『図書館人物事典』日本図書館文化史研究会『図書館人物事典』編集委員会 |
本書は“図書館人物”の事典である。それゆえ、図書館情報学の教科書に出てくるような図書館史上の偉人たち――帝国図書館長を造った田中稲城や東京市立図書館の黄金時代を導いた今澤慈海など――古今東西の1,421人が収録されている。欧米人を中心とする外国人には、メルヴィル・デューイやランガナータンといった教科書ではおなじみの人物も登場する。 しかし実際に手に取った人は、本書に新村出、柳田國男、椋鳩十、北園克衛といった名前を見つけて意外に思うかもしれない。言語学、民俗学、文学者、詩人として著名な名前が本書に見つかるのは、彼らが図書館事業にさまざまな立場から関わったからである。新村は京都帝国大学で附属図書館の整備拡充に功があり、柳田は内閣記録課長時代に内閣文庫の目録改善を企画、椋は鹿児島県立図書館で自ら館長となって読書運動を推進した。北園は大学図書館に職を得て詩作に邁進しえた。他ジャンルでの有名人が図書館事業に関わったことは、関係者には――ある種の身びいきもあって――知られていることもあるが、一般的には知られていないのではなかろうか。この事典は、一般著名人の図書館とのかかわりといった面にも光を当てている。 文化人ばかりでない。さらに関係なさそうな実業家や政治家たちも登場する。住友財閥の住友吉左衛門(第15代)、衆議院議員の有馬元春といった政治家も図書館設立の設立者、後援者として並んでいる。 この事典が実際の調査にどう使えるかは、これから明らかになるだろう。例えば人物調査で事典にその人物が出てきても、記述のその先を調べたいと思うことが多々ある。今回、とにかく全項目に必ず参考文献欄を設け、さらに調べる場合に役立つ文献か、あるいは記述の根拠となった文献を記した。付録の「人物調査のための文献案内」を併用すれば、立項されていない人物を含め、近現代日本の図書館関係者はすべて調べられるようになっている。本書は調べ方案内つき人物文献索引でもある。 索引にも注力し、単なる人名事典に終わらぬよう留意した。「人名索引」からは人脈が、「図書館・団体名索引」からは各館の歴史が、「事項索引」からは個別サービス史や論争史が垣間見えることだろう。 ひろく読書人におかれても、各地の図書館などで実際に手に取り、繙いてもらえれば幸いである。
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