『脇役本 増補文庫版』濱田研吾 |
今年4月、ちくま文庫から『脇役本 増補文庫版』を上梓した。『脇役本 ふるほんに読むバイプレーヤーたち』(右文書院、2005年)より120ページほど増補し、文庫化した。 脇役本。ひとことで書けば「俳優本」である。筆者独自の定義は3つ。日本人であること。故人であること。好きな俳優もしくは関心のある俳優であること。自伝、エッセイ、写真集、闘病記、絵本、詩集、句集、評論、小説、実用書、雑誌、家族(遺族)が書いたもの、ファンがこしらえた研究書、法要の席でくばられる「まんじゅう本」、ジャンルは問わず。 文庫化にあたっては、18人分を書き下ろし、77人の俳優の名が目次にならんだ。脇役といっても、人それぞれ。脇でも印象的な主演スター(佐分利信、天知茂)、映画やテレビは脇でも演劇界では大物(滝沢修、八代目坂東三津五郎)、かつては主役で晩年は脇役(高田稔、市川百々之助)、生涯バイプレーヤー(中村是好、野口元夫)、セミプロの俳優(菅原通済、三國一朗)…。舞台、映画、放送と活躍の場も多彩である。 新刊文庫だが、古本屋さんに読んでほしい。紹介した脇役本はほぼすべて“古本”で買ったものだから。そもそも、3つの定義に当てはまる脇役本は、新刊ではまず見かけない。独断と偏見に満ちた体系であっても、こうして一冊にまとめると、見えてくるものがきっとあるはず。それは、プロの古本屋だからこそ感じられる特権、だと思う。 子どものころから、古い日本の映画・テレビドラマが大好きだった。ごひいき俳優の著作を探そうと、古本屋をめぐった。通っていた高校は、JR大阪環状線の沿線にあった。阿倍野の「古本のオギノ」、大阪球場の「なんばん古書街」、梅田の「阪急古書のまち」。懐かしく思い出す。脇役本は、古書価があまり高くない。それゆえ蒐めやすかった。 売りに出す古本屋なくして、脇役本を手にいれることはできない。個人が古本を売買する時代とはいえ、プロにはかなわない。東映時代劇の名悪役だった吉田義夫が、日本画家を志していた若き日々を綴った『波光先生を想う』(私家版、1978年)。古書展の棚にならべた月の輪書林さんの見立てなくして、この稀覯本と出会い、『脇役本』のトリを飾ることはなかった。 蒐め出して30年。未知、未見の脇役本はたくさんある。最近も「日本の古本屋」で、『語りもの 京都新劇史 その一』(京都新劇団協議会、1974年)という冊子を見つけた。劇団「くるみ座」を支え、映画やテレビで“こわいおばあちゃん”としてならした名女優、毛利菊枝の聞き書きである。これだから脇役本狂いはやめられない。 泉下の俳優について書くのは、楽しい。届かぬ手紙を書いているような、心地よさがある。続きも書きたい。これからも“ウブい”脇役本を、売りに出してください。待っています。
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