『古本年鑑』なるハンドブックにこんな宣伝【参考図11-1】も出している。
 

【参考図11-1】『古本年鑑 第2年版』古典社、1934
 
 佐渡関係の文献を、なんでも集めるとあるが、面白いのは、佐渡限定でなく、雑誌一般をコレクション対象としていることだ。週末古書展でたまに雑誌のジャンルの脈絡なく、創刊号ばかりが出品されることがある。これは創刊号コレクターが放出したもので、戦後のコレクターだと『雑誌・創刊号蔵書目録』(大塚文庫、1986)を出した大塚元基が有名だ。青柳秀雄はただの郷土研究家であっただけでなく、ひろく知識一般のコレクター、古本コレクターだったのである。

青柳の書斎

 使用済みならふつう入手されるエハガキは1枚で、個人書斎のエハガキもたいてい1枚こっきりなのだが、私が入手した青柳秀雄の書斎エハガキは、珍しくなんと未使用のセットだった(青柳の手元にあったものらしい。2008年に青柳コレクションが売立てられている)。そこで彼の書斎の全体像がわかる。上記【図11-1a】には、こけしが本棚にズラリと並べられている。作り付けの本棚を用意できるのは、本によほどお金をかけられる身分ということになる。彼は1909年生まれで、1931年、つまり22歳の時、友人から【図11-2ab】のようなエハガキを送られているので、若い時から相当な本マニアだったろう。その結果がこの自分の書斎エハガキセットということになる。コロタイプ印刷でなく網版印刷なので拡大しても詳細がいまいちわからないが(コロタイプは100枚〜200枚なので、それ以上の枚数刷ったものか)、書斎の大きさと、さらに「書庫」を持っていたらしいことがわかる。
 

【図11-3a】「書斎一」
 

【図11-3b】「書斎一」の部分
 
 瓶(かめ)やら郷土玩具やらが並んでいることがわかる。本をヒラ置きにしている部分が多いのは、雑誌を未製本のまま積んでいるからではあるまいか。
 

【図11-4a】「書斎二」
 

 
【図11-4b】「書斎二」の部分
 
 青柳の書斎が一室だったとすれば、【図11-1】と【図11−3】【図11−4】の3枚のエハガキから、四面楚歌ならぬ三面書架ということになろう。
 「書斎」のほかに「書倉(ふみくら)」のエハガキ【図11-5a】もついていた。これは「書倉三」というキャプションなので、ほかに「書倉一」「書倉二」があったことはほぼ確実である。【図11-5b】の右上に「小口書き」のある本が見えるので、これは和本らしいが、他のヒラ置き本についてはどうだろうか。「五十三」「三十」といった札を付けているので、別に蔵書リストを作って、この配置札から本を出せるようにしていたのだろう。青柳の几帳面な性格がうかがえる。
 

【図11-5a】「書倉三」
 

【図11-5b】「書倉三」
 
 このエハガキもそうだが、別途古書展で青柳旧蔵の雑誌『図書週報』や『雑誌愛好』などを私は入手しており、青柳のことを調べに2009年9月、恩師友人らと佐渡へ渡ったのだが、その際には諸般の事情というやつで調査は叶わなかった。
 

明窓浄几(めいそうじょうき)はあくまで理想

 北宋時代の文人(蘇舜欽)がこんなことを言っていたという。「明窓浄几、筆硯紙墨皆な極めて精良、亦た自ら是れ人生の一楽なりと」*。「明窓浄几(机)」、つまり明るい窓と、机の上は何も置かれておらず広い、まわりにはゴチャゴチャ本が置かれていない、というのが、東洋的書斎の理想であった。
*『東洋芸林論叢:中田勇次郎先生頌寿記念論集』平凡社、1985
 しかし、本格的に書き物や調べものをした人ならわかるが、本やらなにやら、ごっちゃり積み上がるのがむしろ普通なわけである【参考図11-2】。
 

【参考図11-2】俸給生活者時代の自席(2018年)

 コロナ前のこととて忘れてきたが、右端に「ローテーション表」(これに従って資料相談カウンターに出る)と古書展カレンダーがささっている(2005年から古書展に通っていた)。家から持ち込んだ卓上扇風機は空調機の効きを補助するもの。PCはレファレンス文書回答を書くのに使っていた。写真に入っていないが、左に館内各所にあった「六尺書架」(1961年ごろに作られたものか)があり、その半分の三尺分にいろいろ手元のレファレンス本を置いていた(真後ろは窓及び増設された空調機)。コーヒーは部屋ごとに成立していた「お茶会」費で買っていたパックのもの(そういえば帝国図書館時代のお茶会費ノートを稲村徹元さんから譲られて持っている)。
 実は「明窓浄几」の文章は「しかれども能く此の楽を得る者、はなはだ稀なり」と続く。やっぱりそうだよね。

 

次回は……

情報処理エハガキの二回目をやりたいと思います。

 

エハガキの罫線パターン(連載1回にも掲載)


【表1-1】様式による年代推定表(あくまで目安)

 

■お知らせ

・今回取り上げた佐渡の郷土史家・青柳秀雄については、日本の古本屋メルマガに、彼を顕彰した郷土史家・北見継仁さんの記事がありました。
・同氏著『知られざる佐渡の郷土史家・蒐集家:青柳秀雄の生涯とその業績』(皓星社、2024)はまだ在庫があります。この手の本は品切れになると古書価が高くなるので、ご興味のある向きは購入するとよいでしょう。
・慶應愛書家倶楽部が主催した「紀田順一郎先生を偲ぶ会」(11/30)に参加しました。あたかも小規模な紀田順一郎学会の発表のようで、企画した荒俣宏先生の思いがよくわかるものでした。会う人ごとに言われたのは『近代出版研究』5号 特集「書物百般・紀田順一郎の世界」を先生の生前、お目に通してもらえたのは良かったね、ということでした。これは出版社サイトで購入できます。

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