『編む人 ちいさな本から生まれたもの』南陀楼綾繁 |
大学を卒業して、大学院に入るまでのつなぎのつもりで、ちいさな出版社でアルバイトをはじめた。そこで、編集者が一種の特権であることに気づく。なにしろ、名刺一枚で、仕事にかこつけていろんな世界の専門家や有名人に出会うことができるのだ。人見知りの私は、パスポートをもらったような気分だった。実際には同じ出版社でもピンからキリまであるのだが、そんなことを知らなかった私は、勝手な企画を考えては、以前から愛読していた書き手や研究者に会いに行った。企画が通らずに、お茶を飲んだだけで終わった人もいるし、一緒に仕事をさせていただき、その後もお付き合い願っている人もいる。 そういった人たちの話をひとりで聴いているだけではもったいないと思い、トークイベントを開催するようになった。2005年に「不忍ブックストリートの一箱古本市」をはじめてから現在までに、地方での開催も含め、いったい何十人にご出演いただいただろうか? 私が聞き手をつとめるのは、でしゃばりからではなく、ほかにやってくれる人がいないからであり、本来なら純粋に客の立場で聴きたいのだ。もっとも、当日までにその人の著作を読み返したり、こんなことを聞こうと考える時間は楽しい。 トークイベントの記録や、雑誌に掲載したインタビューをまとめて一冊にしようと、ビレッジプレスの五十嵐さんと話したのは、もう10年近く前のこと。テーマや人選で悩んでいるうちに月日が流れた。結局、本や雑誌の編集と、それを軸に場所をつくってきた人=〈編む人〉をテーマにしようと決め、9人の話を入れることにした。 その結果、8年も前のインタビューを収録することになったのだが、内容は古びていないと信じている。時間がかかってかえってよかったのは、以前はそれほど気にしていなかった、〈地域〉が、この間に私にとって重要なテーマとして浮上したことだ。そのため、北九州や飛騨、日田で雑誌と地域をつなげる活動を行なっている牧野伊三夫さん、新潟で地域雑誌『LIFE-mag.』を発行する小林弘樹さん、『地域雑誌 谷中・根津・千駄木』を軸に谷根千工房の活動を続けている山﨑範子さんの話を入れた。 刊行後、何人かから感想をいただいたが、どの人の話が興味深かったかがそれぞれ異なるのが面白い。読む人の個性や経験が、おのずと反映されるのだろう。そのなかでも、冒頭に収録した小西昌幸さんのインタビューは好評だ。徳島県で公務員として働きつつ、ミニコミ『ハードスタッフ』をつくり続けている小西さんの話は、かっこいい。彼の話を聴くと、自分にできることをやらなければという気持ちになる。とくに「精神では講談社よりもうちのほうが大きい」とタンカを切った出版社のエピソードには、勇気づけられる。 刊行を記念して、その小西昌幸さんに徳島から来ていただき、来年1月7日に田原町の〈Readin’ Writin’ BOOKSTORE〉でトークイベントを開催する。前回のトークからいままでずっと、『ハードスタッフ』次号を編集中の小西さんの話を、ぜひ生で聞いてほしいと思います。 http://readinwritin.net/
|
Copyright (c) 2017 東京都古書籍商業協同組合 |