本と本屋の多面的なあり方北田 博充 |
近い将来、ひとりで小さな本屋をやりたいと思っています。厳しい現実が待ち受けていることは重々承知しています。そんな中で、自分がどのような本屋を目指すべきかを考えるために『これからの本屋』を作りました。 僕がやりたい本屋は「広義の本屋」です。書店という現場で本を売ることだけが本屋の仕事ではないと考えました。書く、編む、刷る、選ぶ、売る、語る(伝える)、すべてが本屋の仕事なのかもしれません。つまり、本屋という言葉は「場所」をさす言葉ではなく、「人」をさす言葉なのではないかと考えました。 だから、出版社・取次・書店のどこで働いていても、「本屋」である人は「本屋」なのだと思います。学校の先生、医者、会社員、コンビニのアルバイト店員の中にも「本屋」はいるかもしれませんし、逆に書店という場所で働いている人の中に「本屋」ではない人がいるかもしれません。 本書では僕が尊敬する「本屋さん」にインタビューと寄稿をお願いしました。書店での勤務経験を活かして独立された辻山良雄氏(Title)、高橋和也氏(SUNNY BOY BOOKS)、久禮亮太氏(久禮書店)や、エア本屋というユニークな活動をされている粕川ゆき氏(いか文庫)、読み手側になった元本屋の福岡宏泰氏(海文堂書店元店長)、夢の本棚住宅に暮らす根岸哲也氏など多彩な顔ぶれです。どのインタビューからもその人自身の「生き方」が伝わってきます。 第二章「くうそうする」では、「こんな本屋があったらいいのに……」という実在しない本屋を空想しました。読み方によっては、商売としての本屋を諦めているように読めるかもしれませんが、そんなつもりで書いたわけではありません。空想は現実の反対側にあるものではなく、空想の延長線上に現実があると考え、本・本屋の多面的なあり方を模索しよう試みました。 明るい話題の少ない出版業界ですが、本屋を志す若い人は多いように思います。そういう人たちにとって、本書が何か小さな気づきを与えるものになれば嬉しいです。
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