『社史の図書館と司書の物語』神奈川県立川崎図書館社史室の5年史について高田高史 |
古書業界では馴染みのある社史も、社員や関係者への配布がほとんどの非売品なので、世間的に認知されているとは言い難い。その社史を約1万8千冊コレクションしている公共図書館があるのは意外かもしれない。くわえて、司書の仕事は外から見てわかりやすいとはいえず、その中でもかなり特殊な取り組みをしてきた。このような「社史」と「公共図書館」と「司書」が融合してどうなったか。本書は神奈川県立川崎図書館の社史室における5年間の実践を記した一冊、もちろん実話である。ニッチなテーマの集合であるが、図書館に勤めているかのような感覚で、楽しく読みすすめられるように書いた。 同業者以外の知人に感想を聞くと、大方の反応は「こんなことまで図書館員がやっているとは知らなかった」であり、私自身が数年間を振り返っても「こんなことをやるとは思わなかった」というのが本音である。 社史室の担当になって5年間、思い付いたアイデアは、小回りのよさを効かせて形にしていった。社史の面白さを伝えたいから「企業キャラクターの展示をやってみよう」、社史編纂の過程を知りたいというニーズを感じて「講演会を企画しよう」、新刊の社史だけ集めて「社史フェアを開催してみたい」といった具合である。私は現在進行形で社史室に関わっているので、回想をする立場にはない。掲載した写真などを含め、リアルな視点で図書館の様子も伝わると思う。 これらの活動を通して知り得た、社史の楽しさや使い方も紹介することができた。その会社の歴史を知るだけでなく、郷土資料として役立てる、人物を調べる、テーマを探して読み比べる、経営のヒントを探すなど、活用法は多種多様である。何冊かの社史は、会社の歴史を記すことになった社史編纂担当者の想いなどを盛り込みながら、詳しく掘り下げてみた。 図書館にせよ古書店にせよ、地味な本の代表のような社史であるが、本書を通して、社史に何が掲載されているのかなとぱらぱらめくったり、社史の魅力の引き出し方などを考えたりしていただけたら嬉しく思う。また、社史室での出来事は、ひとつの実践例として受け止め、特殊な資料をどう魅せて活用していくのかというヒントにしてみるのもおすすめである。 図書館のコレクションが、多くの個人や企業の役に立っているという確かな証を記すことができたと思う。
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