ありそうでなかった業界3者の「車座」会議ブックオカ実行委員/忘羊社代表 藤村興晴 |
「日本の取次システムは、すでに崩壊しているんですよ」。 わが国の出版流通を支えてきた仕組み。本の売上が下降しつづける今日、それがもう息も絶え絶えだという程度なら話はわかる。だが、「すでに手遅れ!」というのでは、話にならんじゃないか―—。 この本は昨年(2015)11月、2日間にわたって福岡市で開催した「車座トーク ~本と本屋の未来を語ろう」の模様を中心に収録したものだ。公開座談会形式で、出席したのは私のような編集者や書店員、そして本の流通(供給)の根幹を担う取次の社員、総勢12名。冒頭のセリフは、初っぱなで飛び出した衝撃発言だ。書名は、座談に参加してくれた大阪の書店さんが、昔、お客さんから言われた言葉で、彼は街の本屋の存在意義に気づかされたのだという。 この座談会を主催したのはわれわれ福岡の出版・書店業界有志で2006年に立ち上げた「ブックオカ」。「ブック」と「フクオカ」をかけた造語で、毎年秋の1カ月にわたり、新刊書店を横断する文庫フェアや作家のトークショーなど様々なイベントを催してきた。メインイベントは市内の並木道を舞台にした青空古本フリマ。今では福岡の秋の風物詩として定着し、掘り出し物の古書を求めて大勢の人がつめかける。 世間では長らく“本離れ”が喧伝されているけれど、我々の活動の根底には、「本が売れないのを読者のせいにする前に、まだできることがあるんじゃないの?」という自戒のような思いがあった。手弁当でこうした祭りを主催し続けるのは正直しんどかったが、「読者は確実に存在する」ことを実感できたし、何よりわれわれ自身が、自らの拠って立つ、本というメディアの力を再認識できた。 だがこの10年、わが福岡でも書店の閉店・撤退はとどまらず、戦線は後退するばかり。本屋を続けたい、本屋を始めたいという人はいるのに、その思いを後押しするどころか、どんどんジリ貧になっていくシステム。どこにその「病巣」があるのか、膝を突き合わせてマジメに考えたほうがいいんじゃないか。そして、これを本の形にして、本屋の可能性を信じる人たちに向けた情報満載のテキストにしてみたらどうだろう―—。そんな思いから、この座談会を企画したのだった。 とはいっても、我々の業界には長い歴史を経てつくり上げられた複雑な制度や不文律が多く、何を論点にすればいいのか、最初は見当がつかなかった。そこでいっそ、この業界の旧弊についての「わからなさ」を率直にぶつけあってみることから始めてはどうかということに思い至った。当日聞き足りなかったポイントは各地での追加取材で補った。 なおこの座談会では、業界のグチや批判を言い募るのではなく、あくまで「未来」のためにこの場を持つのだということを意識した。いま、いくらか覚悟めいた思いとして抱いているのは、新しい仕組みを自分たちで一から作っていかなければならないのだということ。本書の最後には、われわれなりのマニフェストも掲載している。実際、本書の出版後、同じような思いを抱えている全国の読者から多くのエールを頂いた。やっぱり、諦めるのはまだ早いのだ。 ブックオカ実行委員/忘羊社代表 藤村興晴
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