Title店主『本屋、はじめました』を語る辻山良雄 |
Title開店一周年の1月10日、Title開業の経緯とその後を綴った『本屋、はじめました』を版元の苦楽堂より上梓した。苦楽堂社主の石井氏からは7月の終わりに出版の打診があったが、一周年の日に間に合わせたいと即座に考えたので、その翌日の夜から執筆に取りかかり始めた。石井氏とは旧知の間柄であったことに加え、私の生まれ故郷である神戸の出版社から自著が出るということに、何よりよろこびを感じた。 『本屋、はじめました』は、この時代に一軒の新刊書店を、個人が作った記録である。店舗物件探しから始まり、取次との交渉、商品の選択の仕方・発注、POSレジやWEBサイト構築、店舗に併設しているカフェのメニュー作成など店を作るときに必要となってくる事項を、本の業界とは関係のないところにいる人でもわかるように丁寧に記していった。 開業前もその後も、「いま個人で新刊書店を行うのはかなり珍しいケースだ」と言われることが多かった。しかしそのケースがないために情報量が圧倒的に不足し、最初から開業が不可能なことのように思われるという負のスパイラルが存在する。自らの記録を記すことで、新刊書店開業が決して夢物語ではなく、どういうスタイルの書店であれ、部分的にでも後に続く人(いるかは不明)の参考になればと思った。 本の後ろに、開業前の計画書や一年後の営業成績表を掲載したのも同じ理由による。「よくこんなことまで載せましたね」と人に言われるが、載せても載せなくても自分の店の売上に影響がないのであれば、その情報をオープンにすることで少しでも新刊書店開業への迷信がなくなればよいと思った。きちんとした数字を載せることで、本が現実とリンクして、内容に深まりが出たように思う。 1月10日から発売した本は、現在Titleだけで700冊以上販売している。本を読んで来ましたという遠方からのお客さまも多く、「本を出版するということは、こんなにも多くの人との関わりを作るのか」という驚きを、日々嬉しく感じている。店頭で本を手渡した顔を見ると、本に関わりのある仕事をしている方だけでなく、もっと広く読まれているように感じる。実際に、Title店頭で買った他業種のお客さまから「読んで元気になりました」とお声がけいただいたこともある。この本が、読んだ人の心のスイッチを押したのであれば、これにまさる喜びはない。
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