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『出版の崩壊とアマゾン』で訴えたかったこと

『出版の崩壊とアマゾン』で訴えたかったこと

高須次郎(日本出版者協議会相談役・緑風出版代表)

 公取委による再販制の廃止要求は、一九七八年の橋口公取委員長の発言に端を発する。しかしこの発言は突然出たものではなく伏線があった。オイルショックによる狂乱物価の下で、出版界はそれまでの奥付定価表示を止めカバーによる値上げをはじめ、さらにはシールを張って値上げを繰り返した。これに大学生協連や消費者団体が怒り、当時の樋口公取委課長が問題にし、こうした安易な値上げ方法が横行する背景に再販制度があるとして橋口発言につながる。

 出版界と公取委の交渉で、部分再販・時限再販を認めた現行の再販制度が一九八〇年に発足する。これが再販制度存廃をめぐる第一期といえ、ここまでの廃止論には耳を傾けるべきものがあった。

 第二期は、一九八九年に始まる。日米貿易摩擦にともなう米国の一方的な再販制度と大店法の廃止要求である。まず指定再販品目が全廃され大店法が緩和され、法定再販の著作物再販に及んできた。出版・新聞・レコード業界は全力で反対運動を展開し、九八年の結論先送りを経て、二〇〇一年にかろうじて再販制度を当面存置させることに成功した。しかしその代償は大きかった。公取委の再販制度の弾力運用要求にあくまで抵抗した新聞業界に比べ、出版業界はバーゲンブックなど弾力運用に励むことで再販制度を守ろうとしたため、制度そのものの形骸化を招いてしまった。

 当面存置以降は弾力運用をする必要がないにもかかわらず、バーゲンブックなど値引き販売が蔓延した。そこには再販制度を守るためという大義名分を利用して、不良在庫を処分したい出版社の意図があった。また日書連の強い反対にもかかわらず、値引きであるポイントカードが普及し、体力のない中小書店が廃業していった。

 そしてアマゾンの登場である。アマゾンは消費税・法人税を払わないで競争優位を保持し、大幅なポイント割引や送料無料などを武器に、リアル書店や他のネット書店を圧倒し、大手ナショナルチェーンさえDNPの傘下に入るなどして敗退した。
 一一年に出版協が公取委の再販制廃止断念の言質をとり再販存置が確定するが、書協の再販研究委員会は当事者能力すら失っていた。出版物の軽減税率の不適用も、遠因は出版業界の弱腰にある。

 電子書籍は再販品目に追加指定されず、出版社は紙の書籍は定価販売できるが電子書籍では定価決定権を失い、窮地に追い込まれた。一四年の著作権法改正では、紙と電子の一体的な出版権を勝ち取れず、電子についてはアマゾンなどプラットフォーマーが単独で出版することも可能となった。

 アマゾンは、出版社との全面的な直取引を展望しながら、主帳合を大阪屋から日販に切り替えることで大阪屋を危機に陥れた。さらに日販の非在庫商品の出版社取り寄せ注文を中止し、直取引を拡大させることで、日販の危機を招来させている。いまや取次危機は出版社の命取りとなりかねない。この出版敗戦前夜をどうすれば乗り越えることができるのか?

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