『郊外の果てへの旅/混住社会論』小田光雄 |
上記のようなタイトルを目にし、怪訝に思われる読者もおられるかもしれない。 それは私がブログで、長きにわたり「出版状況クロニクル」を発信し、同タイトルの著書も4冊刊行している印象が強いことによるだろう。それに加えて、これも20冊に及ぶ「出版人に聞く」シリーズのインタビュアーを務めていることから、出版評論が専門だと見なされることが多い。実際に「出版評論家」と称せられたこともある。 しかし私が専門とするのは郊外消費社会論で、それは20年以上の注視に及び、1997年に『〈郊外〉の誕生と死』を上梓している。それが機縁となり、本書の版元である論創社の森下紀夫氏と出版業界で混住することになった。折しも出版業界は97年をピークとして売上高が減少し始め、現在へと至る危機が表出し始めようとしていた。森下氏の要請により、その危機のよってきたるところを、郊外消費社会論の応用編として書いた。それが『出版社と書店はいかにして消えていくか』であり、現在の「出版状況クロニクル」へと至っているのである。 その意味で、今回の『郊外の果てへの旅/混住社会論』は前著の続編、私の戦後社会論として、どうしても上梓しなければならない一冊であった。当初の心積もりでは続けての刊行を考えていたが、果たせず、ここまでずれこんでしまった。だがそれはダイレクトではないにしても、2011年3月11日を体験することにつながり、必然的な状況だったといえるかもしれない。 それらはともかく、このような私の広義の文芸批評、新たなソシオロジーと歴史記述の試みに対し、紹介の場を与えられたので、本書の簡略なスケッチを試みてみる。拙著は郊外をめぐる小説、映画、コミック、関連資料の集大成となっていて、それは欧米やアジア、近代から現代にも及んでいる。しかもそれらは152のセクションに分かれ、いずれもが独立した一編として読めるように提出され、どこから読み始めても、郊外に赴き、混住社会とロードサイドビジネスの中をくぐり抜けることになろう。そして21世紀の郊外と混住社会の行方を問わざるを得ないシーンに出会うかもしれない。現在の郊外こそは全世界の問題を集約するトポスとして存在しているからだ。 ただ本文だけでも760ページの大部なので、5800円という高定価になってしまった。もし購入して頂ければ有難いが、図書館へのリクエストも同様である。同時に『〈郊外〉の誕生と死』も復刊され、東京堂書店神保町店で月末まで、オリジナルなブックリストを添えた、拙著をメインとするフェアも開催されている。残された日は少なくなっているけれど、こちらも出かけて頂ければと思う。
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