古本のご縁がつなぐ『怪書探訪』古書山たかし |
『怪書探訪』は名前の通り?いわゆる「本の本」である。 トーマス・マンの署名本の宛先が誰だったのかという追跡劇(という程大げさなもんじゃないですが)に始まり、天下の奇書『醗酵人間』を自分のためだけに復元製本してしまうマッドサイエンティスト型エピソード、18世紀に出版された最も偉大な書籍の一つといわれるサミュエル・ジョンソンの辞典をめぐる切ない物語と続き、ネタの硬軟は烈しく乱高下する。 それ以降も一貫性のなさだけは一貫し、昭和20年代に書かれた、頭脳を持った殺人箪笥が暴れまわるというトンデモない内容の少年探偵小説のレビューとその意外な元ネタ、ハンターさんが書いたハンター(狩猟家)の本、バッハの偉大な傑作『マタイ受難曲』の最高の演奏が行われた背景に迫ったマンガの紹介、尾崎紅葉が熱筆描破した桃太郎暗殺計画、井上靖の雪男小説、哲学者カントのエスパー対決記、満州帝国にて日本語で刊行された探偵小説について、おなら名人の愉快なエピソードなど、全部で30編の多彩な(より正確にはとりとめもない)方向性の古書エッセイから構成されている。 三十年以上の蒐書活動の中で、色々なご縁に恵まれ、珍しい本・変わった本に巡りあうことが出来たとはいえ、私はただの本好きシロートに過ぎない。それが偶然のご縁から、東洋経済オンラインという真面目なサイトに、半年ほど不真面目な古本エッセイ「稀珍快著探訪」を連載することとなり、それがたまたま同社出版部門の御意に召し、単行本として出版されてしまうにいたった。この「ご縁」の連鎖に、著者である私自身が一番驚いているのである。 しかし思えば、『怪書探訪』で取り上げた珍しい書籍・ヘンテコな書籍は全て、偶然のように見えて必然的なご縁で私の手元に集まってきたものばかり。してみると、私がヘンテコな本に出会ってヘンテコな古本コレクターとなり、ヘンテコな連載をした挙句にヘンテコな本を出してしまったこのヘンテコなご縁は、すべて古本の神様の配剤といえるような気もしてくるのである。願わくは、このご縁が『怪書探訪』を読んでくださる皆様にも伝わり、皆様が知らなかった本との新たなご縁の一助となりますように。 私は私で、自分を待っているであろう新たなご縁(怪縁?奇縁?)を求め、今日も古本屋に赴くのである。
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