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『人と会う力』について

『人と会う力』について

岡崎武志


 昨年(二〇一七年)に出したのが『人生散歩術』(芸術新聞社)で、 年が変わって今年初めて出た本が『人と会う力』(新講社)である。こ れまで、本、読書、古本に関する著作が多かったが、還暦を迎えた去年から、出た本のどちらのタイトルにも「人」がついている。これは意識せずにそうなったのた。そういうお年頃、ということであろうか。

「まえがき」にも書いたが、今回の本は、昨年に神保町の酒場で、作家で編集者の坂崎重盛さんとお酒を飲んでいる際、いろんな話になって、「私はいろんな人と出会うことで自分を作ってきた。人と会うことで今がある」というようなことを言ったらしい。それを聞き逃さず、坂崎さんが「それで、一冊本が書けるんじゃないですか」と絶妙の振りをした。酔いにまかせて私が「このテーマなら一カ月あれば書けます」と豪語したらしい。「らしい」というのはよく覚えていないからである。覚えていた坂崎さんが担当編集者になってくれて、「一カ月」どころか「一年」かかって、どうにか書き下ろしたのである。

 街を歩いていても、駅前のカフェへ入っても、多くの人がスマホに向い、あるいはイヤホンをしたまま小型端末に没頭している姿をよく見かける。「公」の場に出ても、閉じられた「個」の空間で、周囲とバリアを張っているようだ。人と会う、接する、話すことが苦手な若者が増えている、とも聞いた。もちろん、人と会うことは、基本おっくうであり、いいことばかりとは限らない。不快な目に遭ったり、うまく話が通じず困ったなんてこともある。しかし、それは例外で、私の経験に照らし合わせれば、会って話せてよかったし、そこから人間関係が広がったり、また仕事につながったこともあった。
 まず、会うことからすべてが始まるのである。そんな体験を、自伝風に気が弱かった幼少期から、転校が多い学生時代、夜間大学で出会った友人たちの話を中心に前半は書いた。夏目漱石『坊っちゃん』の主人公は、「人と会う力」のない人間であると批判した文章は、書く過程で思い付いたことである。
 自分の体験だけでも一冊書く分ぐらいはあったが、なにしろ私が成功者とは言えない。「人と出会う力」を発揮して、なんだそれだけのことかと言われても困るので、さまざまな先人の例も引いた。「男はつらいよ」の寅さん、ディック・フランシス「競馬シリーズ」の主人公たち、苦労人の井伏鱒二による交遊術などは、おそらく参考になるはずだ。北山修、澁澤龍彦、鮎川信夫と田村隆一、花森安治と大橋鎮子なども登場させたのは、ある程度、私の読者なら好みそうな話題も必要かと思ったからである。

 一例を挙げれば、のち「フォーク・クルセダーズ」で世を席巻することになる北山修と加藤和彦が、雑誌の投稿で知り合い、初対面の時「互いのその大きさが気に入った」という。二人とも当時の成人男子の平均より、とびぬけて身長が高かった。そんなことでも、情報のない初対面の場合、距離を縮める要因となるのだ。

 六〇年代末から七〇年代初頭、まだ情報誌もネット環境も、独り者の個人宅の電話も整わない中、見知らぬ若者同士が出会う場として、町の喫茶店が大いに機能した、という話も書いた。大阪・ナンバにあった小さな喫茶店「ディラン」など、関西フォークのほとんどの主要人物がここで顔を合わせ、友だちになって行った。大阪名物の野外フェスティバル「春一番」も、この喫茶店での交遊関係から組織されていった。

 現在でも、地方の古民家カフェや、音楽バーなどが、情報発信と人が出会う広場的役割を果している同様の例はたくさんあると思われる。最初はちょっと顔を出しにくい。しかし友人に連れられて行ったり、何かのイベントに参加したり、きっかけがあれば、人は「人と出会う」ことはできる。出会うべきなのである。

 最後の方に、トークショーなどでよく披露して受ける、鉄板ネタの「小沢昭一さんに会えてよかった」も、今回文字化した。これを読めば、全員、小沢昭一さんを尊敬し、好きになるはずだ。

 もし、万が一、この本がベストセラーとなり、第二弾という運びになってもぜんぜんだいじょうぶ。書き終わって気づいたのは、あの話、この人について書き漏らしたことがたくさんあったことだ。なんなら「人と会う」評論家になってもいい。そう思っている。



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