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日本初の模型店記念誌『ピンバイス40年史』を編纂して――小売店の歴史を調べる

日本初の模型店記念誌『ピンバイス40年史』を編纂して――小売店の歴史を調べる

小林昌樹

今年10月に、両親が今も経営している模型店40周年の記念誌を発刊しました。

 副業として1977(昭和52)年に母が始めた模型店「ピンバイス」は、当初、駄菓子屋のような街のプラモデル屋として出発しましたが、父の脱サラにともない1980年代に専門店化し、日本に3つしかない飛行機専門のプラモ屋になりました。

 記念誌の編纂を頼まれたさい考えたのは「自分の調べ物の演習になる」ということでした。特定業界でそこそこ有名だった小売店の来歴を調べるには、どのような資料にあたればよいか? 以前『出版文化人物事典』(日外アソシエーツ, 2013.6)に協力したことがあり、そこで小売店(書店)の歴史は書かれづらいと知っていたからでもあります。

 律儀にも店HPの過去データは削除され、帳票類も2008年の建替え――それまで1952(昭和27)年の木造アパートを開店時改装した店舗――で失われていました。実務者が同時代、往々にして「史料的価値」が分からないという残念さ――これは私の勤務先ですらそう。台湾研究で有名な春山明哲氏が現役局長時代、調査局史にもならんと、わざわざ局中から集めた文書2箱が数年でまるっと消失したなど――を地で行く展開がありました。

 それで、まっさきに思いついたのは模型雑誌の広告です。『モデルアート』などの広告索引を総ざらいした結果が基礎資料となりました。聞き書きをした人ならわかるでしょうが、個々のエピソードは鮮明なのに、発生年がきわめてあいまいか、分からないのです。そういった場合、発行年月が明確な広告を見せて思い出してもらう、といった手法が役立ちました。これは勤務先で来館者と問答する際に――抽象的に「正しい」議論をするよりも――ややズレていても具体的に資料を提示して「これではなくて」と話を進めたほうがいい、という手法にも通じています。一時は「広告だけの復刻で1冊にしてしまおうか」と思ったことでした。

 1981年ごろの広告を見ると、プラモデル用塗料を自力で開発したり、ポリエステル・パテを業界で初めて小売りしたり、ゴム型による樹脂キット(ガレージ・キット。強撃五型やメルカバ戦車)を生産発売したり、とびぬけて先進的だったことが実証されます。

 そういった尖端的商品は広告に残されますが、一方で、絶版でないプラモ・キットを悉皆で陳列したことも(まるでジュンク堂です)、この店の魅力だったことは、いま思い出しました(40年史には書かれていませんね)。プラモ・キットは平置きが普通なのに、本のようにタテ置きで並べたのも悉皆陳列のためだったように思います。こんなことも書いておくべきでした。書店や個人の本棚で本がタテ置きになるのは明治20年代のことだなんて、今、誰も知りません。(未組立の)プラモの置き方なんかも誰も記述しませんね。

 商品の受容、つまりお客さんのありさまが意外と判らないことも出版史から知っていたので――図書販売史から直接は読書史を書けないのです!――今回は事前にお客さん方に寄稿をお願いしてみました。その部分が、モデラーからみた趣味史、模型店史の手がかりとなっているように思います。こんなことをしたのは『上野図書館八十年略史』(国立国会図書館支部上野図書館, 1953)に別冊『アンケート集』が付かないと完本と言えないというトリビアを半ば意識していたように思います。

 巻末に、小売店史を調べるにはどんな資料に当たればよいか、「模型店(プラモデルの小売店)を調べるには」を付けたので、これを読んだ人は他の店のことも調べられます。
 インターネットの無い時代、こういったリアル店舗にマニアが集まって新しいサブカルチャーを創っていったのでした。初期のころ深夜12時まで常連さんがたむろし、母がコーヒーを出していたことが思い出されます。ガンダムブーム初期に来店していたバンダイの営業さんにサンドウィッチを出したりもしていました。昭和的なおつきあいだったのでしょう。私も、キット販売前に常連さん手作り、ザクのフルスクラッチ・モデルがショーウィンドウに飾られていて、感心したのを憶えています。

 校正・版下PDF作成は友人たちがボランティアでやってくれました。印刷は同人誌印刷の「ちょ古っ都製本工房」(京都)さんにオンラインで注文して、300部で7万円ちょっと。これらの過程で、一冊の本ができるのにいかに編集機能が大切かわかりました。今回の企画は自費出版の演習ともなりました。
(国立国会図書館勤務)

記念誌『ピンバイス40年史』は当該店(東西線・門前仲町駅徒歩7分木場駅5分)の店頭で廉価頒布中です(通信販売はしていません)。
http://pinvise.net/
今回は5部、日本の古本屋サイトに申し込んでいただければ抽選で当選した方に無料進呈いたします。
これまた演習として納本もしたので、国会図書館で年末ごろには閲覧できるようになるでしょう。

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