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『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争 135枚が映し出す真実』

『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争 135枚が映し出す真実』

田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

古いポスターは古書店で販売されることが多い。このため、各店から送られてくる最新の『古書目録』を眺めることは、私にとって楽しみの一つであり、未見のポスターの「存在」を教えてくれるそれらは、ポスターを調査研究する者にとって、貴重な参考資料となっている。

さて、今回私が刊行した『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争 135枚が映し出す真実』は、長野県阿智村に寄託されている、戦時期の日本で製作・配布された135枚のポスターを中心に、関連資料を紹介したものである。

これまでの調査経験から述べると、戦時期の日本国内で製作されたプロパガンダ・ポスターの種類は、少なく見積もっても2000を下らず、数量を問わなければ、それらを所蔵する機関は全国に広がっている。ただし、この種のポスターは戦後70年以上が経過した今日においても、もしくはだからこそ取り扱いが難しいようで、残念ながら所蔵している機関でさえ、実作品の公開に躊躇する傾向が見られる。「埋もれていた作品」(この場合は「埋めておきたい歴史」と表した方が的を射ているかもしれない)に光を当てる行為には、ある種の「痛み」が伴い、それを引き受けるには「覚悟」が必要となる。本書の刊行に賛同・協力してくださった関係各位には、改めてここで感謝申し上げたい。

本書は刊行以来、多くのメディアに取り上げられ、幸い好評を博している。言うまでもなく、この最大の要因は、これまで紹介される機会がほとんどなかった作品が、真正面から取り上げられた「物珍しさ」にある。けれども、大量の図画像を収集しただけの、従来型の『ヴィジュアル本』と、本書が一線を画していることも、好評の一助になっていると自負している。具体的には、各ポスターに対して正確な制作年と作者に関する情報が付記されていることや、当時の状況を踏まえた解説文とコラムが充実していること、作家略歴や年譜、参考文献等が巻末に収録されていることが、読者に対して「見ごたえ」とともに十分な「読みごたえ」を提供し、それが満足度につながったと推察している。

ただし、本書は日本製プロパガンダ・ポスターに関する書籍の「最終形」ではなく、また、そのようになってはならないと考えている。なぜなら、135枚で語ることのできる日本の戦時期とは、そのごく一部に過ぎないからである。したがって、将来的には現存する作品のみならず、当時の新聞雑誌においてのみしか存在が確認できない作品も網羅した、日本製プロパガンダ・ポスターの『カタログ・レゾネ』の編纂を実現したいと思っている。
そのために、私は今日も『古書目録』に目を通し、該当作品をクリッピングし、古い新聞雑誌の閲覧調査をすることで、情報の収集に勤しんでいる。「労多くして・・・」の面は否めない。しかし、それでもこの作業は私にとって楽しい、次につなげるための有意義な時間である。



puropa
『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争』田島奈都子 編著
勉誠出版 刊 定価:3,024円(税込)
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100628

Copyright (c) 2016 東京都古書籍商業協同組合

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