本の虫の本林哲夫 |
紙魚(しみ)をご存知でしょうか? 古書通のみなさんに対して今さらこんな質問を発するのもおこがましいかもしれません。おそらくどなたも古書の隙間からスルスルッとはい出して来る灰色の小さな虫に遭遇されたことがあるでしょう。本書で田中美穂(倉敷の古書店・蟲文庫の主)は次のように説明しておられます。 「フナムシを小さくしたような、銀色のあれ。シミ目シミ科の昆虫で英名はsilverfish。寿命は七、八年と思ったより長い」「その名前からして、いかにも本の天敵のようであるけれど、しかし、活字の上にうねうねとした喰い跡を残したり、穴を開けたりするのはシバンムシという茶色くてころっとした甲虫の仕業なのだ」。 なるほど、紙魚は本を食い荒らすわけではなかったんですね、安心しました。蟲文庫さんによりますと、鹿児島の大隅諸島から届いた古書に住みついていたヤマトシミは、ふだん見かけるものよりも、ひとまわり以上も大きく、かなり黒っぽかったそうです。どちらかと言えば南方系の生き物だそうで、関西の方で幅を利かせているらしいのです。もし万一「糸魚川ー静岡構造線」以東の方で紙魚を知らないとおっしゃる方がいらしても悲観(?)するにはあたらないのかもしれません。 本の間をウロチョロしながら本とともに暮し、本をなめるように生活している、まるで紙魚のような人たちのことを「本の虫」と申します。そんな本の虫五匹……古本界ではもうおなじみのオカザキフルホンコゾウムシ(岡崎武志)、オギハラフルホングラシムシ(荻原魚雷)、理科系女子タナカコケカメムシブンコ(田中美穂)に加えて、新刊書店のおもしろ話を数々披露してくれるノムラユニークホンヤムシ(能邨陽子、京都・恵文社一乗寺店勤務)、そして私ハヤシウンチククサイムシ(林哲夫)……が集りまして文字通り『本の虫の本』をまとめました。 本と本をとりまく世界について、五匹がそれぞれ分担したテーマを、短いエッセイとして執筆しています。見出しは155。用語集としての正確さも心がけながら、読んで楽しいように編集されています。巻中に挿入された赤井稚佳のカラーイラストも本好きならではのデフォルメが気持いいのです。どのページを開いても何かしらヒントになる、そう、本が読みたくなる、本屋・古本屋へ行きたくなる、そんな本に仕上がりました。どうぞ一度、立ち読みしてみてください、「座り読み」(ノムラムシ担当)でもけっこうです。 蛇足ながら、執筆者全員、糸魚川ー静岡構造線以西の生まれです。
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