花森安治装釘集成みずのわ出版代表 柳原一徳 |
6年越しの懸案となっていた『花森安治装釘集成』が、難産の末、昨年11月末にこの世に産まれ出た。10月末に校了したのだが、覚悟していた以上に色校正に手間がかかり、下手なものを出して恥を遺すよりマシだといって納期を遅らせることにした。奥付記載の発行日は、日本国憲法の公布記念日11月3日のまま変更しなかった。一昨年刊行した『書影の森―筑摩書房の装幀1940-2014』(臼田捷治編著、10,000円+税)の発行日が5月3日憲法記念日でもあり、言論出版に携わる者として、自公政権打倒の意思を突き付けるという意図もある。日本の憲法は、一字一句たりとて変えてはならない。 憲法はさておき、あと数ヶ月早く刊行できていれば「とと姉ちゃん」効果で少しは売れ行きが違っていたのかもしれないのだが、無理して間に合わせた時に限って致命的なミスが生ずるものであり、それ以前に便乗商売を好まないというのもあり、満を持して放送終了後の刊行と相成った。 花森は暮しの手帖社以外の装釘も数多く手掛けており、本書に収録した花森装釘本は500点を超える。現物が確認できず掲載できなかったものも少しばかりあるのだが、花森装釘の全貌がこれで縦覧可能になったわけであり、本作りにまつわる花森のコラム、南陀楼綾繁氏による解説および晩年の花森のもとで仕事をした唐澤平吉氏による前書とあわせて、戦後出版文化史を紐解くうえで、欠くべからざる資料を遺せたと自負している。 カバーや函の平(ひら)だけでなく、本によっては表紙、見返し、扉、目次、本文組、奥付、本文中のカットなど、花森「らしさ」を伝える図版から、その手仕事の全貌を掴めるような作りとした。特徴的な作りの本、大判本、全集のグループショット等は、私が中判フィルムカメラで撮影した。私のもう一つの本業は営業写真館である。 写真の話ついでに、島根大学附属図書館所蔵で、館外貸出、スキャニングとも不可となっている旧制松江高校校友會文藝部発行『校友會雑誌』の図版22点は、私が出張撮影した。これが収録できただけでも、資料としての厚みが違う。
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