古本屋ツアー・イン・ジャパンの2017年上半期活動報告古本屋ツーリスト 小山力也 |
ついに今年の五月で、ブログ「古本屋ツアー・イン・ジャパン」を始めて、十年目に突入してしまった。だがその長い月日のために、すでに古本屋を調査することが日常の一部になっている身としては、それほど特別な感慨は湧いて来ない。ただ、祝って良いのか困って良いのか判然とせぬ珍妙な心持ちを抱え、連綿とブログを更新し続ける日々が、今いる場所の前と後に見えるだけである。とは言っても十年である。お店も古本屋界もそして私自身も、様々なことが変化してしまったはずである。 私に関して言えば、今年に入ってまったく遠出をしていない状況が続いている。「古本屋ツアー・イン・ジャパン」どころか「古本屋ツアー・イン・トウキョウ」に成り果てているのだ。これは、経済的な状況や仕事の状況、そして昔ほどの瞬発力&行動力がないなど、様々な要因が絡まり合って生み出されているのだが、別に古本屋への情熱さえも失ってしまったわけではない。ただ諸事情により、昔のように無軌道に未知のお店を目指しての行動が難しくなってしまったのだ。せっかく今年五十歳を迎え、ようやくJRの『大人の休日倶楽部』の入会資格を得たというのに…。だが、まぁこういう時にあまり無理しても良いことはないので、気楽に今の状況を楽しみ、今の自分に出来ることを続けて行こうと考えている。長い人生だ。また潮目が変わる時も来るさ。だから自然と最近のブログは『古本屋調査ブログ』というよりは『古本屋と古書に関する身辺雑記』の様相を呈しているのだが、これはこれでやはり楽しいものなのである。 というわけで、近辺の古本屋をしつこく再訪したり、数は少ないが開閉店のお店を偵察したり、ブックハントに勤しんだりする毎日であるが、中には古本屋さんで臨時のアルバイトとして労働する、古本屋好きとしてはたまらなく嬉しい状況に恵まれることも何度かあった。西荻窪「盛林堂書房」では買取にバイトとして同行し、普通に生きていたら見られなかった書庫を覗ける幸運な機会を与えてもらったりしているが、同じ西荻窪の「古書 音羽館」で店員として一日働かせてもらったのも、稀で身になる体験であった。お客としてだけでは分からない人気店の秘密が、目の前にゴロゴロ惜しげもなく転がり出てくるのである。その反面、仕事としてのハードさも存分に味わい、もはや日も変わろうとする深夜の帰り道に「これを毎日繰り返すのか。古本屋さんって大変だ…」 などと改めて気付いたりする始末であった。また神保町「@ワンダー」では、自家用トラックに乗り込んでの一泊二日出張買取を手伝い、三階からひたすら人力で大量の本を下ろし続けるという、ほぼ引越し屋さんのようなバイトを汗に溺れながら完遂(帰り道に古本を満載したトラックがバースト寸前に陥る危機にも遭遇)。こんな風に、新たな形で古本屋に関わり挑戦することも増えた十年目なのである。 さらに新たに挑戦したことと言えば、十年間の古本買いがもたらした弊害、部屋を占拠する夥しい古本を、ついにどうにかするために、二月にはたった一人で古本市を開くことを決意。三十〜四十冊単位の本の束を計七十一本作り出し、「盛林堂」協力の下に『人間としての住居を取り戻すための「古本屋ツアー・イン・ジャパン」の大放出古本市2DAYS!』と銘打ち、二日間でおよそ九百冊の本を売ることに成功した。だが長く偉そうなタイトルを付けた割には、結果としては部屋の本が三分の一ほど減っただけ…人間としての住居を取り戻すのは、まだまだまだまだ先の日となりそうなので、いつかの第二回を開催を視野に入れながらも、未だに古本の中での生活を強いられている…。また、盟友・岡崎武志氏と共編著で三冊目の古本屋本である「中央線古本屋合算地図」を出せたのも、結果として新たな挑戦となってしまった。何と言ってもこのシリーズは、いかに楽に本を作るかというのが裏テーマにあるのだが、今回取材たっぷり図版製作たっぷりの、編集茨の道にずぶっと踏み込んでしまったのである。こんなことでは、次作がまったく思いやられてしまう…。 身近に新しくできたお店については、端正な街の古本屋さんと言える駒込「BOOKS 青いカバ」、「白樺書院」の店舗を受け継いだ下北沢「古書明日」、小さいながらも美術に縦横無尽に強い曙橋「おふね舎」、紙物と鉄道に力を入れる八王子「古書むしくい堂」、買取依頼者の個性を棚造りに生かす新小金井「尾花屋」などが上げられる。と同時に閉店したお店もチラホラ散見され、小川町「澤口書店小川町店」、西荻窪「比良木屋」、戸塚「ブックサーカス 戸塚モディ店」、高津「小松川書店」、府中「木内書店」、武蔵関「古本工房SIREN」などが寂しく姿を消し、その多くはネットの海で活躍することを選択した。 かようなポンコツ上半期ではありますが、どうにかして楽しみながら色々乗り越え下半期につなぎ、またこの場で年末に、古本屋について様々に報告出来るようあがき続けるつもりである。そんな風にあがいていると、何処かにいると思しき古本の神様も、哀れに思ってご褒美をくれるようで、最後は安値で手に入れた、古本屋の店先に転がっていた夢の羅列でお別れしたい。千葉の飯倉では「バリケード・一九六六年二月/福島泰樹」の献呈署名歌入りを二千円で。調布の古本市では数少ない乱歩の付録本「探偵小説 幽霊塔」を三百円で。高円寺では学生運動系写真集「10・21とはなにか」を百円で。東村山では角川文庫「魔法入門」を五十円で。 経堂では竹中労の異色ルポルタージュ「団地七つの大罪」を二千五百円で。やはり古本屋に足で向かえば、何か面白いものが発見入手出来るのである!ビバ、古本屋さん!
小山力也 |
Copyright (c) 2017 東京都古書籍商業協同組合 |