『熊楠と猫』志村真幸 |
水木しげるの『猫楠』は南方熊楠を主人公とした漫画だ。熊楠についてよく調べられ、我々研究者から見ても違和感がない。なにより優れているのは、熊楠を猫という切り口から描いた点だろう(ただし、荒唐無稽に過ぎる面もあって、先日は授業で学生から「熊楠って猫と会話できたんですよね?」と質問された)。 熊楠は生涯を猫とともに暮らし、しばしば論文のテーマにとりあげ、無数の猫の絵を残した。『熊楠と猫』は、そんな熊楠と猫についてのすべてを集めた本である。猫の絵も100点近くが収録されている。 本書は、2015年に南方熊楠顕彰館(和歌山県田辺市)で開かれた展覧会をもとにしてつくられた。そもそも展覧会のきっかけは、熊楠の猫の絵があまりに魅力的なことにあった。でっぷりと太っていて、図々しく、油断しきっており、ご満悦な表情を浮かべている。熊楠がどれほどかわいがり、甘やかしていたか伝わってくる。 熊楠の猫たちは思わぬところに潜んでいる。日記の片隅に描かれていたり、反古の裏に悪戯書きがあったり、論文で難解な概念を説明するのに使われていたり。展示では一部しか出せなかったが、こんなにあるなら本にしなければもったいないということで、『熊楠と猫』が生まれたのだ。 編集作業中に、熊楠が飼っていた猫の写真が出てきたのにくわえ、熊楠が日本で広く知られるようになった論文である「猫一疋の力に憑って大富となりし人の話として」の続編が3篇も新発見された。これらを収録できた点でも、『熊楠と猫』は意義深いものとなっている。 なお、本書の出版を記念して、6月5日~10日に、高円寺の来舎ギャラリーにて「熊楠と猫」展(南方熊楠顕彰館:後援)を開催する。
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