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『出版状況クロニクルⅤ』

『出版状況クロニクルⅤ』

小田光雄


 これで『出版状況クロニクル』も5冊目となった。論創社の森下紀夫氏の誘いにより、2007年から始められた出版業界の定点観測は10年間に及んでいる。それゆえに本クロニクルは紛れもないひとつの現代出版史を形成しているし、リアルな出版社、取次、書店のドキュメントとなっている。その事実からすれば、本書は他の業界では見ることができない、臨場感を伴う同時代レポートと称してもかまわないだろう。

 本クロニクルは近代出版流通システムの歴史と構造、出版社、取次、書店という三者の関係をふまえ、さらに古書業界も視野に入れ、書き継がれてきた。しかし今世紀に入って、あからさまに露呈し始めていた出版物インフラをめぐる危機状況は、出版社や書店だけでなく、その流通と金融を担う取次にも及び、それが2016年から17年にかけての『出版状況クロニクルⅤ』に鮮明に記録されることになったのである。

 16年は太洋社の自主廃業発表から自己破産、実質的な大阪屋と栗田出版販売の破綻から生じた大阪屋栗田の発足、神田村の東邦書籍の破産から始まり、17年には専門取次の日本地図共販の自己破産が起きている。それに伴い、取次の根幹を占める実際の出版輸送の危機にも見舞われ、さらにまた大型店を全国的に展開してきた丸善ジュンク堂の経営者たちの辞任問題へともリンクしていったことになる。

 このような『出版状況クロニクルⅤ』に示された取次と書店のバブル書店の危機を背景として、18年に入って大阪屋栗田をめぐる問題、日販の「非常事態発言」などが続いている。それにはアマゾンや電子書籍も絡んでいるけれど、根本的にいうならば、取次が流通業の原則を弁えず、結果として生命線に他ならない中小書店を壊滅させてしまったことにある。それが雑誌の凋落を招いた最大の要因である。1960年代に2万6千店を数えた書店は、2018年に入り、1万2千店と半分以下になってしまっている。それは出版物売上高も同様である。その一方で、まだバブル的大型店出店の清算はなされていない。
 そうした取次をめぐる危機的状況はこれからさらに加速していくはずで、そこに至る取次とナショナルチェーンの書店の関係は、今回の『出版状況クロニクルⅤ』に詳細に記録されている。これから起きるであろう出版業界の突発的事態にしても、予測と手がかりはレポートしているつもりなので、ぜひ本書を参照してほしいと思う。

 それと同時にあらためて実感されるのは、ほぼ一世紀前に誕生した近代的雑誌や書籍という出版物、それを生産し、流通させ、販売するという出版社、取次、書店からなる近代出版業界のパラダイムが、もはや崩壊から解体へと向かっている事実である。その行方がどのようなところにたどりつくのかは断言できないけれど、私たちがこの時代において、大げさではなく、ミシェル・フーコーのいうところのエピステーメーの変動に立ち合っていることは確かであろう。そのような記録として、『出版状況クロニクルⅤ』が読まれることを願って止まない。



kuronikuru
『出版クロニクル5』小田光雄 著
論創社 4月下旬発売予定
http://ronso.co.jp/


Copyright (c) 2018 東京都古書籍商業協同組合

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