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運動と記録とともに(『鎌田慧セレクション 現代の記録』全12巻完結)

運動と記録とともに(『鎌田慧セレクション 現代の記録』全12巻完結)

鎌田 慧
 9月末に完結した拙著セレクションの最終巻「あとがき」は、ピースボートの船上で書いた。ピースボートは40年数年前、若者たちが徒手空拳、日本が犯したアジアでの戦争を考えるために、自分たちで現地へ行って考えよう、という熱意で始まった。それに賛同した小田実(作家)、筑紫哲也(ニュースキャスター)、灰谷健次郎(児童文学)、「戦場カメラマン」の石川文洋などのみなさんと、わたしも参加するようになった。
 運動のために、と考えて参加したのだが、実際はわたし自身の視野を大きく拡げさせることになった。初期の頃は中国、韓国、ベトナム、カンボジアなど、旧日本軍の侵略先だったが、どこでも歓迎された。ピースボートはやがて地球を一周するコースになるのだが、わたしにとっては出会いのチャンスに恵まれることになった。
 
 もう一つの出会いのチャンスといえば、体験取材としてトヨタ自動車の季節工となって書いた『自動車絶望工場』である。フランスで翻訳出版され、そのあとアメリカ、スペイン(カタロン語)、オランダなどでも翻訳され、その国の団体から招待されて訪問するようになった。
 『アメリカ自動車幻影工場』(潮出版)、ソ連時代のサンクトペテルブルグの『混沌と幻想の街』(NHK出版)、そして『大杉栄 自由への疾走』(岩波書店)での大杉栄のフランス時代の取材などは、フランス語に訳してくださった神父、アンドレ・レノレさんなどの恩恵が大きい。
 
 ピースボートの船上から、海原に長い帯をつくりだす航跡を眺めながら、完結が近づいている『鎌田慧セレクション 現代の記録』について考えていた。これまで、ほぼ60年にわたって、ルポルタージュを書き続けることができたのは、僥倖としか思えない。いまだに新聞連載のコラムなどを書いている。運が良かった。セレクション12巻の「あとがき」にこう書いた。
 「ピースボートの船尾にいて、海面を眺めている。船幅に沿って絶え間なく両側に生み出される白い波を従え、大海原に太い航脈が描かれていく。水面下の巨大なスクリューに泡立てられた、白と碧(あい)の波のうねりが、後へ後へと長い船跡をつくりだしていく。が、やがてその幅広い船跡も、両側から包囲する執拗な波に飲み込まれ、なにごともなかったように、大海原に飲みこまれてしまう。掻き立てられては消えていく航脈を眺めていると、さまざまな思いが湧きあがってくる。」
 
 船尾のデッキにいて、海面に現れる波は激しく代わりながらも、航脈の表情はなにも変わることもなく続くのを眺めている。現在がたちまち変化してどんどん過去になっていく。現在と過去が瞬時にしてつくりだされて行く。しかし、未来はどこにあるのか。
 これまで、各地でお会いした数えきれないほどの人々の記憶、書き続けてきた過去と現在の出来事、その仕事の一部は、「セレクション」に収められた。しかし、これからどこへ行くのか、わからない。船を降りて、また日常にもどった。が、まだまぶたの裏に残っている航脈を眺め続けている。
 たしかに現在の波は過去の波となって流れて行く。過去の波も現在の波も、おなじ海で一体となって、未来にむかって流れて行く。過去と現在とは、往(ゆ)く手とまごうことなく繋がっている。船が、船の乗客が、未来の海に向かっているのはまちがいない。
 
 フリーライターになったのは、30歳を期してのことだった。そのどこかに、「30歳にして立つ」との想いがあった。『セレクション』12巻の「あとがき」に「この巻に収録した『都電撤去反対運動』のルポルタージュ(「首切りと統制処分」新日本文学、1967年3月号)の執筆を経て、フリーライターになった」と書きつけた。
 「新日本文学」に紹介して下さったのは、花田清輝さんだった。花田フアンのわたしは、学生アルバイトで、学内生協の機関紙の編集部員だった時に、2回ほど執筆をして頂いていた。労働者の友人から、都電撤去に対して反対している労働者たちが解雇される、それを労働組合が見殺しにしている状況を聞いていた。
 たまたま、京橋の国立近代美術館のフイルムセンターへ、ソ連の映画監督・プドフキンの「アジアの嵐」を友人と観に行った時、偶然、花田さんにお会いした。映画が終わってお茶をご馳走になりながら、「そのルポをどなたかに書いてもらえませんか」とお願いした。「キミは書けないんですか」と花田さんに反問された。
 花田さんは「新日本文学会」の幹事だった。自分で書くことを決心した。やがてわたしもこの文学団体の会員になった。セレクション12巻に収録した、美術評論家・針生一郎さんの「鎌田慧おぼえ書き」が、同誌に掲載されたのは76年11月号だった。会が解散、終刊号が発行されたのは、2004年12月だった。「敗戦処理編集長」となったのはわたしだった。その前にも編集長はやっていたが、最後を看取ったのは、古い言葉で言えば、恩返しだった。
 
 最初に出版した本は、『隠された公害』(1970年4月)だった。富山の三井金属で発生していた、「イタイイタイ病」が朝鮮半島に近い、長崎県対馬でも発生している、とのニュースがあった。編集者から取材しませんか、と打診された。取材は困難そうだった。それで、挑戦した。やはり取材は地域ぐるみの、「公害はない」との否定の壁に阻まれて、難航した。それが『隠された公害』のテーマとなった。
 と、この本が発行されたあと、「『隠した公害』を報告します」との内部告発の手紙が来た。そこには、隠蔽されたデーターを克明に記録した資料によって、公害隠しの実態が明らかにされていた。犯罪的な鉱害隠しは、国会で追求され、社長は辞任。田畑の鉱毒被害の復旧作業が始まり、農業が復活した。わたしが取材したことのある「内部告発者」とわたしは、鉱害被害者組合から感謝された。
 その顛末はセレクション第2巻の「内部告発」で詳述した。鉱山や警察などの脅しにも屈せず、わたしを居候に置いてくれた恩人・井田裕夫さんは「大団円」の後、30代で、無念の事故死。いま、佐賀県で暮らすお嬢さんとは、いままだ文通している。
 
 原発反対と冤罪の解決が、いまの自分にとっての重要の仕事となっている。
 冤罪事件では、高校同期の白取清三郎さんが、「財田川事件」を扱って挫折した裁判官・矢野伊吉さんのパンフレットを持ち込んできた。それで『財田川暗黒裁判』(立風書房、1975年12月)発刊に協力した。再審開始運動が始まった。その頃はまだ死刑囚が冤罪とは想像に余る事実だった。それが冤罪運動に関わるきっかけだった。財田川事件の再審開始、無罪判決までの経過は『死刑台からの生還』(立風書房、1983年8月)に詳述、セレクションの第1巻に収録した。
 いまの念願しているのは、無実を訴えながら、ついに86歳で病死した石川一雄さんの『狭山事件』の再審開始である。この事件の運動と原発をゼロにする「さようなら原発」運動が、いまだにやり残している仕事だ。
 
 
鎌田 慧
1938年青森県生まれ。 弘前高等学校卒業後に上京、零細工場、カメラ工場の見習工などをへて、1960年に早稲田大学第一文学部露文科に入学。卒業後、鉄鋼新聞社記者、月刊誌「新評」編集部をへてフリーに。1970年に初の単著『隠された公害:ドキュメント イタイイタイ病を追って』(三一新書)を刊行。以後、冤罪、原発、公害、労働、沖縄、教育など、戦後日本の闇にその根を持つ社会問題全般を取材し執筆、それらの運動に深く関わってきた。東日本大震災後の 2011年6月には、大江健三郎、坂本龍一、澤地久枝らとさようなら原発運動を呼びかけ、2012年7月、東京・代々木公園で17万人の集会、880 万筆の署名を集めた。2024年現在も、狭山事件の冤罪被害者・石川一雄さんの再審・無罪を求める活動などを精力的に行っている。
 
【主な著書】
『自動車絶望工場:ある季節工の日記』(1973 年、現代史資料センター出版会、のちに講談社文庫)
『日本の原発地帯』(1982 年、潮出版社 のちに青志社より増補版)『死刑台からの生還』(1983 年、立風書房 のちに岩波現代文庫)『教育工場の子どもたち』(1984 年、岩波書店)
『反骨 鈴木東民の生涯』(1989、講談社 新田次郎文学賞受賞)『六ヶ所村の記録』(1991 年、岩波書店 毎日出版文化賞受賞)
 
 

 

○鎌田慧セレクション-現代の記録-全12巻 パンフレット
 
 

 
書名:『鎌田慧セレクション12 拾遺 単行本未収録文集』
著者:鎌田慧
出版:皓星社
判型/ページ数:A5判並製/496ページ
価格:5,280円(税込)
ISBN:978-4-7744-0852-1
cコード:C0065
 
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