文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 日本の古本屋メールマガジン

『『小学一年生』100年の現代史』

『『小学一年生』100年の現代史』

野上 暁
 筆者は1967年4月に小学館に入社し、『小学一年生』編集部に配属されて以来、通算16年間も同誌の編集に携わり編集長も務め、学年誌と児童書には30年近くも関わり続けてきた。その経験も含め、創刊100年を迎えた昨年、本書を上梓した。

 100年の歴史のうちの20年は戦前で80年が戦後だが、本書では、創刊から日本が戦争に向かい敗戦に至るまでの戦前に4割強のページを割いた。それは、楽しく学べる学習記事を中心に、子どもたちの個性や能力を伸ばすことを目的として創刊された学習雑誌が、国家と軍部の強圧で戦争プロパガンダの一翼を担わされた経緯を誌面から検証したかったからだ。

 1931(昭和6)年9月に起こった満州事変を契機に、誌面が急に軍国主義的な色彩を帯びていく。1937(昭和12)年の盧溝橋事件から日中全面戦争となると、臨時増刊号として、『支那事変絵物語 勇マシイ日本軍』を刊行したり、別冊付録に「支那事変ヱバナシ日本軍バンザイ」がつけられる。38年、国家総動員法が公布されると、それに呼応するかのように内務省警保局図書課が「児童読物改善ニ関スル指示要綱」を出し、かなり強権的に子どもの本の国家統制を強化した。小学館は、内閣情報局で言論弾圧に権勢を振るった鈴木庫三から「時局認識が不足している」などと槍玉にあげられ、社の存亡にかかわると対応に苦慮させられる。

 国家総力戦体制下で「小学校令」が全面改訂され「国民学校令」が出されると、それに合わせて誌名も『コクミン一年生』に変わり、41年12月に太平洋戦争が始まると、雑誌の統廃合が指示されて、『コクミン一年生』と『コクミン二年生』は、『良い子の友』に統合される。表紙には、日本刀を下げ、銃を持って突進する少年とそれを後ろで見守るセーラー服の少女の絵に「コノ一戦 ナニガ ナンデモ ヤリヌクゾ」の標語のような文言が載り、もはや学習雑誌の面影も消滅する。その後も、「タタカヒ抜カウ大東亜戦」とか、正月号では「日ノヒカリ・日本ヨイ國・神ノ國」とか、次第にエスカレートして「ウチテシヤマム」「オホキミニ ササゲン コノミ コノ ココロ」などと表紙の標語は過激さを増し、誌面も戦意高揚一色となっていく。
 指示要綱が出て国家統制が強化されると、物資が乏しい中にもかかわらず、絵本や詩集など子どもの本の出版点数は急上昇し、そこには「日本よい国、神の国」「日本よい国、つよい国」などの文言が頻出する。

 このような経緯を見て来ると、「日本人ファースト」と排外主義的に日本を賛美したり、台湾有事を理由に「強い国」にと防衛力増強の名目で軍備強化が進められ、戦争放棄を謳った憲法9条を外して自衛隊を国軍になどという動きがある現在、戦前の轍を踏んではならないと切に思うのだ。

 『小学一年生』の戦後の八〇年は、経済復興にともなう庶民の経済的余裕の拡大ともに、読者のニーズも変化しそれに合わせるように誌面も代わっていく。ベビーブーム世代の成長とともに学年誌の部数も伸長し、高度経済成長期とメディアの拡張の中で、子ども雑誌全体が活性化する。
 戦後の『小学一年生』は、親が期待する学習性と子どもたちのエンターテインメント欲求との微妙なバランスをとりながら、その時々の読者ニーズに応えて成長してきた。それは世界に拡がった日本のサブカルチャーの土台形成とも期せずして重なる。それが可能だったのは、戦争のない平和な時代が続き、読者のニーズに応えた自由闊達な表現が可能だったからだ。
 1959年に子ども向け週刊誌として『週刊少年マガジン』と『週刊少年サンデー』が創刊され、1963年に「鉄腕アトム」が国産初のテレビアニメとして登場して以来、マンガ・アニメブームが起こり、「オバケのQ太郎」の大ヒットもあって『小学一年生』始め学年誌は軒並み部数を増やす。

 筆者が『小学一年生』編集に関わった1960年代末から70年代にかけてはまさに絶頂期で、72年の『小学一年生』正月号は実売で113万部を超え、約171万人の入学児童数の約66%、日本中の小学一年生の3人に2人が購入したことになる。一学年を対象にしてこれだけの浸透率を達成した雑誌は、世界的に見てもまさにギネス記録物だといえる。
 今日では国民的なキャラクターになった「ドラえもん」は『小学一年生』を始めとした学年誌から誕生した。学年誌から派生した『コロコロコミック』と学年誌のコラボが無かったら世界中で爆発的人気になった「ポケモン」ブームも生まれなかっただろう。半世紀に及ぶ怪獣ブームにしても、ウルトラマンシリーズなどと学年誌とのコラボが大きく影響している。

 本書では、このようなキャラクターやブームが、どのようにして生まれ、そして爆発的なヒットとなったかを、そのプロセスに立ちあった経験を踏まえて具体的に披歴した。全ページカラーのこの本には、2000点以上もあった資料写真の中から、お宝画像も含め370余点を精選して図版として掲載しているがそれもセールスポイントの一つだ。
『小学一年生』の100年は、昭和100年の歴史と重なるのだが、本書は、昭和史の表舞台からは見えにくい、子どもの視点に寄り添って作られた誌面を通して見た、他に類のない現代史を補完する試みでもあると自負している。




書名:『小学一年生』100年の現代史
著者:野上暁
出版社:論創社
ISBN:978-4-8460-2525-0
Cコード:0095
判型/ページ数:A5/296ページ
定価:3,300円(税込)

好評発売中!
https://www.ronso.co.jp/book/b10158199.html

Copyright (c) 2026 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース