『公共図書館の冒険』田村俊作 |
公共図書館は,日本中どこにでもありよく使われている施設です。おおぜいの人が利用してその恩恵を受けている一方,ベストセラーを大量に貸し出して出版社の利益を損なっていると,作家や出版社からたびたび非難されてきました。最近では,書店が運営する図書館が大賑わいを見せています。ん?書店が図書館を運営? そもそも,どうして自治体は公費で本を買い上げて無料で住民に貸すようなことをするようになったのでしょうか。公共図書館はどのようにしていまのような運営のし方や利用のされ方になったのでしょうか。 本書は,わが国の公共図書館の歩みを,利用者,本棚,出版界との関係,図書館員,カウンターといった多様な観点からたどり,それぞれ,最初の頃はどうだったのか,それがどのような経緯で現在のようになったのかを探っています。根底にあるのは上記の疑問で,歴史から現在とはずいぶん違った図書館の姿が見えてきます。私たちは本書を通じ,図書館の歩みを相対化することによって,図書館は現在と別様でもあり得たのではないか,あるいは,これからなり得るのではないかと,その可能性を考えています。 本書の出版を私たちに呼びかけたのはみすず書房の持谷寿夫社長(当時)と東大の柳与志夫さんです。記録を見ると,お二人の呼びかけに応えて執筆者が集まり,検討を始めたのが2016年2月ですから,丸二年以上かけて出版の準備をしたことになります。検討には,執筆者,持谷さん,柳さんの他に,みすず書房の編集から守田省吾さん(現社長),さらに,「文脈の会」という以前あった図書館史の研究会から,春山明哲さんと森洋介さんのお二人が参加しました。執筆者が用意した構成案に春山さんと森さんの容赦ない突っ込みが入り,おかげで内容はぐっと締まったものになりました。検討の最後に守田さんが「面白い」とコメントされると,執筆者一同ほっとしたものでした。 執筆自体は各人の責任において行いましたから,1章1章スタイルは違っています。利用者から裏方の地味な作業まで,通して読んでいただけると,図書館の内部の論理や社会での立ち位置の変遷など,ひととおりのことが理解できるように作ってありますが,何せ今まで書かれなかったことが満載ですから,個々の章を単独で読んでも,十分に読み応えがあります。最後がまとめの章になっていて,全体を論評するようなスタイルで書かれていますから,あるいは最後の章から読まれても良いのかもしれません。
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