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『円山町瀬戸際日誌』をめぐって

『円山町瀬戸際日誌』をめぐって

内藤篤

シネマヴェーラ渋谷という名の名画座を渋谷円山町にオープンさせて丸10年の節目に、「円山町瀬戸際日誌」との題で、かつて東京大学出版会のPR誌に連載させてもらった原稿をネタに、『円山町瀬戸際日誌』なる一冊を上梓させていただいた。

筆者は、いわゆるサブカル世代に属しており、植草”JJ”甚一氏や小林信彦氏の影響のもとに育ったものだから、趣味といえば、映画であり、古本であり、ジャズなのである。古本屋通いは、むしろJJ氏に接するはるか前、中学1年生くらいから始まっていた。

むろん古本屋街といえば、神田神保町であり早稲田であったのだが、筆者は東横線の住人だったので、その沿線の各駅に点在する古書店こそが日々の古本屋通いの実践、中でも渋谷は、かつての全線座や東急名画座などの映画館の存在もあり、東横線沿線に住むサブカル少年にとっての特別の場所だった。学校帰りの土曜などにこの地に踏み入ると、今はユニクロなどが入居しているビルの建つ場所にあった恋文横丁なる通りの古本屋で、ペイパーバックスなどを物色中のJJ氏に出くわしたりして、興奮したものである。学校の中間試験だの期末試験が終われば、これまた渋谷に繰り出して、名画座で映画を観るのである。全線座の閉館が1977年とあるので、筆者が大学に入った年だが、東大の駒場キャンパスだから、渋谷との縁は居酒屋などを通じて、あいかわらず切れない。

そうした渋谷の地にシネマヴェーラ渋谷をオープンしたのが2006年の1月である。その時点で渋谷には名画座の影はない。古本屋はというと、70年代には道玄坂に1軒(恋文横丁のを入れれば2軒)、宮益坂上に4軒あったと記憶するが、いまは全体で4軒だから、大きな変化はないが、微減状態にはある。リアルの古本屋はネットのそれにとってかわられ(実際、筆者もいわゆる古本屋歩きを、最近ずいぶんしていない)、映画館も同様で、まずはレンタルビデオに食われ、いまやネットの視聴に浸食されている。その傾向は10年前よりも顕著であり、渋谷などは、映画館の数自体がこの数年で激減している。

いわゆるパルコ文化が、70年代・80年代の渋谷と結びついていたものだから、そうした文化の終焉が渋谷を淋しくしたともいえる。その後のギャル文化だの、近年のハロウィーンをめぐるバカ騒ぎなども、渋谷を舞台にしてはいるわけだから、新たな文化ムーブメントなのかもしれないが、我々とは無関係なのである。まあ、我々の前の世代の文化も、そうやって滅びつつ渋谷の地に蓄積していったのだろうから、我々も、それに甘んじるほかはなかろう。だが、名画座にしろ古本屋にしろ、なにか文化的なムーブメントのピークに君臨するような存在ではない。その意味では、筆者の名画座も、これからもジワジワと、渋谷の地の片隅に、古本屋などと肩を並べつつ居られたらと思う。



maru
『円山町瀬戸際日誌-名画座シネマヴェーラ渋谷の10年』
 内藤 篤 著 羽鳥書店刊 定価:2400円+税 好評発売中!
 http://www.hatorishoten.co.jp/76_131.html

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